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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
六章

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食の争い

 迷路内での宝箱探しは順調で、あれから二日で更に五つもの宝箱を見つけた。中身は普通のハンターなら喜ぶ品もあったのだが、今の俺たちが求めている巨大な魔石は見つかっていない。

 地図も六割以上が赤く染められ、残り四割に望みを託すしかないのか。


「会長、道幅の広い通路も手を出さないとダメっぽい」


「ふむ、戦力が増したとはいえ、数で押し切られては危険か」


 ヒュールミと熊会長が地図を睨みながら、あれやこれやと意見を交わしている。

 このまま、じっくり迷路探索をして魔石が出るのを辛抱強く待つのが、一番リスクが低く確実性があるのはわかるが、あまり時間をかけたくはない。

 これは全員が共通して思っていることだ。キコユたちは冥府の王との対話を求め、俺たちは仲間との合流と階層の正常化を何とかしたい。

 せめて、離れ離れになった仲間たちの安否がわかれば、落ち着いて事を運べるのだが。


「後に回していた場所は罠が多く死亡率の高い場所だ。未だに全貌が明らかになっていないので、手を付けずにいたのだが」


「探索するにしても、時間がかかりそうだぜ。会長、どうするよ」


「無事に全て回れたとしても、魔石が見つからないかもしれないのですよね」


「ふむぅ」


 熊会長が深く悩んでいる。慎重に進むとしたらどれぐらいの日数が必要なのだろうか。一週間程度じゃすまないよな、一ヶ月……下手したら数ヶ月も。


「これは、溶岩人魔を倒した方が確実やもしれぬ」


「溶岩人魔か。オレの知りうる情報は全て提供するが、間違いや補足は頼むぜ、会長」


「承った」


 詳しい説明をヒュールミがしてくれるのか。聞き逃さないようにしないとな。

 おっ、黒八咫とボタンも俺の横に並んで話を聞くようだ。


「溶岩人魔の厄介なとこは熱だ。あまりにも高温過ぎて、水をぶっかけても瞬時に蒸発するからな。それどころか、水が爆発して火が周囲に飛び散るそうだ」


 前に動画サイトで溶岩にペットボトルの水を掛けて、炎が周辺に広がった映像を観たことがある。少しの水ならやらない方がマシだってことか。


「殴るにしても素手だと殴った方の手がやられる。メイスやハンマーといった鈍器で何とかするのが一番だ」


 熊会長だと爪が溶けそうだよな。


「ここには魔法を使える奴が一人もいねえ。だから、やるなら大量の水をぶっかけて身体の一部を冷やし固めることにより、熱を取り除き打撃が通じる状況を作り出すしかねえ」


「冷やすといっても、どうやってですか?」


 キコユがすっと手を挙げてから質問を口にした。

 魔法使いがいないと断言されたら、疑問に思って当然だ。


「方法は幾つかあるが、担当はハッコンになる」


 全員の視線が集まったので、小さい方の〈氷自動販売機〉にフォルムチェンジして氷を出してみた。

 コロコロと足下に転がってきた氷を掴んだキコユは、目を見開いて驚いている。


「これ、氷じゃないですかっ! ハッコンさんは氷も作れるのですね」


「いらっしゃいませ」


 仲間は最近、何に変化してもリアクションが薄いので、こういった反応はとても心地いい。

 本番では巨大氷自動販売機になって、一気に氷を浴びせてもいいな。短時間ならポイントの消耗も抑えられる。


「まあ、正直、一番楽で確実な方法は……ハッコンに一番デカいあれに化けてもらって、上から結界ごと押し潰す方法だけどな。結界なら熱も遮断できるんだろ?」


「う ん」


 やっぱり、その結論に達するか。ラッミスがいたら止められそうだけど、ヒュールミは俺の能力を把握した上で、大丈夫だと判断してくれたのか。


「ただ、そうなると足止めの方法だ。あの落とし穴の近くに溶岩人魔が現れりゃあ、いいけどよ。そんなに世の中は都合よくいってくれねえからな」


「では、黒八咫に溶岩人魔を探してもらいましょうか」


「おっ、頼めるか。手は出さなくていいから、場所だけでもわかれば、今後の作戦が立てやすい」


 自由に空を飛べるというのは羨ましい限りだ。俺も空に浮かぶことは可能だし、移動もなんとかできるが、機動力は雲泥の差。

 偵察は大人しく任せておこう。


「では、今日の探索はここまでとするか。野営の準備を始めるとしよう」


 陽も落ちて辺りが暗くなってきたので、丁度いいタイミングだな。

 闇夜に飛ぶ黒八咫は闇と完全に同化しているので、敵に見つかることはないだろう。

 ヒュールミが素朴な疑問として、夜に鳥が飛んでも大丈夫なのかとキコユに訊ねたことがあったのだが、「第三の目が夜の闇も見通すそうです」との返答だった。

 第三の目という響きに若干惹かれるのは、男子諸君ならわかってくれると思う。


「今日はどっちが晩飯担当するんだ?」


 ヒュールミが俺とキコユを交互に見て、口にした何気ない一言で空気が一変した。

 そう、ここは戦場なのだ。自動販売機の品と畑の欠片から収穫される野菜はどちらの方が美味しいのか、それを競い合う場。


「昨日はハッコンさんが担当してくれましたので、今日は私が」


「い い か ら」

「だ す よ」


「いえいえ、今日はゆっくりしてください。新鮮な野菜は美肌や病気の予防にもなりますので」


 笑顔で拒否してきたか。

 朝昼晩と交互に食事を提供してきたのだが、キコユとしては畑の欠片から採れる野菜の方が美味しいと思っているようで、食事担当をやりたがるのだ。

 それは、自動販売機の食べ物が不満ではなく、畑の欠片から採れる野菜を食べてもらうことに喜びを感じているからだと思う。これも、畑に対する信頼の表れではないだろうか。

 俺としても自動販売機の商品を売ることにプライドもある。それに、商品を喜んでもらえるのが何よりも嬉しい。

 加えて、畑が俺と同じ境遇だと知り、負けたくないという対抗心まで生まれつつある。


「皆さんも、おいしぃぃぃ、野菜食べたいですよね」


 くっ、先に熊会長とヒュールミに仕掛けたか。二人とも野菜の味を思い出したようで、満更ではない緩んだ表情になっている。


「お か し も」

「だ す よ」


 俺の言葉にヒュールミが過剰に反応した。実は彼女、甘い物に弱い。頭を使うと甘い物が欲しくなるらしく、密かに甘味が好物だったりする。

 ただ、熊会長の反応は鈍い。ただのお菓子には興味ないと言わんばかりの態度だ。

 ふっ、だがここは経験の差を見せつける。何度も購入してくれる常連の一人である熊会長の好みは完全に把握済み。

 ここで俺は素早く〈自販機コンビニ〉へと姿を変える。

 商品が並ぶ四段の内、下の二段は色彩豊かなスイーツコーナー。上の二段に並べる品はこれだ!

 鮭おむすび、紅鮭おむすび、サーモンマヨ、寿司サーモン尽くし、焼き鮭の入った幕の内弁当。さあ、熊と言えば鮭。この怒涛の鮭尽くしに耐えられるかね!


「こ、これはっ! ふ、ふむ。今日はハッコンの商品で良いのではないか」


「そ、そうだな。オレも異論はねえぜ」


 熊会長は上の段、ヒュールミは下の段から目を逸らさずに素直な意見を言った。


「ずるいですよ、ハッコンさん! 見た目で釣るなんて!」


「またのごりようをおまちしています」


「もうっ」


 頬を膨らませて、ぷいっと横を向いている。

 拗ねているように見えるが、目元が笑っているのを俺は見逃していない。

 俺もそうだがキコユもやり取りを楽しんでいるようで、文句を言いながらも俺の用意したご飯に舌鼓を打っている。

 でも、今日のやり口は大人げなかったな。お詫びにスイーツを一つ多く渡しておこう。

 毎食、こういったバトルを繰り広げているので、キコユも急速に馴染んできている。新入りとして少し遠慮しているところがあったのだが、この調子ならもう大丈夫そうだ。

 まあ、だからといって食事担当はそう簡単に譲らないが。食料が提供できなくなったら自動販売機としての価値が激減してしまうから。

 女子供であろうがライバルに負けるわけにはいかない!





 次の日の朝。

 昨日は勝利の余韻に酔いしれて、珍しく睡眠を取ることにした。

 深夜から早朝にかけての見張りを、キコユたちが担当してくれたので、気持ち良く眠り朝を迎えると、そこには――湯気を上げる鍋がどんと置かれていた。


「おはようございます、ハッコンさん。野菜たっぷりのスープが出来上がっていますので、朝ご飯は準備されなくて大丈夫ですよ」


 してやられたっ! 初めからこれが狙いで見張りを交代したのか。くっ、昼は絶対に譲らないぞ。

 熱い決意を胸に秘めていると、寝ぼけ眼で荷台から降りてきたヒュールミが、眠気の取れない顔で鍋の前に座った。


「今日は野菜たっぷりのスープか。あれだな、どっちが担当でもオレは嬉しいけどよ。二人で分担したらどうだ。サラダとスープ、メインの料理とがっつり系とかよ」


 不意に放たれた言葉を聞いて、キコユと目が合った……気がする。こっちの目はないが。

 その日からお互いに一品ずつ担当することになった。

 まあ、今度は食後に果物かスイーツかで、もめるようになったのだが。



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― 新着の感想 ―
95sikiさんハッコンは前にスリープモードを獲得していますよ。ポイントの消費を抑えられるとか。それはさておき、ハッコンは目の代わりに防犯カメラがあるじゃないか。
[気になる点] あれ?ハッコンって睡眠という概念がないと思ってたけど、眠るんだな。
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