表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
六章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

128/277

探検発見

「北は殆ど塗り潰されておるな。罠が多くて面倒だったのではないか」


「落とし穴に何度か落ちかけましたけど、黒八咫が助けてくれたので」


 地図を覗き込む熊会長とキコユ。その地図はキコユが持っていた物で、既に移動して調べた箇所は全て赤く塗られている。


「もし、巨大な魔石を手に入れているのであれば、買い取らせてもらえないだろうか」


「すみません、宝箱から出たのは短剣とただの宝石や金貨です」


 荷台の片隅に無造作に置かれていた、ずた袋を持ってきたキコユが、口を縛っていた紐を緩めて中身を見せてくれた。

 おおおおっ、金銀財宝とはこの事か。金貨と銀貨が給食袋の様な革の袋に詰め込んである。


「ただの貴金属か。ふむ、ありがとう」


「私たちの目的は冥府の王との接触ですので、魔石が見つかった時は譲りますね」


「それは、ありがたいが……ボタンや黒八咫も含めた等分で金額を支払うこととしよう」


 ハンター協会の会長として、そこは譲れないようだ。始まりの会長もそうだったが、労働には対価という考えを徹底している。日本のブラック企業に見習わせたい。


「ハンターたちからの報告をまとめると、ここにも頻繁に宝箱が現れる」


「まだそこには行っていません」


 真剣に話し合っている二人の邪魔をしないように荷台で大人しくしていると、空から降ってきた黒八咫が目の前に着地した。

 翼を広げると優に二メートルを越えるので、その大きさはカラスの比じゃない。その羽は闇よりも深い黒でありながら艶がある、美しいと思ってしまう程に。

 三つの目が何を思ったのかじっとこっちを見つめている。カラスの好物は何だったか。光物が好きだというのは有名な話だが、食べ物は雑食だよな。

 そもそも、日本のカラスと生態が同じなのかという疑問が発生する。

 目が三つに足が三つ。顔はどこか気品というか品格を感じるのは気のせいなのだろうか。


「あら、黒八咫どうしたの。ハッコンさんが気になるの?」


「クワックワークワ」


「うんうん、黒八咫も畑さんとハッコンさんが、何処か似ていると思っているのね」


 畑と自動販売機。転生先は違うが境遇は似たようなものだからな。

 ただ、どう考えても俺の方が幸運だった。好きだった自動販売機だというのもあるが、直ぐにラッミスと出会えたのが何よりも大きい。

 こんな体だというのにダンジョン内を渡り歩けたのも、全て彼女のおかげだ。それに、ここにいる熊会長やヒュールミといった人々にも恵まれ、正直な話、生前よりも充実した日々を過ごしている。

 俺や畑以外にも日本から物に転生させられた人はいるのだろうか?

 いや、普通に人間として転生させられた人ならいるかもしれないな。一人だけならまだしも、二人もいるのだから、三人四人と見つかっても何ら不思議ではない……と思う。


「お、やはり、宝箱があるようだ。アレを片付けてから中身を確認するとしよう」


 通路の先に袋小路となった場所があり、奥に木製の宝箱が見える。ゲームでよく見るイメージ通りの宝箱だ。

 その前に、岩人魔、豊豚魔、炎飛頭魔が揃い踏みしている。合計で十体なので、問題なく倒せる数だが。


「ハッコン、炎飛頭魔を頼む」


「り よ う か い」


 炎飛頭魔だけは先に倒しておかないと階層主を呼ばれかねない。

 いつもの〈高圧洗浄機〉に変わり〈念動力〉でノズルを操る。

 排出口を絞り、撃ち出す威力を最大にまで上げる。そして、迫りくる炎飛頭魔の眉間目掛けてレバーを引いた。

 撃ち出された細い水流は炎飛頭魔の炎に触れた瞬間、じゅっと水が蒸発する音がしたが、水の威力が衰えることなく、その眉間を直撃する。

 ウォーターカッター並の水圧なので結構距離があったというのに、魔物の骨を砕き沈黙させる。炎飛頭魔は火さえ消してしまえば脆いので、向こうにしてみれば俺は天敵だろう。

 三体の炎飛頭魔を倒し、役割が終わったので戦場へ意識を向ける。


 熊会長は獅子奮迅の大活躍だ。この場合、熊奮迅の方がいいのだろうか。

 黒八咫も空からの強襲で敵を葬ることにより、上空にも警戒をしなければならない敵の注意が逸れ、地上で戦う熊会長やボタンが楽に立ち回ることができる。

 ボタンは荷台から解放されると、次々と魔物を串刺し、もしくは跳ね飛ばしている。この重量を楽々運べるボタンの体当たりは、猛スピードの車に跳ねられるのと同じぐらいの衝撃がありそうだ。

 実際、衝突した豊豚魔はきりもみ回転で宙を舞い、壁に激突するとピクリとも動かなくなっている。

 この強さ……移動式動物園というチーム名でハンター協会に登録したら、人気が出そうな気がする。もちろん、大食い団もスカウトして。

 キコユは俺の傍から離れずにじっと戦況を見守っている。〈結界〉が使えることを既に話しているので、黒八咫もボタンも遠慮なく暴れられている。


「よっし、片付いたな。宝箱の開封といこうか」


 あっさりと戦闘が終わり、死体はキコユが土の球に吸収させている。死体処理をしなくていいのは結構便利だ。俺は嗅覚がないので気にもならないが、普通は血の臭いが気になるみたいだし。

 キコユとしても土の球――畑の欠片に吸収させることにより、畑の力が増して意識を取り戻すのではないかと淡い期待を抱いているようで、積極的に死体処理をしてくれている。


「キコユ、今まで宝箱を開けた際に罠はなかったのだろうか」


「ええと、危ないかもしれないからって、黒八咫が宝箱を掴んで上昇して、落として開けていました」


 ダイナミックな開け方だな。それだと罠があっても関係ないけど、中に入っている宝が壊れやすい物だったら、どうするつもりだったのだろう。


「ふむ、では、今回は任せてもらうとしようか。あまり得意ではないのだが、少々の罠であれば失敗しても怪我を負うことはない」


 宝箱には鍵穴があるのだが、熊会長は取り敢えず鍵穴を無視して宝箱に手を掛け、開けようとした。ガタガタと音がして宝箱が揺れただけで開く気配はない。

 次にコートの内ポケットから針金のように細い金属を二つ取り出して、あの大きな熊の手で器用に掴むと鍵穴に針金を突っ込んだ。

 そして、鍵の解除作業をしていると不意に立ち上がり、針金を懐にしまった。時間はかかったが鍵の解除に成功――熊会長が爪を振り下ろした。

 あ、鍵開け失敗したんだ……。

 宝箱の鍵穴の部分が抉れ、宝箱の蓋が開くと中から何かが飛び出してきた。

 それを熊会長は素早く掴み取り、こちらに振り返る。その手には一本の矢が握られている。


「やはり、細かい作業は苦手だ。この手だと無理があるのでな」


 熊の手はお世辞にも細かい作業に向いているとは言えない。鍵開けが得意なハンターとかを雇った方がいいのだろうか。

 でも、この階層にはハンターが他にいなかった。これからも強引に宝箱を開けていくしか手段はないようだ。


「今回は矢で助かったが、爆発系の罠があった場合、魔石があっても粉砕される恐れがある。一度戻って対策を練る必要があるかもしれん」


 道具屋や武器屋はハンター経験者の可能性もある。それに、手先は器用だから熊会長よりかは成功率が高いだろう。


「まずは、中身の確認だ」


 開け放たれた宝箱の中から、熊会長は野球のボールぐらいの赤く輝く石を取り出した。

 お、これって魔石なんじゃ。何かそれっぽい見た目だけど。


「魔石だが……これに内封されている魔力で転送陣が稼働するのかがわからぬ。しまったな」


 あっ、そうか。ヒュールミがいないと、どの程度魔力が必要なのか判断がつかないのか。俺も熊会長もうっかりしていた。


「すまぬが、一度戻ることにしよう。キコユよ、構わぬか?」


「はい、いいですよ」


 キコユの許可も得たので、一度ヒュールミの元へ戻ることとなった。

 二度手間ではあるが、キコユと黒八咫とボタンという頼もしい仲間を得たので、無駄な探索ではなかった。





 帰りは一度通った道を戻っただけなので、特に問題もなく半日も経たずに迷路の入り口まで辿り着いた……までは良かったのだが、ここでアクシデントが発生した。


「すみません、やっぱり通れないみたいです」


 入り口に見えない結界をどうやっても、土の球である畑の欠片が通り抜けられないのだ。


「前も試してみたのですが通れなくて、諦めて迷路を探索していました」


 だから一ヶ月もの間、一度も戻らないでずっとそこにいたのか。

 黒八咫もボタンもキコユも問題なく通れる。この結界はダンジョンの魔物の波長で判断して出入りを禁じているらしい。土の球が通れない原因は迷路の中にいる魔物を吸収したことで、その波長が沁みついてしまったのではないかという、ヒュールミの見解だ。

 ちなみに、ヒュールミは会長が呼んできたので、今、迷路の外から結界を調べている。


「一旦、土の球だけ置いて、戻るってのはダメなのか」


「すみません。畑さんを置いて行って、その際に何か有ったら私は……」


 土の球を抱きしめたまま、俯いているキコユは一緒じゃないとダメだと言い張っている。


「それに、出る手段がなければ、ずっと畑さんは迷路から出られないことになります」


「ま、そうだな。出る手段か。一つ試してみるとするか。ハッコン手伝ってくれ」


「いらっしゃいませ」


 何をするのかはわからないが、ヒュールミの頼みなら断る理由なんてない。

 ヒュールミの指示に従い、熊会長が結界を跨ぐように配置した。横向きで右側が迷路の中に、左側が迷路の外にある。


「んでもって、ハッコン結界発動を頼む」


 何を狙っているのかわからないが〈結界〉を発動させた。


「おっし、そっから、ええと、キコユだったか。土の球持ったままで、ハッコンの結界に入ってくれ」


「は、はい」


 キコユも良くわかってないが従ってくれている。


「よしよし。でだ、ハッコン。その結界で迷路の入り口の結界を弾けるか?」


 ああ、なるほど。そういうことか。意識を集中して、迷路の見えない結界の侵入を許可しない!

 見た目には変わらないが成功したと思う。何となくだが。


「い い よ」


「流石だな、ハッコン。じゃあ、ハッコンの結界から出ないように気を付けて、こっちに渡ってくれ」


 キコユは意を決して、ぎゅっと目を閉じると俺の〈結界〉を走り抜けて、迷路の外へと飛び出した。


「で、できました!」


「おーっし、これで合流達成だな。改めて、よろしくな、キコユ……と黒八咫、ボタン」


「よろしくお願いします、ヒュールミさん」


「クワックワー」


「ブフーッ」


 振出しに戻る結果とはなったが、ある程度の情報と仲間を得たのだから収穫としては充分すぎるだろう。

 今日はゆっくり休んでから、ヒュールミたちと相談して明日からの対策を練らないと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ