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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
六章

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再び迷路階層

 入口を抜けると殺風景な光景が広がっていた。

 荒野に点在する建物は十軒もない。この階層の寂しさは相変わらずだ。

 建物が全く破損していないということは、魔物が迷路を抜け出ていないということだろう。

 ここは安全なようなので緊張感が少し緩んだ。


「魔物はおらぬようだが、食料はどうしておるのか」


「転送陣が使えなくなってかなり日数が過ぎているよな。下手したら餓死してねえか……」


 ヒュールミと熊会長が顔を見合わせ、慌てて一番近い二階建ての素朴な住居――ハンター協会へと跳び込んでいく。


「あっ、ボミー会長! 転送陣が復旧したのですかっ!」


 室内のカウンターの向こうにいた二人の女性職員が身を乗り出して、大声を張り上げている。

 ここの二人が無事で良かった。見たところ元気なように見えるので、食料の備蓄が大量にあったのか。


「その話は後だ。食料は足りているのか」


「え、ええ。転送陣が使えなくなる三日前ぐらいでしょうか。道具屋の御主人が発注ミスをして大量の保存食を仕入れてしまったのですよ。そこで、ハンター協会が立て替えて、地下倉庫に保存していましたので」


 不幸中の幸いとはこのことだろう。どうりで、痩せ細ってもないのか。


「でも、助かりました。毎日、保存食しか食べていませんでしたので、ハッコンさんが来てくれて大助かりです!」


 需要はあるようで安心した。じゃあ、自動販売機として活躍しますか。

 災害時は料金が無料になる自動販売機は実際に存在しているので、俺も彼ら? を見習い無料で提供することにしよう。

 職員の一人が残りの住民を呼びに行き、もう一人の職員は二階にいる迷路階層の会長を呼びに行った。

 待っている間に住民が来てから直ぐに食べられるよう、机の上に飲み物と食べ物を並べて置く。ここは子供がいなかったから、大人向けのラインナップでいいか。

 栄養が偏っているだろうから、栄養補助食品と健康ドリンクは必須かな。あと、食後の果物でビタミンも補給してもらおう。


 準備をしていると住民よりも早く二階から職員ともう一人――丸々とした小さな女性が下りてきた。

 顔が大きく目と口も負けずに大きい。髪は肩より少し下まで伸びて、色は砂漠の乾燥した砂のような色をしている。服装は髪と同じ色のワンピースで手足には同色の手袋とブーツといった格好だ。

 ハンター協会の会長は同色で揃えなければならないというルールでもあるのだろうか。

 それよりも気になるのはその見た目で……丸いのだ。たぶん、種族は人間だと思うが見事なまでの三頭身で、頭が大き過ぎて体のバランスが雪だるまのようだ。


「清流の会長、助けに来ていただけたのですか」


「ああ、迷路の会長。この度の異変には気づいておるか」


「転送陣が使用不可になったことですよね」


「それだけではない。魔物が大量発生しておるのだが、それを操っているのが魔王軍の左腕将軍だ」


「そんな大ごとになっていたのですか。ああ、やはり、私のような会長の中で最も実力がなく、この辺ぴな階層に送られるような女には、そんな情報も回ってこないのですのね。冥府の王が現れた際に優秀なハンターを送れなかった不甲斐ない会長ですから。ええ、わかっています。私が会長の器でないことぐらい。こう見えても、あーら、その階層は暇でいいですわねぇ、という陰口にも負けず、日夜涙をこらえて頑張っているのですよ。そう、あれは三日ほど前のことです……」


 止めどなく愚痴が口から溢れ出しているぞ。

 熊会長が口を挟む隙が見つからずに、横目でこっちに助けを求めている。

 あっ、職員が二人とも目を逸らした。


「あのようになってしまうと、会長は止まらないので、落ち着くまで待ちましょう」


 職員が関わり合いになろうとしないのも無理はない。かなりの話し好きらしく言葉が濁流のように溢れ、何処で息継ぎをしているのか全くわからない。

 ハンター協会にやってきた住民たちが食事を始め、職員も一緒になって食べている。

 一通り食べ終わった住民に感謝されていると会話が終わったようで、疲れ切った熊会長と血色の良くなった迷路の会長が並んで歩いてきた。


「貴方がハッコンさんなのですね、ご助力感謝いたしますわ。悩みが一つ消えて、私もお腹が空きましたので、何かいただけませんでしょうか」


 何が好きなのかはわからないが、何となく甘い物とかこってりしたのが好きではないかと予想して、カロリーが高そうなのを出しておく。


「ここにいるのが、迷路階層に居る者の全てで間違いないだろうか」


 迷路会長ではなく、職員に声を掛けている。


「住民はこれだけなのですが、迷路階層に出かけてから戻ってきていないハンターが五人います。もう、一ヶ月は過ぎていますので、生存している可能性は低いですが」


「ちょっと待って、もう一人いたでしょ。異変が起こる少し前に、動物を連れた綺麗な女の子。あの子って転送陣で戻ったのかな」


 眼鏡を掛けた方の職員が顎に手を当てて、首を傾げている。隣の職員もつられて同じ動作をしている。


「えっ、そんな手続きしてないわよ」


「じゃあ……可愛らしい女の子だったのにね」


 動物を連れた女の子か。動物に芸をさせる大道芸人だったのかもしれないな。

 ダンジョンでは娯楽が少ないので、各階層を渡り歩く芸人がいるという話を聞いたことがある。タイミングが悪かったのだな、可哀想に。


「そうか。ただでさえ危険な場所で、迷路内には魔物が異常発生していることだろう。希望はもたぬ方が良いか」


 それから、何があったのか情報交換を終え、道具屋に転送陣を作動させる為の魔石がないか、店主に質問している。


「迷路内で巨大な魔石が見つかることは多々あるのですが、一か月前に向かったハンターたちも帰ってきていない状況ですので、あいにく在庫はありません」


「そうか、ありがとう」


 ここにいる限り安全は確保されそうだが、打開策が無いようだ。


「転送陣をどうにかしないと、どうにもなんねえぞ」


「すまないが、ヒュールミはいつ作動しても大丈夫なように、調整してもらえるか」


「それは構わねえが、動力はどうすんだ」


「それについては考えがある。だが、まずは転送陣がまともに動かなければ話にならぬ」


「ふーん。まあ、あっちでコツは掴んだから、正常化させるのはそう難しくないぜ」


 ヒュールミは違和感を覚えながらも、即座に転送陣へと向かった。

 熊会長の考えって何なのだろうか。この状況だと打てる手は限られている。

 魔力が足りなくて魔法陣が作動しないなら、魔力を補う魔石とやらが必要。

 でも、それは道具屋にもハンター協会の倉庫にもないようだ。となると……まさか。


「か い ち よ う」


「何かな、ハッコン」


「あ そ こ に」

「い く き」


 そこが何処か指摘していないというのに、熊会長には伝わったようで重苦しく一度頷いた。


「ハッコンにはバレてしまっていたか。そうだ、迷路の中に取りに行くしかあるまい」


 やっぱり、そうか。あの迷路には自然発生する宝箱が多く存在して、その中身は一獲千金のお宝が眠っているらしい。

 その中に巨大な魔石がある可能性に賭けるというのか。


「実際、迷路内部の宝箱から、膨大な魔力を内包した魔石が見つかったのは一度や二度ではない。そうだったな、迷路会長」


「ええ、そうですが、迷路の中は魔物の巣窟ですわよ。優秀なハンターを引き連れて行くのであれば止めはしませんが……熊会長だけではどうにもなりませんわ」


「確かに。だが、ここで手をこまねいている訳にもいくまい。危険を承知の上で進むしかない時もあるのだ」


 熊会長の強さは知っている。実力は疑いないが、問題は体力だ。老夫婦と同年代ということは、かなりの高齢だということだ。

 熊人魔は人間と歳の取り方や寿命が異なるのかもしれないが、だとしても、危険なことには変わりない。

 魔物が溢れんばかりの迷路に一人で突入するなんて無謀すぎる。だけど、この階層にはハンターも戦力になる人も存在しない。ならば――


「い っ し よ に」

「い く よ」


 俺が同行するしかない。食料問題もサポート要員としても役に立つ自信はある。


「来てくれれば助かるが、良いのか。生きて帰れる保証はないのだが」


「う ん」

「ま か せ て よ」


「恩に着る。ハッコンには助けられてばかりだな」


 そんなことはないよ、熊会長。魔道具としてではなく、一人の人格として扱ってもらっていることがどれだけ嬉しいか。

 清流の湖階層で過ごさせてもらっている恩に比べれば、お釣りで銀貨が溢れるぐらいだ。

 それに早くこの階層を脱出して、何処に行ったかわからないラッミスたちを探しに行きたい。

 問題なのは飛ばされた階層と誰と一緒にいるかだよな。

 ミシュエルと一緒なら戦力的には心配がない。ラッミス相手ならコミュ障も少しは改善されている。

 始まりの会長も熊会長の口振りだと安心できるだろう。

 シュイは後衛なので前衛のラッミスとの相性はいい。だが、食料問題が……食べ物が一杯ある場所に飛ばされていますように。

 でだ、ヘブイとだと……戦力的には問題がない。だけど、変態だからなぁ。靴にしか興味ないから身の危険は全くないのだけど、別の意味で心配になる。

 うん、やっぱり、ここの問題をさっさと解決して探しに行かないと!


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