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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
六章

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人と熊と自動販売機

 転送陣が紅い光を放ち、部屋中が赤く染められる。

 目も眩むような光が消えると、そこには――ヒュールミと熊会長がいた。

 あっ、敵が現れる流れじゃないのか。


「くそっ、してやられたっ!」


「皆は何処に……」


 床を蹴りつけて悔しがるヒュールミ。辺りを見回し仲間の安否を心配している熊会長。

 俺は一人でなくなったことに、ほっと安堵の息を吐きたい気分だ。


「いらっしゃいませ」


「おおっ、ハッコンもいたのか。何で部屋の隅にいるんだ?」


「お主も無事か。ここは清流の階層……ではないな。部屋の造りが違う」


 熊会長は一目見て、この部屋の違いに気づいたのか。流石だな。

 ヒュールミは床の転送陣に手を当てて、何やら調べているみたいだ。


「転送陣に魔力が満たされてねえ。これじゃあ、こっちから飛ぶことは不可能か」


「ヒュールミよ、一体何がどうなったのか教えては貰えぬか」


「し り た い」


 何があったか予想はつくけど、専門家からの説明が欲しい。


「ああ、説明がまだだったな。始まりの階層の転送陣に何らかの手が加えられていたっぽい。ケリオイル団長たちの誰かがやった可能性がたけえな。転移系の誤操作を促すように発動の障害になる魔法が仕込まれていた……と思う。事前に調べたつもりだったが細工を見破れなかった、本当にすまんっ!」


 唇を噛みしめ頭を下げるヒュールミを責める人間はここにはいない。

 団長たちが離脱したばかりなのだから何か変化はないか、みんながもう少し慎重に行動すべきだった。


「ヒュールミが悪いわけではない。我々も油断していた。転送陣が制御不能になり、別の階層に飛ばされたという考えで間違いはないか」


「その認識でいいぜ。たぶん、仕掛けた側も誰が何処に飛ばされるかはわかんねえと思う。そこまで高度な仕組みを短時間で仕掛けるのは不可能に近いからな」


 飛ばせる場所と人を選べるなら、俺は単体で別の階層に送られそうだからな。運ぶ人がいなければ、ただの鉄の塊だ。


「問題はここがどの階層かということか。迂闊にその扉から出る訳にもいかんな。敵に囲まれている可能性もある。すまんが、ハッコン。向こう側から開けられぬように、扉の前に移動させても構わぬか?」


「いらっしゃいませ」


 扉は内開きみたいだから、俺がいればそう簡単に開けることはできないだろう。

 熊会長は俺を抱え上げると、扉の前にゆっくりと下ろした。

 そうか、熊会長の力なら俺を持ち上げるぐらいは平気なのか。ラッミスの怪力の陰に隠れていたが、その力は相当なものだよな。

 そういえば、俺はこのダンジョンの階層が何階層なのか未だに知らない。ちょうどいい機会だ、質問してみるか。


「か い せ う」

「い く ら あ り」

「ま す か」


「ハッコンはダンジョンあんま詳しくなかったな。んじゃ、状況の確認も兼ねて説明するとすっか」


 ヒュールミは豪快に胡坐をかくと、大きく息を吐いた。少し落ち着きも取り戻せてきたようだ。


「このダンジョンは下へ下へと潜っていくタイプでな、上から順に始まりの階層、亡者の嘆き階層、清流の湖階層、迷路階層、灼熱の砂階層、闇の森林階層、犬岩山階層ってなってんだぜ」


「補足すると、その下に永遠の階層があり、そこは攻略中だ」


 今のところわかっているのは八階層までなのか。まだまだ、先は長そうだな。


「オレたちの拠点である清流の湖階層は第三階層とも呼ばれているな」


「各階層にはハンター協会と会長が存在する。優秀な者ばかりだ。この状況でも耐えていると信じたいのだが」


 今のところ清流も始まりも滅んではいない。だが、他の階層も耐えているかどうかは不明なのだ。この扉を開けた先が廃墟であっても何ら不思議ではない。


「今すぐにでも清流の湖階層に戻りたいんだが、正常に使えるようにしたところで……転送陣の魔力が足りねえな」


「転送陣の魔力はダンジョンが存在しうる限り、尽きることはない筈なのだが」


「これも異変が関係しているんじゃねえか。相当な魔力を注げば一回ぐらいは使えそうだけどよ、オレもそうだが熊会長も魔力殆どねえだろ」


「すまぬ。せめて魔法使いがいれば」


「いや、魔法使いが二、三人いたところでどうしようもねえ。魔力を蓄えた魔石のデカいやつがあれば、何とかなるかもしんねえな」


 魔力を蓄えた石か。魔法の電池みたいな物だと考えてよさそうだな。

 そこからは特に案も浮かばないようで、ヒュールミは転送陣を調べ、熊会長は室内を歩き回り、時折、壁に耳を付けて外の音を探っている。

 よっし、頭を使うと糖分が欲しくなるらしいから、何か甘い物を提供しよう。

 二人を見た感じでは室内は寒くも暖かくもないようなので、クレープでも出そうかな。紅茶もセットで。


〈自販機コンビニ〉になってスイーツを出すのもありだが、何が起こるかわからない状況だ。フォルムチェンジできる時間は二時間なので、万が一の為に時間は減らさずにおきたい。

 二人は小腹が空いていたようで、美味しそうにクレープを頬張っている。


「まだ、オレらはついていたよな。ハッコンがいるから食料の心配が必要ねえ」


「そうだな。飢え死にだけは避けられる」


 お役に立てて光栄だよ。でも、そうなると、他のメンバーが気になってしまう。

 あの時、転送陣に乗っていた残りの人は――ミシュエル、始まりの会長、シュイ、ヘブイ、そして……ラッミス。

 戦闘能力が無いのは始まりの会長だけで、あとは個々の能力に優れているから、そう簡単に魔物に倒されるとは思えない。


「もし、始まりの会長が単独で飛ばされていたら、やべえかもしんねえな。戦う術がねえだろ」


 ヒュールミも同じことを心配していたのか。自分と同じように戦えないから、余計に気になっているのかもしれない。


「いや、それは心配に及ばぬ。始まりの会長はかなりの腕だ。そもそも、ハンター協会の会長は全て元ハンター、もしくは現役のハンターしかなれんのだよ」


「お、そうなのか。それは知らなかったぜ」


 そうなんだ、それは朗報だよ。じゃあ、無力な人は一人もいないのか。心配の種が一つ減ったな。


「となると、誰がどの階層に飛ばされたのか。始まりと清流に飛ばされたら問題はないが、外れは亡者、迷路、灼熱、闇森林、犬岩山、永遠の六ヶ所か」


「おそらくだが永遠は除外しても構わんだろう。あそこには第七階層の階層主を倒さなければ到達できぬ。冥府の王が完全に支配できておらぬ状況では、その操作は難しいと思われる。希望的観測ではあるが」


「いや、間違ってねえんじゃないか。転送陣を誤操作させる仕組みだったからな。本来いけない階層には飛べないって考える方が妥当だ」


 確率は五分の一に減ったのか。みんなが安全な階層に飛ばされていることを祈るしかない。もし、危険な階層だとしても一人じゃないといいのだけど。


「まあ、そんな状況だが、他人の心配よりもまず、オレたちだよな」


「ここがどの階層であるのかを調べねばなるまい。扉を少し開けて、外の様子を窺ってみるとしよう。念の為にヒュールミはハッコンの傍に」


「おうさ、ハッコン頼むぜ」


「いらっしゃいませ」


 何があろうとも守ってみせるよ。

 ここがどの階層なのか不安はあるが、戦闘力と判断力を兼ね備えている熊会長がいる安心感がかなり大きい。

 転送陣の問題もヒュールミがいるので、他の人たちと比べたら解決する可能性も高い。

 俺は食料と守りを担当するのが主な役割だ。バランスが悪いパーティーじゃないよな。

 熊会長が俺をそっと持ち上げて、扉脇に移動させた。


「では、開くとしよう。声を潜めておくように」


 一応〈結界〉の準備をしたまま、扉の先は熊会長の大きな背に遮られて見えないので、耳を澄ませておくことにする。

 ギィーと扉の軋む音がして、外気と外の明かりが室内に入り込む。

 室内も灯りはあるが、外は昼間らしく光量が全く違う。それ以上の情報はこの位置からでは得られないので、熊会長の結果報告を待つしかない。

 扉の隙間が少し大きくなり、会長が首だけ出して外を覗いている。その後ろ姿が少し可愛らしいが、黙っておこう。

 三分程度だろうか、首をひっこめて扉を閉めるまでにかかった時間は。


「ふむ、この階層がどこであるかは理解できた。迷路階層のようだ」


 迷路階層か。清流の湖階層の次だよな。俺が階層割れだったかに巻き込まれて墜落した場所。


「迷路階層か……運が良かったのかもしんねえな」


「ふむ、見た感じでは魔物が暴れている様子もなく、いつものように閑散とした風景ではあるが」


 確か人気が無くて人の出入りが少ない階層だった。俺たちが来た時も久しぶりの訪問者だったので歓迎されたのを覚えている。


「魔物がいねえってことは、迷路の結界が解かれていないってことだろ」


「ああ、迷路内部は魔物で溢れている可能性が高いが、外には出て来ておらぬようだ」


 そういやここの迷路からは魔物が外に出られない仕様になっているのだったか。

 迷路の中に入らなければ安全が保障されているのならば、確かに幸運だったのかもしれない。だけど、そうなると残りの面子が危険な階層に飛ばされた可能性が高くなる。

 自分は助かったと素直に喜べる状況ではないな。


「まずは、この階層の住民に話を聞いてみるとしよう。道具屋に魔石が置いてあるやもしれぬからな」


「そうだな。まずは情報だ」


「う ん う ん」


 ここは集落と呼んでいいのか迷うレベルで、建物が数件あるだけだから直ぐに情報収集は終わるだろう。俺も聞き逃さないように……ん? あれ、ちょっと待って。移動手段どうするんだ。

 背負子は今も装着されたままだが、もしかして俺はここで放置プレイなのか。


「お い て く の」


 当たり前のように、いつもラッミスが背負っていたので、二人とも俺をどうするか全く考えていなかったらしく、俺を置いて扉を出ようとしたところでハッとした表情になった。


「そうか、ラッミスがいねえんだったな」


「その背負い紐が調整できるのであれば、運ぶのは任せてもらおう。ラッミスぐらい軽々と背負えるわけではないが」


 ヒュールミがベルトの長さを調整して熊会長でも背負えるようにしてくれた。

 俺を担げたのだから背負えるだろうとは思っていたが、軽々とはいかないようだが問題なく背負えたようだ。

 ラッミスが背負うと俺の方が大きいので違和感しかなかったが、熊会長は身長が二メートルを軽く超えているので、俺を背負っていても不自然な感じがしないかもしれないな。


「あれだ、妙に似合ってる。会長専用の背負い袋みたいだぜ」


「ふむ、結構な重量だが。移動する分には問題ない」


 取り残されないで良かったよ。これで俺も移動手段を手に入れたことだし、迷路階層の調査に乗り出せそうだ。


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