拠点と告白
隠された扉に地下へ続く階段。元男の子としてはわくわくするシチュエーションだ。
秘密基地っぽくて、こういうの憧れるな。愚者の奇行団というネーミングセンスはあれだけど、この仕組みは素晴らしいと思う。個人的にだが。
「へえ、魔道具を扉に仕込んでいるのか。これは叩き方の感覚で反応しているか、それとも、団員のみが開け閉め可能な手続きをしているのか」
「えとね、両方らしいっすよ。関係ない人が真似して叩いても扉開かないっす」
入り口を見つめ感心しているヒュールミにシュイがあっさりと答えている。こういうのって秘密事項じゃないのかな。
地面にぽっかりと空いた入り口を覗き込むと、階段が見えるだけでその先は闇に沈んでいる。
「んじゃ、みんな行くっすよ」
シュイを先頭にミシュエル、ラッミス、俺、ヒュールミ、ヘブイの順で降りて行く。
途中、シュイが壁際を弄っていると階段に光が灯った。光源を見ると上の方に蛍光灯のような物が見えた。魔道具の一種なのだろう。
螺旋階段になっているのか。ぐるぐると弧を描くように下まで降りると、目の前に鉄製の扉があった。その扉には手のひらサイズの水晶が埋め込まれていて、そこにシュイが手を当てている。
この光景、スオリの屋敷でも見たな。この世界では結構メジャーな魔道具を使ったセキュリティーなのかもしれない。
力を込めているようには見えなかったのだが、ゆっくりと扉が押し開いていき部屋へと順番に入っていく。
そこは大きな長机があり、それを取り囲むように座り心地の良さそうな椅子が配置されている。壁際に大きな暖炉もある、大広間といった感じか。
上座に当たる場所にはケリオイル団長が座っていて、フィルミナ副団長と紅白双子も席に着いている。
「おう、好きな席に座ってくれ。ハッコン悪いけど、全員の飲み物出してもらっていいか。備蓄のお茶よりそっちの方が旨いだろ」
「いらっしゃいませ」
全員お得意様だからね、好みは全て把握しているよ。自動販売機として喜んで提供させてもらおう。
ラッミスが全員に飲み物を運び終わると、俺の右隣の席に腰を下ろした。左隣はヒュールミが座っているな。
ミシュエルが隣を狙っていたようで、羨ましそうにこっちを見ている。キミはもう少し他の人と触れ合って慣れないと。
「おっし、みんな座ったな。ようこそ、愚者の奇行団アジトへ。まあ、何もないが寛いでくれ。今日集まってもらったのは他でもない、俺たちの目的を話そうと思ってな」
団長の望みを聞かせてもらえるって事だよな。興味があるから集中して聞かせてもらおう。
「まず、おさらいだが。このダンジョンを制覇した際に階層主のコインの数だけ願い事を叶えることができるってのは、覚えているな?」
一番重要なところなので、みんな忘れていないようで大きく一度頷いている。
「最下層に到達されし者。汝の願い一つだけ叶えよう。階層を守りし強靭なる主を討伐した証を捧げよ……でしたか、言い伝えでは」
ヘブイが朗々と読み上げた言葉に、ケリオイル団長が満足そうに頷いた。
「おう、そうだぜ。これだけなら眉唾なんだが、ダンジョンってのはここだけじゃなく各地に存在している。実際、別のダンジョンの最下層まで到達したチームもあってな。話によると本当に願いを一つ叶えてもらったそうだ」
ダンジョンって各地に点在しているのか。仕組みはここと同じ感じなのかが、少し気になる。
「ですが、到達したという証拠はないのでは」
「ヘブイは結構情報通だったよな。南西の国にダンジョンがあったのは知っているだろ」
「十年前ぐらいに突如消滅したダンジョンですか」
「それだ、それ。あれは最下層に到達して願いを叶えたから消滅した。これは参加していたメンバーから直接聞いた情報だ」
願いを叶えるとダンジョンが消滅する。それはつまり……。
「えっ、ここも最下層まで行って願いを叶えたら、消えちゃうの! 清流の階層も!?」
その答えに到達したラッミスが椅子を吹き飛ばしながら、勢いよく立ち上がった。
そこまでの反応は見せていないが、ヒュールミとミシュエルも驚いた表情をしている。
ダンジョンが消えるのか。ここで商売している人たちはどうなるのか。いや、商売うんぬんよりも突然消えるとなったら、ダンジョン内の人は死ぬことになるのか?
「団長。ダンジョンが消える時にダンジョン内にいる人々はどうなる」
腕を組んだまま背もたれに全身を預け、鋭い目つきでヒュールミが疑問を口にした。
俺を含めた大半の人が同じ疑念を抱いていたようで、視線が団長の口元に集まっている。
「ダンジョンの外に強制排出されるようだぜ。ダンジョンと一緒に消滅なんてオチは無いから安心してくれ」
良かった。清流の階層の住民が巻き込まれて死亡、とはならないのか。もしそうだったら、ダンジョン制覇に手を貸すのを止めるところだったよ。
「じゃあ、安心だね。あ、でも、ダンジョンが消えたら住んでいる人は困るよね」
「まあ、そうだが。それは覚悟の上じゃねえか。自分が死ぬかもわからない状況で商売やっているような連中だぞ。ダンジョンが消えて追い出されても文句は言えねえさ。まあ、俺たちが願いを叶えたら、追い出された奴らに幾らか金を出してもいい。願い事以外に宝も手に入るだろうしな」
ダンジョン内に住居を構えている人は殆どが商売人かハンター。孤児院のような例外もあるが、子供たちだってハンターが残していった孤児なので関係者ではある。
それに愚者の奇行団が制覇するとなれば、シュイの願いも叶うということだ。孤児院の心配はいらないな。
「願いさえ叶えられたら、お金はどうでもいいです。今まで積み立ててきた団の貯金も吐き出しましょう」
お金に厳しいフィルミナ副団長が躊躇なく宣言した。団長と副団長の願いは金には換えられないものらしい。
「んでだ、俺と副団長の望みを明かそうと思う。今までずっと誤魔化してきて悪かったな」
そう言って団長は立ち上がると、後ろの暖炉脇に移動した。
壁に手を這わせて何やら呟くと、壁が横にスライドして入り口が現れた。ここにも仕掛け扉があったとは。
「えええっ、そんなところに部屋あったっすか!」
シュイは知らされていなかったようで驚きの声を上げている。ヘブイは眉がピクリと動いただけか。
あれ? 紅白双子に驚いた様子がない。彼らは知っていたのか。付き合いが古いみたいだから、二人は教えられていたのかもしれないな。
「おう、こっちに来てくれ」
団員にも隠していた部屋か。一体そこに何があるのか、期待もあるが不安も感じている。
秘密の部屋には禁断の宝や研究施設ってのが王道か。怪しげな生物とかが謎の液体が入ったガラスの筒の中にいたりするよな。
そんな馬鹿なことを考えながら、ラッミスに背負ってもらい隠し部屋に入った。
「えっ」
「何だこりゃ」
ラッミスが口元を押さえ、ヒュールミが目を見開きそれを凝視している。
無機質で飾り気のない部屋には、簡素なベッドだけがぽつんと置かれていて、そこには一人の少年が眠っている。それも巨大な水晶の中で。
十歳にも満たない少年は死んでいるようにも見える。顔は血色がよく、動かないが生きているのではないかと思わせる生気を感じた。
少年は布に穴を開けただけの様な粗末な服装。髪は灰色、目は閉じられている。整った顔つきで、安らかな寝顔だ。
「微かですが気配は感じます。死んではいないようです」
ミシュエルが気配察知をしてくれたようだ。やはり、生きているのか。
団長と副団長はベッドの脇に立つと、愛おしそうに水晶を撫でている。
暫くそうして満足したのか、団長はこちらに顔を向けて小さく息を吐いた。
「こいつは俺とフィルミナとの子供だ」
……ん? えっ、今何と。
「この子は私たちの子供なのです」
今度はフィルミナ副団長が言ったな。ええと、思考が追い付かないので周りを見回してみた。
ラッミス、驚き過ぎて硬直中。
ヒュールミ、少年、団長、副団長の順番で何度も視線を彷徨わせている。
ミシュエル、普通だな。驚くというより納得しているようだ。
ヘブイ、特に変化なし。
紅白双子、いつも通り。
あれ、俺と二人だけか驚いているのは。何でみんなリアクションが薄いんだ。ここは絶叫を上げて驚くシーンだと思うのだが。
「えええええっ! 二人は夫婦だったの!」
そうだよな、その反応を待っていたよ、ラッミス。
いがみ合いながらも仲がいいとは思っていたが、まさか夫婦で子供までいたとは。おまけに子供は水晶の中で眠っているという状態。驚くなと言う方が無理あるだろ。
ラッミスが絶叫を上げてくれた反動で、俺は落ち着きを取り戻せた。もう、平常心だ。これからどんな告白をされても、もう驚かないぞ。
「ああ、黙っていて悪かったな。結婚してから、二十年近くなるか」
「そうですね、あなた」
肩を並べて微笑み合う姿は夫婦に見える。こうしてみるとお似合いな二人だな。
「んでもって、赤と白も俺たちの子供だ」
「ええええええええええええええっ!」
「え え え え え」
いやいやいや! えっ、冗談じゃないの?
「わりい。俺も白も団長と副団長の子供だぜ」
「意外とバレなかったな」
二人の横に紅白双子が移動して、悪戯が成功した子供の様な無邪気な笑顔でこっちを見ている。
「はっ? えっ? へうっ? ふあっ?」
シュイの瞳が暴れている。どうやら、脳の処理能力を超えてしまったようだ。ラッミスも似たり寄ったりだな。ヒュールミは平静を装っているが頬が痙攣している。
「だから、赤さんと白さんの気配が団長と副団長に似ていたのですか」
ミシュエルが慌てず納得していたのはそのせいか。気配というのは全く同じ気配が存在しないらしい。距離があると識別は難しいが近ければわかる、と前に話していた。
「大体は予想通りの反応だけど、ヘブイは驚かないのか。お前が取り乱している姿を見たことなかったから、期待していたんだがな」
「ご期待に添えず申し訳ありません。薄々ですが感づいていましたので」
「ほんと、食えない男だよ」
靴が関わらないと頼りになる男だ。今も冷静沈着に状況を見守っている。
視線が寝ている少年の足元に向いて、靴を履いていないことにため息を吐いたのは、見なかったことにしよう。
「あっ、ということは……二人はこの子のお兄さんなんだよね?」
「んや、長男はこっちだ。俺たち三つ子だからな」
赤の言葉にラッミスが再び硬直した。
も、もう、驚かないぞ。二人よりどう見ても若いとか、実は三つ子だったとか衝撃の事実はスルーすることにしよう。
自動販売機は表情が出ないから助かるよ。




