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襲撃



 カエル人間の住む場所にかなり近づいたらしく、周囲の空気が変わったのがわかる。機械の体なのにな!

 体に水滴が付着している。湿気が酷いようだ。身体錆びたりしないだろうか……。

 足下の土も泥状になっているようで、歩きにくそうにしている。ラッミスは俺が重すぎるせいで膝下辺りまで埋まっている。大丈夫だろうか。


「グゲグガグエグエッ!」


「やっちまええええっ!」


 カエル人間の鳴き声と勇ましい絶叫が至る所で上がっている。先行しているハンターが戦闘に入ったようだ。足場が悪いとハンター側が不利な気がするのだが、そんなのは彼らも百は承知だろう。

 その上で勝てると見込んだのだから、素人の俺が心配する何ておこがましい行為だ。お客たちの無事を祈るしかない。

 泥をはね上げて走る音がこちらに近づいてきている気がする。荷猪車を囲むように陣取っている護衛の面々の顔が真剣な表情に切り替わった。


「ハッコン、敵が来たみたい。一緒に頑張ろうね」


 俺が戦力にならないとわかっているのに、一緒にと言ってくれた。その心意気に応えないと男じゃない。まあ自動販売機に性別があるとは思えないが。

 彼女は俺を降ろす気が無いらしく、そのまま戦う気のようだ。この重さを苦にもしてないので大丈夫だとは思うが、どっちにしろ彼女が決めたのなら答えは一つしかない。


「いらっしゃいませ」


 音量を出来るだけ低くして返事をしておく。ラッミスは前に集中して、後ろは俺に任せてくれ。どんな攻撃も受け止めてみせるから。

 っと、敵がやってきたな。結構な数のカエル人間が走り寄ってきているようだ。背負われている俺からは背中側になるので、音で判断するしかない。っと側面から現れたのは俺でも目視できる。相手は脚が水かきになっているので、跳ねるようにして泥に埋まることなく動けるのか。

 横合いから迫る敵にラッミスが身構えたので、進路方向の敵も横目で確認できるようになった。


「討伐数で金が加算されるからな。お前ら気合入れろよ! やっちまえ!」


「いくぞおおっ!」


 リーダーであるケリオイルの号令に従い、前方から迫りくるカエル人間に矢と投げナイフ、手斧が襲い掛かる。

 おー、この人たちはかなりの腕のようだ。殆どが狙いを違わずカエル人間に突き刺さっている。敵の接近を許さず既に半数がやられた。


「水よ渦を描き貫け」


 あれはケリオイルを団長と呼んでいた魔法使いっぽい格好をしている女性か。杖を突き出すと、そこから水が勢いを強めたホースから噴き出すように、真っ直ぐ伸びていく。

 水流は重力に従うことなく地面と平行に飛んでいった。よく見ると先端が錐の様に鋭く尖っている。それは水だというのに易々とカエル人間の頭を貫き、もう一体も串刺しにしている。

 あれって魔法なのかなやっぱり。もしかして、加護の能力だとしたら俺も手に入れたら、あんな感じで操れるのだろうか。だとしたら戦う自動販売機に……悪くない未来だ。でも、俺の魔力って0だったよな。あ、無理っぽいぞ。


 そんなことを呑気に考えていられるぐらい楽勝ムードだ。視界が激しく揺れているのはラッミスが戦っているからなのだろうが、背中側が見えないのは不便過ぎるな。どうせなら、前向きになるように背負ってもらいたかった。

 彼女は攻撃を与えるのが苦手だと零していたが、上手くやれているのだろうか。

 心配だが悲鳴は聞こえていないし、こっちを見ている護衛が焦ることなく手助けにも来ないということは、ピンチではないということだろう。

 あれ、今更だけど武器持ってなかったよな。手に少し大きめのグローブをしていたけど、あれってもしかして?


「よっし、何とか倒せたー。ハッコンがいるからできるだけ小さく動いていたら、いつもより攻撃当たるし、楽に倒せたよ!」


 背後からラッミスの喜ぶ声が聞こえる。体を半回転させて、新たな敵に備えているようだ。見える範囲が横にずれたので、さっきまでラッミスが戦っていたであろう敵の姿を見ることが叶った。

 顔面が陥没している、カエル人間の死体が泥の上に寝そべっている。巨大なハンマーで顔面を殴られたのではないかと思うぐらいの変形具合だ。これって怪力で殴った跡だよな。そ、そうか。冷静に考えたら妥当な破壊力か。

 俺を軽々と背負い、平気な顔をして歩き続ける力と足腰の強さがあるのだ。この威力を叩きだせたとしても何ら不思議ではない。


 彼女の話から察するに背中に俺がいるので、無駄な動きを省き小さくまとまったのが功を奏したようだ。これだけの力があるのだから、コンパクトに動いて攻撃を当てることに集中した方が強いということか。

 間接的にだがラッミスの力になれたのなら嬉しい限りだ。

 あと少しでカエル人間たちを殲滅できそうだったのだが、更に追加で十体出現している。最後尾の俺たちにはあまり敵が来ないという話の筈が、おかしくないか。


「ここでこんなに敵がいるってのは不自然だ。前線はもっと湧いているとなると……きな臭くなってきやがったな」


 ケリオイル団長が忌々しげに呟いている声が届いた。やはり、この事態は異様なのか。


「お前ら集まれ。自由にやってやがると足元をすくわれかねん!」


「わかりました、団長!」


 荷猪車を背に護衛のハンターたちが円陣を組んでいる。その判断は正しかったようで、泥の中から更に追加で現れたカエル人間が周囲を取り囲んでいる。

 ざっと見積もっても三十はいるぞ。一人頭、五体やらないといけないのか。これって、結構ヤバくないか。


「団長さすがにこれは、多すぎませんか」


「泣き言は後だ。いざとなれば猪車は捨てても構わねえ。命大事にがうちの団のモットーだからな」


「初めて聞きましたよ」


 ケリオイルと青髪のフィルミナは軽口を叩いているが、その表情に余裕はない。それだけ、緊迫した情勢だということか。

 ラッミスにも危なくなったら逃げて欲しいところだ。俺が邪魔なら捨てて行ってくれて構わないから。

 彼女は弓を構えているハンターの傍に立ち、近距離戦を担当するつもりか。


「撃ち漏らしたのはうちが何とかするから」


「ありがとう、助かるっす」


 フードで顔が見えなかったので今まで気づいてなかったのだが、この狩人っぽいハンターは女性なのか。って、あれ、今更だが護衛担当のハンターって女性率高いな。全員があのケリオイルを団長と呼んでいたから、この人たちはあの人の配下ってことだ。

 六人の内、女性が四名もいるぞ。もしかしてハーレム状態の団なのか……ケリオイルのことをこれからは無精ひげと呼ぶことにしよう。


 そんな馬鹿なことを考えている間にも戦況が激しくなっている。無精ひげは団長を名乗るだけあり、両手の短剣を見事な剣捌きで操り、次々とカエルの死体を築いている。

 フィルミナも水を巧みに操作して敵を寄せ付けていない。他の面々もかなりの腕利きのようでカエル人間を圧倒しているな。

 問題はラッミスが庇っている射手だ。この女性も中々の腕なのだが、連射が苦手のようで攻撃と攻撃の間にもたつきがあり、敵の接近を何度も許している。

 そこでラッミスが割り込み、何とか対応しているという状態だ。さっきの体捌きでコツを掴んだらしく、一対一なら簡単にねじ伏せられるようになったようだが、二体同時となるとかなり厳しいようだ。


 彼女の背後に回り込んだもう一体が、長い舌を伸ばして自分の眼球を舐めているのは挑発のつもりなのか。死角に入り込み、手にした斧を振り上げ、俺に殴りかかろうとしている。

 このまま受け止めても耐えられるダメージなので、あえて結界を張らずに攻撃をもらった。


《4のダメージ、耐久力が4減りました》


 体を揺さぶる衝撃と共に文字が浮かぶ。久しぶりのダメージ表示だ。

 斧は中々の高威力っぽいが、俺にはポイントが結構残っている。数十発なら受け止めてやるぞ。


「えっ、背後に回られているの!? ご、ごめん、ハッコン! 大丈夫!?」


 取り乱した声が聞こえる。そんなに慌てなくても大丈夫なのだが。心配は無用だ。むしろラッミスの代わりにダメージを受けたのなら嬉しいぐらいだよ。


「いらっしゃいませ」


「ほんとうううに、ごめんね!」


 気にしないでそっちに集中してくれ、と言いたいのに伝えられないもどかしさ。こっちに気を取られて、戦闘が疎かになったら元も子もないよな。

 向こうの様子は見えないが、身体の揺れる感覚から動きに乱れを感じる。焦りがこっちにまで伝わってくるぞ。これは良くない流れだ。


「きゃっ!」


 射手の人が攻撃を避け損ねたらしく、視界の端で転んでいるのが見えた。そんな彼女に槍を手にしたカエルが跳躍して上から突き刺そうとしている。


「だめええええっ!」


 ラッミスはその光景を目の当たりにして、何も考えずに飛び込んでいく。彼女を抱きかかえるようにして庇うと……まあ、俺が矢面に立つわけで。

 あ、体重の乗った切っ先が迫ってくる。ここは〈結界〉発動っ!

 俺の周囲に青白い光が広がり、寸前まで迫っていた切っ先が弾かれ、ついでにカエル人間も吹っ飛ばされている。


「え、何、この光……貴女の力っすか?」


「ち、違うわ」


 話を振られて射手の人が頭を左右に振っているのが、視界ギリギリに見える。ああもう、もどかしい。もうちょっと視界を広げたい。何かそういう機能ないのか。

 こんな状況下だが、あまりに不便なので機能欄にざっと目を通すと、あった


〈全方位視界確保〉の文字が。1000ポイントは安くないが、背に腹は代えられない。躊躇うことなくそれを取得した。

 おおおっ、急に視界が広がり……酔いそうだ。あらゆる方向を見られるようになったのは嬉しいが、これ慣れるまできつそうだな。


「そうじゃないなら、誰がこの光の壁を出してくれたっすか」


「あたりがでたらもういっぽん」


 ここで俺だというアピールをしておく。自慢したいわけじゃないが、誰がやったかわからないと動きづらいだろう。


「えっ、ハッコンがしているの!」


「いらっしゃいませ」


「うわー、そうなんだ。ありがとう、ハッコン!」


 これで素直に信じてくれるのがラッミスのいいところだよな。意思の疎通ができる鉄の箱にこんな能力があるなんて荒唐無稽な話、普通は誰も信用しないだろう。


「じゃあ、危なくなったらお願いしていいっすか?」


「いらっしゃいませ」


 音量を上げて、はっきりと答える。これで、彼女にも守りは万全なことが伝わった。

 ここからが本番だ。二人で協力してカエルを殲滅しよう。


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