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討伐隊

 蛙人魔の巣というか集落は俺がいた湖畔から、北に一時間ぐらい進んだ先にあるそうだ。

 だから、何度もカエル人間が覗きに来ていたのか。あの時、加護選択を間違えていたら今頃スクラップだったかもしれない。戦闘系の能力を選ばなくて良かったよ……まあ選んだところで、自動販売機の体で扱えるとも思えないが。


「いらっしゃいませ」

「ありがとうございました」

「またのごりようをおまちしています」


 とまあ、深く考え込む時間が無いぐらい大盛況だ。さっきからフル稼働でお礼の言葉も途切れることが無い。

 昼時になると各自が所有している携帯食料や、大量に荷台に積まれた食材を使って昼食を取り始めたハンター一行だったのだが、ラッミスの一言がきっかけとなり一気に客が集まってきた。


「このパスタ料理ってすっごく美味しいよね」


 そう、俺は今回の遠征を考慮して新機能を1000ポイントで追加しておいたのだ。朝晩かなり冷え込むようになってきたので、お湯を注ぐ機能を増やし、商品もカップ麺を四種類追加しておいた。きつねうどん、醤油ラーメン、豚骨ラーメン、塩ラーメン。と好みに合わせて選べるラインナップ。

 もちろん、何も知らない異世界の人相手の商売なので、お湯を注ぐだけの簡単仕様のモノを選んでいる。この商品も器の側面に作り方が、文字と絵で表示されているタイプのものなので、ラッミスとムナミも直ぐに理解してくれた。


 カップ麺販売モードに変化させると、自動販売機の半分をその機能が占めてしまうので、飲料を置けるスペースが減ってしまうのが難点かもしれない。ただし、カップ麺機能は入れ替えが自由なので、いつもの状態にも直ぐに戻せる。 

 今日は曇天模様で肌寒かったことも幸いし、美味しそうに食べるラッミスを見て客が群がり大盛況となっている。

 ちなみに一つ銀貨二枚となっている。オプションのフォークもカップ麺と一緒に提供されるので、そこら辺の対策も万全だ。


「くはぁー、身体が芯からあったまるぜ」


「この大きな茶色いの味が沁みていて美味しいわぁ」


「お前のうまそうだな、一口交換しようぜ!」


 和気あいあいと感想を口にしながら食べるハンターたち。あっという間に40個のカップ麺と飲み物も大量購入してもらえた。体を動かす職業なだけあり、一人で二個以上食べる人も少なくない。

 相手の集落まで片道徒歩二日はかかる距離を考慮して、食料は大量に積み込まれていて余裕があるのだが、昼食に手間をかけないのがハンターの基本らしく、物珍しさと相まってこの売り上げとなったようだ。

 もちろん、開発者が試行錯誤して生み出した味が素晴らしいというのは言うまでもない。こういうクオリティーの高さを実感すると、日本人で良かったなと心底思う。

 この調子だと遠征中に荒稼ぎできそうだな。値段は銀貨三枚でもありだったのだが、蛙人魔の駆除が最優先なので、彼らを応援する意味も込めて少し下げさせてもらった。


 俺たちは討伐隊の最後尾にいるので戦闘とは無縁で、時折先発しているハンターたちの剣戟と怒鳴り声が聞こえてくる程度で、至って平和である。

 移動中は商品を買う人もいないので、自分の能力の再確認と今後の進むべき道を模索する時間に充てていた。

 自分の全能力を表示するとこんな感じになっている。


《自動販売機 ハッコン

 耐久力 100/100

 頑丈  10

 筋力   0

 素早さ  0

 器用さ  0

 魔力   0


 PT 3600

(冷) ミネラルウォーター 1000 1銀貨(130個)

(冷)(温) ミルクティー  1000 1銀貨(124個)

(冷)(温) レモンティー  1000 1銀貨( 65個)

(冷) スポーツドリンク  1000 1銀貨( 78個)

(冷) オレンジジュース  1000 1銀貨( 65個)

(温) コーンスープ    1000 1銀貨(119個)

(温) おでん缶      3000 3銀貨( 56個)

(常) 成型ポテトチップス 1000 1銀貨(136個)

(常) カップ麺 きつねうどん   2000 2銀貨(85個)

(常) カップ麺 とんこつラーメン 2000 2銀貨(92個)

(常) カップ麺 醤油ラーメン   2000 2銀貨(88個)

(常) カップ麺 塩ラーメン    2000 2銀貨(89個)

〈機能〉保冷 保温 お湯出し(カップ麺対応モード)

〈加護〉結界 》


 表示される文字が増えすぎだな。商品は別々で確認した方が良さそうだ。

 討伐隊に参加中は常時カップ麺もいける状態にしておいて、飲料も一種類ずつ並べておく感じで対応しよう。

 しかし、機能追加で外観が一気に変わるのは魔法のようだったな。これってもしかして、配色とかデザイン、フォルムの変更も機能欄にあったりするのかね……あった。


 ほうほう、色は自由に変えられるのか。模様の追加やスイッチのデザイン、電光掲示板の取りつけも可能なのか。自由度高いな。

 配色変化はそんなにポイントを消費しないようだが、形状の変更と電光掲示板は結構ポイント取られるぞ。これはもっと余裕が出てからにしよう。

 機能追加にある様々な仕様を眺めていると、あっという間に時が過ぎ、気が付けば辺りは暗くなっていた。


「ここらで一晩明かすぞ。各自野営の準備をしてくれ」


 あの渋い声はハンター協会の会長か。そういや、討伐隊に参加しているのだったな。元々凄腕のハンターだったそうで、ここのメンツの中では頭一つ抜き出た実力者らしい。

 テントを設置するグループもいれば、焚火の前に居座っているだけのハンターも多い。ああいう人は寝袋か毛布を纏うだけなのか。ラッミスはどうするのか気になり視線を動かすと、俺の隣に座ってニコニコしているだけだった。

 ……何も考えてないように見えるけど、仮にもハンターやっていたのだから、そんなことは無いよな。でも、俺を背負っていただけで何一つ荷物を持っていなかった気がする。大丈夫なのか?


 そんな心配をよそに彼女は何を買おうか商品を一生懸命に選んでいる。他の人たちは明日が決戦と言うこともあり、少し豪勢な夕飯を作って食べているな。

 大半が飲料のみを購入して、おでんもカップ麺もあまり捌けていない。手持ちの荷物を減らす為にも、食材の消費をしておきたいのだろう。


「この串に刺したのほんと好き。小さい卵だけの串があれば最高なのに」


 ラッミスは卵派か。ウズラの卵は単価が高いから全部卵にしたら仕入れ値上がりそうだな。俺はおでんなら餅巾着と大根は外せない。

 彼女の晩御飯はおでんとミルクティーときつねうどん。栄養バランスがいいのか悪いのか。


「今、よいか」


 ぬっと巨体が覆い被さるように、ラッミスの背後に立つのは会長さんか。

 こんなに近くに寄るまで全く気付かなかった。凄腕のハンターだったというのは嘘じゃないようだ。


「会長も何か買うの?」


「そうだな。黄色いスープを後でもらおうか。それよりも、明日の事なのだが。やつらの集落まで、ここから三時間程度で着くだろう。ここは周囲を木々に囲まれている空き地なので、光が漏れずに野営に向いている。敵に見つかる可能性も低いだろう」


 だから、火を焚いているのか。敵の本拠地が近いのに、夜に目立つような真似をすることに疑問を抱いていたが納得した。


「そこでだ。お主らはここで待機しておくか、我々と共に戦場に赴くか好きな方を選んでくれ。ここに残る場合、蛙人魔の残党や他の魔物が現れる可能性もある。護衛の彼らは残しておくが、安全だと言い切ることはできない」


 一緒に蛙人魔に向かえば戦闘に巻き込まれるが、30人ものハンターと共にいられるという安心感も捨てがたい。その中にはベテラン勢も多く、万が一にも負ける可能性は無いという事前情報は得ている。

 正直、蛙人魔以外の魔物というのがどれ程危険な存在なのかわからないので、俺にはどっちが正しいのか判断がつかない。


「う、うーん。うちはこれでもハンターだから、戦場に立つのは問題ないけど、ハッコンは戦いに巻き込まれたくないよね?」


 困ったな。どう返事すればいいのか。俺は痛覚もないし、二三発ぐらいなら攻撃を受けても大したことは無いのは体験済みだ。傷ついてもポイントで修復できる。

 俺は別に構わないが、ラッミスがどうしたいかだ。見た感じでは怯えてもなく、寧ろ戦う意欲があるような。だったら、俺の返事は決まっている。


「ざんねん」


「えっ、戦いに参加してもいいの?」


「いらっしゃいませ」


「うん、わかった。会長、うちとハッコンも戦いに参加するよ!」


 彼女は俺が守って見せる。手も足もないけど〈結界〉があるから守るぐらいは出来る筈だ。この世界に来て初めての客であり初めての友達。ポイントと引き換えに助けられるなら、幾らでも使ってやる。その為にも頑張って商品を売り捌きポイントを稼がないと。

 さあ、他のハンター共よ、我が商品の虜になるがいい!





 朝日が昇り始めると同時にハンターたちも活動を始めている。ラッミスは結局俺に寄り添って眠っていた。どうやら機能の〈保温〉効果は周囲にも影響があるらしく、彼女は毛布も被らない状態で、寒がりもせず熟睡していたのには驚かされたぞ

 昨晩はかなり冷え込んでくれたので、おでんと温かい飲料が飛ぶように売れほくほくですわ。一日で1000ポイントも稼げるとは、いい意味で予想外だ。

 今日も朝から温かい物を求め、俺の前には列が出来上がっている。カップ麺とコーンスープの個数を増やしておいた方が良さそうだな。


 蛙人魔を倒すにあたって、相手がカエルの習性を持っているなら、もう少し待てば冬眠に入って楽に倒せそうな気もするのだが、地球のカエルとは似て非なる存在かもしれない。仮に俺の予想が当たっていたとしても伝える術はないのだが。


「皆、聞いてくれ。朝食を終えたら今から、敵の本拠地を襲う。手筈は伝えた通りで頼む。戦力的には問題なく完勝できる。だが、油断はしないでくれ。以上だ」


 会長の言葉には妙な説得力と安心感があるな。この人が言うなら大丈夫だという気にさせてくれる。

 テントと調理道具も片づけは終えたようだ。いつものようにラッミスに背負われ、俺たちも出発した。

 仲間と魔物退治に向かう。こう書けば良くある異世界ファンタジー作品なのだが、自動販売機なんだよな……自力で動けないんだよな……どうしろと。

 活躍する為には加護とやらで〈結界〉以外の能力を得るというのが一番の近道に思えるが、加護の能力を得るのに必要なポイントが一番低い物で、100万ポイントってばっかじゃねえか。


 あー、空は青く澄み渡っているなー。可愛い女の子に背負われるだけの存在って、男としてどうなのだろうかとか、考えたら落ち込みそうになるからやめておこう。


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