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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
籠中の獅子たち
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血マミレ万歳!

「すみませんっ」


 きゅうは慌てて地面にぺたりと張り付いた。踏まれるかと思ったが、天逆毎あまのざこは意外にもけらけら笑いだした。


「ほほほ、素直に謝られるとつまりませんね」

「若造が失礼をいたしましたな。我らの勝利のために、策を張っていただいて感謝いたしますぞ。今後とも、皆いっそうの尽力をお約束しましょうぞ」

「その通りでございます」


 九の失態を払拭しようとしてくれた、イッポンダタラとぬらりひょんがすさまじい勢いで天逆毎の前に進み出てくる。九は二人に向かってそっと頭を下げた。


「して、我らはこれからなにをお手伝いさせていただけばよろしいのでしょうか」

「何もせんでよろしい」


 天逆毎は即座に言い放った。聞いたぬらりひょんが、あっけにとられて空を見ている。


「は、はあ」

「もちろん、もう少し計画が進めばあなたたちの力を借りますよ。ただ、その前は私の領分です。無粋に踏みいることは許しません」


 ぱきぱきと指の関節を鳴らしながら、天逆毎は一同を見回した。むろん、反論など出るはずもない。背後の佐門さもんも何も言わなかった。


「では今晩は、宣言通りゆるりといくとしましょう。明日の朝からは、文字通りの修羅場ですよ」


 とんと地面を蹴って天逆毎は天高く舞い上がった。九はあわてて舞い上がり、盟主の行方を追う。彼は思ったよりすぐ見つかった。


 天逆毎はひと飛びで建物の一番上まで舞い上がり、ふんぞり返って下界を見下ろしている。この大妖は一体、何をしようとしているのだろうか。

九はしばらく、じっとその大きな背中を見つめていた。




 時計の針が、午前零時を告げる。微動だにせず、ずっと空を見つめていた天逆毎はすっくと立ち上がり、校舎から飛び降りた。あわてふためく地縮じちぢみの一匹を捕まえて壁に穴を作らせ、そこから外へ出た。


 外へ出るやいなや再び舞い上がり、目的地へ向かって宙を飛ぶ。一日に千里を走る天逆毎にとっては数秒でゆける距離だ。すぐに息も切らさず地面に降り立つ。


 天逆毎の目の前にはまた、さっきと同じように堂々とそびえ立っている壁があった。壁の表面を軽く叩くと、壊れはしなかったが、表面は小石の落ちた水面のように波打った。


「な、何事だ」


 泡を食って壁の穴から飛び出してきた見張りの鳥たちに、天逆毎は軽くあごをしゃくった。来訪者の正体に気づいた鳥たちが泡をくって飛び立っていく。間もなく速やかに道が造られ、天逆毎は主立った妖怪が集結している中庭に足を踏み入れた。


「みなさん、ごきげんよう。よいお顔で安心しました」


 立塚の中庭に集まっている妖怪たちが、決して明るい顔はしていないのを承知の上で天逆毎は言い放った。


「こっちは退屈して死にそうだっての」


 だらしなく寝そべっていた山姥やまんばがむっくりと起きあがって不満をこぼす。こちらには血の気の多い妖怪たちが多く、大半の種族も口には出さねど、彼女と同じ事を考えているのは明らかだった。


「ふふ、あなたたちに、お仕事を持ってきてあげました」


 ざわ、と声があがる。つまらなさそうに明後日あさっての方向を向いていた妖怪たちが、一斉に体を持ち上げた。


「では、ついに」


 悠々と中央でとぐろを巻いていた蛇の妖怪が天逆毎に話しかけてきた。天逆毎も彼女に向き直り、大きく頷く。


「そうですよ、殺戮のお時間です」


 天逆毎の一言は、あがった歓声のあまりの大きさにかき消された。しかし、どよめく一行を横目に、ひとり金髪の少女だけがむっつりとした表情で腕を組んでいる。


「どうしました、紅葉もみじ


 目ざとく異変を感知した天逆毎が声をかける。紅葉は慌てて首を横に振った。


「いえ、何でも」

「やけに辛気臭い顔をしていましたね」

「そんなことは」

「へえ。それならいいのですがね。貴方の能力を、わたしは高く買っているのですよ。私はもう行かねばなりませんが、よろしく頼みますね」


 天逆毎が差し出してきた手を、紅葉は握り返した。みしり、とすさまじい力が腕に伝わり、紅葉の顔色が青くなった。





「んにゃあ」


 久しぶりに心地よくまどろんでいたところを揺り起こされ、舟木は情けない声を漏らした。


「なによお」

「馬鹿、あんまりでかい声出すなって」


 頭を振り、ぐりぐりと首を回すと、もやがかかっていた視界がようやくはっきりしてきた。クラスメイトが荷物を片手に、難しい顔をして舟木を見下ろしている。その後方に、紅葉の金髪がちらりと見えた。


「どうしたの?」

「逃げるんだよ。お前も早く荷物まとめろ」

「そんなこと、出来るわけないじゃない!」

「大丈夫だよ。紅葉ちゃんが、逃がしてくれるって」


 クラスメイトがそうは言っても、にわかには納得できず、舟木は紅葉を見つめた。彼女は口を真一文字に結んだまま、無言でこくりと頷く。


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