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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
籠中の獅子たち
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それは希望か絶望か

(それにしても、簡単すぎる)


 あおいは首をひねった。有園が吉報をそそくさと上に報告しに行ってしまったので、詳しい要求内容まではわからない。


 しかし単に食料や武器がほしいだけなら、人質などとらずにとっとと人間側の基地でもなんでも襲えばいい。普段なら外交上のタテマエもあるだろうが、何せ今は戦争中である。この状況で遠慮する必要などどこにもなかろう。


(何かある)


 嫌な予感がした。葵は浮かれる室内をよそに、ありったけの資料の海にまた頭をつっこんだ。


「三千院一尉」


 しばらくしてから、資料の海に潜りこんでいた葵の肩を軽く叩くものがいる。う、と一つ大きな伸びをして葵は机から身を起こした。ずっと同じ姿勢でいたらしく、肩や腰が固まってしまっている。


「お疲れですね」


 葵がおっさんの様にその場でぐるぐると腕を振り回すのを見て、起こした女は目を白黒させている。彼女のかけた細いフレームの眼鏡が、蛍光灯に反射してきらりと光った。


「まあな。この前の作戦では世話になったな、霧島きりしま

「いえ、お手伝いできまして光栄です」


 霧島はにっこり笑った。葵たちと一緒に一晩を本部で過ごしたため、化粧っけもないし疲れが少し顔に出ていたが、それでも年齢を重ねて身につけた品の良さは変わらずにじみ出ている。


「犯人の要求品をまとめておきましたが、ご覧になりますか」


 霧島が言う。一応疑問の形をとってはいたが、書類を差し出した彼女の手はすでに葵の目前にある。葵が「見ない」とは言わなかろうと踏んでいるのだ。


「ああ。ありがとう」


 よくおわかりで、と内心で霧島にポイントを加算しながら、葵は資料に目を落とす。要求品が何行にもわたって書かれていたが、ほとんどが食料だった。


「かなり食料の量が多いな」

「お金の要求は当然ゼロですね」

「妖怪がたくさん持っていても仕方ないだろうからな。あとは、薬の材料になりそうな薬草を要求してきている」


 霧島が横から資料を覗き込みながら、感想を漏らす。


「私は、もっと武器弾薬が要求されるのかと思っていましたが……」

「異常なほど人質が多いんで、俺はデバイスでもよこせと言われるかと思ってたがな」


 葵が皮肉っぽく言うと、霧島は顔をしかめた。


「でも、彼らはデバイスを使えないんでしょう?」

「自分で使えなくても、こっちの手持ちの数を減らせれば効果としちゃ十分だろ。研究することもできるしな」


「デバイスを要求しようと思わなかった……なんていうのは、あまりに楽観的でしょうねえ」

「あの先の大戦の引きの良さを考えると、そこまでバカが総大将をやってるとも思えん。人間と違って、たかだか五十年では代替わりもせんしな」


 そうですよねえ、とため息をつきながら霧島は資料を机の上に置く。


「要求してもはねられることがわかっているから、しなかったのでしょうか。一尉なら、どうなさいます」

「俺なら要求する。つっぱねられることは承知の上でな。内容は何でもいい、申し出を相手が拒否したという事実があれば、人質に手出しする理由ができる」


「つくづく、一尉とは戦いたくないものですね」

「やるとなったら徹底的に、だ。それが戦争の常識」


 葵はぬるくなった茶をすすりながら言う。霧島がやれやれといった表情で頭をかく。


「だからこそ、わからん。こんなゆるい条件をつけるくらいなら、最初からやらない方がよっぽどましな作戦だ」

「上はそれに、気づいているのでしょうか」


「一応、妖怪が何か企んでいるだろうという報告はあげてあるし、うちの砲撃部隊もまだ貼りつかせてある。

 が、俺の具申書をまじめに読んでる奴が何人いるかはわからん。現に朝から延々、なんの薬にもならん会議をやってるらしいしな」


 葵の意見が黙殺される可能性はかなり高かった。今の上層部は、自分に都合の悪い情報は見たがらないのだ。そしてなんの具体的対策もとらぬまま、はげ散らかした爺ばかり集めて会議をするのがいつものパターンである。


「三千院家の私兵でなんとかなさっては?」

「さすがに無理だ。今はまだ富永を刺激したくないんでな。一人二人ならともかく、大量に連れてくるわけにはいかん。交戦するならどうしたって軍と警察が腰をあげなきゃ始まらない」


 霧島が肩をすくめる。今は有園にやらせておくしかない、と悟ったようだ。


「引き渡しは今夜。夜中に物資を確認、部隊が全て運び出す。明朝には人質全員を解放する、か」


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