ジャマもの、登場
葵はそんな二人の様子をいらいらしながら眺めていた。
「自分がやらかしたことの始末をつけるのもイヤか」
「そんなことは言ってませんよ。ただ、少しくらいお目こぼしを」
「情状酌量に値する案件というのも、もちろんある。が、お前たちがそれに値するとは俺には思えん」
葵は後からバーのママに聞いた騒動の一部始終を、たたきつけてやることに決めた。
「バーのママやほかの客に話を聞いた結果だが。すでにできあがった状態で入ってきて早々、挨拶に出てきたママを押し退けて若い女の子に向かって突進」
「んぐ」
二人とも、一斉に苦い薬を飲み込んだような顔つきになった。醜態を思い出したのだろう。
「女の子がつくやいなや、ちっともおもしろくない卑猥な話を添えた過剰なボディタッチ。さすがにママやほかの客が止めに入るといきなり大爆発」
「だからそれは大したことじゃ」
「ほう。軍人の羽目はずしと言うにはあまりにもすぎた行動により、同僚が悪く言われる結果になるとは思わなかったのか」
のっぽの視線が天井まで達し、ずんぐりが脇どころか腹の汗まで吹き出した。他への影響まで想像もしていなかったらしく、口をつぐんでひたすら現実逃避をしている。
「つらいぞー。自分はまじめにがんばっているにも関わらず、ほかの同僚の勝手な行為でくそみそ言われるのは。制服着てる職業はな、一人の行動でも全体に影響するんだよ」
「そ、それは」
「なにをやっているの三千院一尉」
葵の左手、ちょうど下の階からあがってくる階段の方角から有園の声がした。葵はせいいっぱい嫌そうな顔をして出迎えることにする。
今日の有園はかつかつと高いヒールを響かせながら、颯爽と歩いてくる。白いシャツにはしわ一つなく、スーツにもきっちりプレスがかかっている。確かに見た目は格好いいが、走り回ることが前提の対策本部にはあまりにもそぐわない。
そのうえ、みんな家にも帰らず本部で雑魚寝している状況にも関わらず、昨日この女はさっさとこの建物内から消えていたのだ。友好的になれと言う方が無理ではないか。
「部下の指導ですが、何か」
「ちょっと厳しすぎるんじゃないかしら」
「はあ。私にはどこが悪かったのかさっぱりわかりませんが。もしよろしければ見本を見せていただけませんか」
葵は口元を卑屈っぽく歪めながら言う。もちろん、この訳は『なに抜かしてんだボケカスそれならてめえがやってみろ』である。
しかし有園は本気で教えを請われたと思ったのか、少しうれしそうな顔になって胸をそらした。
「あなたたち、お酒を飲み過ぎちゃったみたいね」
「は、はあ。面目ないです」
二人は葵のさらに上官が出てきたことにびっくりしたのか、肩をすぼめて一回り小さくなっている。有園はその様子を見て、真っ赤なルージュの光る唇をひん曲げた。そしてぽつりと一言いう。
「つらかったのね」
葵は有園の骨と皮だけの足首をつかんで、脳天から床につっこみたくなるのを意思の力でようやくこらえた。
「さ、三佐……」
「毎日毎日、前線に立って命をすり減らしているんだもの。久しぶりに戻ってきた時くらい、ちょっと羽目を外したって罰は当たらないと思うわ」
有園がこう言っているのは、あくまで葵へのあてつけのためである。心から、部下の業務内容や精神状態に関心があるわけではない。葵にはそれが明らかに透けて見えるのだが、パブ二人はどうやらそうではないらしい。
「ありがとうございます」
「こんなに、俺たちのことをわかってくださる方に会ったのは久しぶりです」
有園にすっかりほだされ、握手まで求めている始末。葵は暇つぶしに前髪を抜きながら、目の前の茶番をぼんやりと見つめていた。
「反省してるのよね」
「はい」
「それはもう」
「このお兄さんコワイわよねえ」
あからさまな嫌みに葵はそっぽを向いてやった。鼻毛でも抜いて投げてやろうか。
「今回のことは、私からお店に話してみるわ。なんとかあなたたちの負担が出ないよう、がんばってみるわね」
「はい!」
二人の声がきれいに重なった。パブたちの少年のような澄んだ瞳が、なんともいえず葵には不愉快だった。
「じゃあもう業務に帰っていいわよ。これからもがんばってちょうだいね」
有園は結局、葵に一回もバトンを渡すことなく二人を解放してしまった。そそくさと本部に消えていく長短二人組の後ろ姿を、葵は半目になって見送った。




