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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
籠中の獅子たち
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第一回目の交渉は?

「ミサイルが効かないということであれば、通常の警察設備での突破は難しいでしょう。支援物資を届けに壁の内部に入り込んだ時がチャンスです。そのまま機動部隊が押し入って、制圧を目指すべきではないでしょうか」


「それでどうするの? 物資の配達だけで入れる人員はたかがしれているわ。両校とも、人質は軽く見積もっても数百人はいるわよ。相手が冷静に対処すれば、首領ぼすのところまでたどり着くまでにいったい何人死ぬかしらね」


「壁の内部に入る前に、仕掛けをしては? 差し入れの食料に一服盛ってみれば敵の数が減らせるでしょう」


「向こうからしてみれば、当然毒の存在なんて計算に入れてるわよ。差し入れを受け取ったらすぐ、人質に毒味させるに決まってるじゃない。人質が昏倒でもしてみなさい、すぐバレるわよ」


「それではやはり、航空隊からの一斉爆撃になるでしょうか」


「周辺地域への影響が大きすぎるわ。周りが山や僻地へきちならともかく、あれだけ市街地に近いならまず許可が下りないでしょ」


 部下たちから複数の意見がでてきたが、いずれも現実味は薄く、かたっぱしから有園にたたき落とされていく。彼女自身は意見を言うこともなく、ひたすら反論に終止していた。


 心なしか、有園の表情が輝いている。葵は面白くないので口をつぐんだままことの次第を見守っていた。


 結局ああだこうだと議論はしたものの、有効な結論は出ないまま皆が息切れしだしたそのとき、電話が鳴り響いた。


 全員はじかれたように身を翻し、鳴り続く電子音に耳を傾ける。録音装置が正常に作動していることを確認し、交渉役の刑事が電話前に移動した。有園はなんの遠慮もなく葵のデスクに座り込み、ない胸を張っている。


「もし食料の持ち込みを向こうが受け入れると言ったら、俺にかわってもらえますか」


 有園の目が自分からそれたのを確認し、葵は交渉役に話しかけた。葵の意図まで話している暇はなかったが、察した彼はこっくり頷いた。それからひとつ深呼吸をし、そろそろと受話器を持ち上げて喋り始めた。


 通話内容を聞けるデスクを有園に乗っ取られた葵は仕方なく、交渉役の表情の変化をじっと見ていた。今のところ彼の表情は硬いままだ。


 人質は無事か、という前回もなされたやりとりが終わったところで、動きがあった。


「わかった。必ず届けよう」


 交渉役の声が明らかに変わった。葵が顔を近づけると、声に出さずに大きく頷く。葵は彼から受話器を受け取り、椅子に座った。刑事がずっと握りしめていたせいで、まだ生暖かい受話器を耳にあてる。


『おい、聞いてるのか』


 突然交渉相手の声が途切れたことにいらだったのか、電話口の妖怪の声が大きくなった。


「すまない。こちらの事情で通話相手が変わる」

『また貴様か。名を名乗れ』


 人間で言えば壮年男性くらいの、低くよく通る声が葵の耳に飛び込んできた。最初の電話の相手と同じだ。こんな状況でなければ、いい声ですねと世辞のひとつも言ってやったところだ。


三千院葵さんぜんいん あおいという。階級は一等陸尉。細かい調整を取り仕切っている」

『ほう。子供か。我らもめられたものだ』


 通常なら、責任者を出したことで少しこちらに対する印象がよくなったりもする。だが、自分ほどの若造だと、舐められたと思われて逆効果になることがあるのは葵にはよくわかっていた。


「親の七光りというやつでな」

『それはどういう意味だ? 子供を出して同情が買えると思っているなら大間違いだぞ』


「こちらの世界では、親に地位があると子供がその影響を受けることがあるんだ」


 葵が七光りについて説明してやると、電話口の相手が鼻で笑うのが聞こえた。


『なんと無駄なことを。親がうまく獲物を狩れたからといって、子も同じとは限らんだろうに』


 野生の世界だとそうだわな、と葵は思う。確かに人間の世界の方がおかしな進化をとげてきたものだ。


『おまえに俺たちの要求を実現させる度量があるのか』

「必ず届ける。そこは間違いない。夕方の七時に第一便が校門前に到着する」


『余計なことはするなよ。食料を置いたらすぐに立ち去れ。もし残存部隊がいることがわかったら、直ちに人質を殺すぞ』

「わかった」


 葵がそう言うやいなや、ぶちりと電話が切れた。有園の舌うちが聞こえた気がしたが、とりあえず初手がうまくいったのはありがたかった。


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