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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
籠中の獅子たち
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科学兵器と結界壁

 山岳地帯の一カ所に、ぼんやりと虹色に輝く半円形の壁が出現していた。今回と同じく大きな壁だが、向こうがぼんやりと透けて見えるところが違っていた。


 壁の向こう側は、一見普通の山肌に見えるが、よく見るとぼこぼこと子供一人通れるくらいの穴があいている。


地縮じちぢみの巣だ。彼方にあるはずの景色を見せる、不思議な種族と言われていた」


 葵が時々ちらちらと画面を見ながら、周りの部下に解説する。皆文句も言わずにじっと説明を聞いていた。


「最初は全然注目もされてなかったんだがな。こっちの電気機器のケーブルを根こそぎちぎったり、目くらましをしてやぶに誘って軍用車両のタイヤをパンクさせたりするんで、掃討そうとうせざるをえなくなった」


 地縮の包囲網はすでに完成しているようで、ひっきりなしに人間側が攻撃開始のタイミングをめぐって通信をとりあっている声が記録に残っている。


 時々、そんな人間の様子を見るように暗い穴の中から緑色のネズミのような獣の頭がひょこひょこと動く。長居をする気はないらしく、どの頭ももぐら叩きのようにすぐに穴の向こうに消えていった。


 バカにしたようなその動きに、葵の周りからいらだちの声があがる。


 その当時の軍人たちも同じことを思ったようで、地縮へ向かって発砲した音が聞こえてきた。が、もちろん妖怪たちにはかすりもせず、銃弾は壁にぶつかってぱらぱらと音をたてた。


 部屋の中の苛立ちが頂点に達した時、ばりばりばりとプロペラが回る音がした。記録用のカメラが上に向けられ、しばし画像が乱れる。


 ふたたび画像が鮮明なものに戻った。迷彩色になる暗い緑で色づけされた戦闘用ヘリコプターが二機、悠然と空から山肌を見下ろしている。


 撤退の号令が出され、前線に張り付いていた歩兵たちが後ろへ走ってくるのが見えた。


 カメラの持ち主も一緒に後退したのだろう、さっきよりかなり引いたアングルからの画像になった。息つく暇もなく、二機のヘリコプターが動き出す。一気に上昇し、壁を射程圏内にとらえる。


「なにやろうってんだ」


 眼前で繰り広げられる映画のような光景に、警察関係者からつぶやきが漏れる。それに答えて有園が呟いた。


「ミサイルよ」


 有園の台詞の最後に重なるように、轟音が響きわたった。ボリュームを落としていなかったせいで、部屋中にびりびりとしびれるような破裂音が鳴り響く。


 隣の部屋から何事かとドアを開けて顔を出してきたものがいたが、映像と気づくとほっとしたような顔で帰っていった。


 カメラに一瞬閃光が走り、すぐに消えた。もうもうと立ち上る黒煙と、木が燃えるぱちぱちという音が聞こえる。


「命中」

「あの条件で外したらバカよ」


 葵が漏らした一言を聞きつけ、有園が自慢げに言う。彼女に戦闘機への搭乗経験はないことを知っている葵は鼻で笑った。


 徐々に黒煙が晴れる。視界が明らかになるのを、今か今かと待ち望んでいた一同が前のめりになった。


「なっ」


 驚きの声が部屋に満ちる。ミサイル二発の直撃を受けてなお、壁は堂々とそびえ立っていた。壁に張り付いたシャボンのように、日を受けて怪しく輝きながら、傷ひとつないその姿をみせつけている。


 しばらく人間側の混乱が続いた後、カメラの画像がまた揺れだした。その後、兵士たちの顔や装甲車は写るものの、二度と壁自体がうつることはなかった。


「戦車も沈めるミサイルも効かん、てことで航空隊の投入が決まったからな。陸上部隊は撤退していって、それっきりだ」


 有園が映像を止めたので、葵がその後を補足する。部下たちはしばらくあっけにとられたように葵を見つめていた。


「へえ。しかしこれ、だいぶ前でしょう。装備が古いから。一尉いちい、この作戦の時はまだお生まれでもなかったのによくご存じで」

「五十三年前だろ」


「あたりです」

「資料室の映像資料には一通り目を通したからな。今でも覚えてるぞ?」


「それはおいくつの時で」

「六つ」


 部屋にいた大人たちが一斉に目を見開いた。この反応はいつものことなので、葵はなにも言わずに視線を前へ戻す。背後から小さく「あの上官はバケモノか」と呟く声が聞こえてきた。


「さあ、この結果を踏まえてどう行動すべきか。意見のある人は発言してちょうだい」


 両手を腰に当てながら、有園が意見をつのる。めんどくせえなあ、という雰囲気の中、それでも一人が手を挙げた。

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