表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
故郷のための栄光
671/675

リア充はご遠慮ください

 天逆毎あまのざこが死んだはずなのに、アメリカでは小さなねじ穴が継続的に発生している。

 原因は不明だが、地震と同じで大きな変化があった後の余録なのかもしれない。

 ──ついては、前言を撤回するのでとっとと戻ってこい。


 彼の言い分をかいつまむと、こういうことだった。で、それに対するかなめの返事は。


『クリスマスには帰ってやる。それまで自分でなんとかしろボケ』


 根に持ってる。


 一回いらないと言われたことを、姉は象のようにずっと覚えていた。滅多にないことなので、よっぽど腹が立ったのだろう。


 それ以降のやり取りにはまるで参加していない。


(これはやっぱり、返事しておくべきだよな……)


 あおいは画面に指を滑らせる。


『姉貴の説得に一役買ってもいい。費用は応相談』

「これでよし」


 とりあえず無視の状態は解除した。葵がささやかな自己満足にひたっていると、着信音が鳴った。


「ん?」


 早速ヘンリーから返信があった。


『三日以内に決断させられるなら、一億ドル出す』

「……本気か」


 今のところ出現しているのは小型種のみだと聞いているが、向こうは事態を相当重く見ているようだ。


『三日は無理だ。ハロウィンくらいでなんとか』

『一週間。それ以上は待てない』

「……困ったなあ」


 口ではそうつぶやきつつ、葵はぽちぽち文字をうちこむ。


『じゃ、その話はなしで』

「これでよし」


 資源と金と領土がたっぷりある国を甘やかしてもいけない。自立のスピリッツを尊重しよう。


「坊っちゃま、車の用意ができましたよ」


 スーツ姿の一丞が迎えに来た。葵は端末を靴箱に置いて立ち上がる。


「いいんですか?」

「俺のじゃない。姉貴のだ」

「何かに抗議するようにけたたましく鳴ってますけど」

「気のせいだろ」


 よくできた一丞いちじょうは、それ以上何も言わずに口をつぐんだ。


「さ、行くか」


 葵は大きく伸びをして、車の方へ歩き出す。



☆☆☆



 リアムは目を開けた。すると目前一センチほどのところに、要の顔がある。


(こ、これは……夢?)


 リアムは何度か、目を開閉させてみた。しかしその間にも、ぐんぐん彼女の顔が迫ってくる。


「い、いやちょっと待って……」


 自分はまだ、彼女に勝つという目標を達成していない。それでことを致してしまっていいのだろうか。


『リアム、迷っているのですね。それは良いことですよ』


 心の中の天使がささやく。そうだ、僕はまだ彼女との約束を果たしていない。それを肝に銘じておかないと。


『なんでそんな面倒くさいことを。向こうから来てるんだぞ? チャンスじゃないか』


 せっかく覚悟を決めたのに、心の中の悪魔が現れてしまった。すぐに天使と悪魔が、角をつき合わせて議論を始める。


『しかし彼女のことです。条件に合わない男など、結局捨てられてしまうでしょう』

『ふん、わかるもんか。そもそも彼女、約束のことを覚えてると思うか? 大体のことは忘れてるだろ』

『そうかもしれない』


 弱いな、僕の心の天使。


『次はいつ機会が巡ってくるかも分からないんだぞ』

『確かに』

『さあやれ! ぶちかませ!』

『外さないように狙いを定めるのですよ』


 ついに天使と悪魔が同じ事を言い出した。リアムは呆れつつも、体を起こす。


(ええい、なるようになるさ──)


 リアムが覚悟を決め、手を伸ばした次の瞬間。目覚ましの音が鳴った。


「あ」


 途端に要の姿がかき消え、殺風景なリノリウムの天井が目に入った。


 部屋の中でリアムは一人、固いベッドに横たわっている。そして右手だけを、阿呆のように上へつき出していた。


「夢か……」


 冷静になると、さっきまでの状況がおかしかったことがすぐにわかる。リアムはため息をつきながら、上半身を起こした。


(しかし、なんであんな夢見たんだろ。今までそんな──)


 枕元の水を手に取り、口内を湿らせる。そして松葉杖を探したが、ベッドサイドに見当たらない。


 昨日は確かに、枕元に置いたはずなのに。そう思いながら、リアムは視線を横へ滑らせた。


「がふっ」


 とんでもないものが、目に飛びこんできた。リアムは衝撃で飲んでいた水を詰まらせ、ひたすら悶える。


「ん? 何じゃ、感染症か」


 大荷物を抱えたドクターが入室してきた。うめくリアムを見て眉をひそめる彼に、大丈夫だと手を振ってやる。


 ようやく普通に話ができるようになってから、リアムはドクターに例のブツについて聞いてみた。


「……あれ、何ですか?」

「等身大抱き枕」


 分からない。何故枕が等身大で、しかもそこに要の全身図がプリントされている必要があるのか。リアムの思考は、混乱するばかりだった。


「これはな、遠く離れた彼女をせめて近くに感じていたいという、切ない思いが詰まった商品なのじゃ。決して怪しくない」


 怪しくないと自分で言う奴は大体怪しい。しかし寂しい気持ちはリアムにも分かった。


「遠いところの彼女か。ちょっとロマンチックだね」

「……まあ、大体使用する奴らの場合、次元も違うんじゃが」

「?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ