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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
故郷のための栄光
669/675

眠る者、目覚める者

「下から」

 〝上へ〟

「力は全て」

 〝一点集中!〟


 獣の悲鳴が響く中、かなめは拳を突き出した。直後、雷撃が天魔雄あまのさくの体に刺さる。


「さあ、本気で暴れろ建御雷たてみかづち!」


 主の許可をいただいて、胸の核が金色に光った。真名を呼ばれた最強の僕は、喜々としてその能力を解放する。


 天魔雄の体から、光があふれ出した。それは散ったかと思うと集まり、集まったかと思うと散る。その一瞬一瞬で万華鏡のように姿を変えながら、雷光は敵を粉砕する。


「……あばよ、クソガキ」


 要がつぶやく。それと同時に、天魔雄の体が無数の小片に砕けた。


 大海はそれを、全て飲みこむ。砕けた雲も死んだ魚も、波がどこかへ運び去っていった。


 最後に空気がようやく澄んでくる。そこで要は深呼吸をし、叫んだ。


「よし、帰るぞ!」




☆☆☆




 要の号令をうけて、艦内のあちこちからふっと息をつく音が聞こえてくる。


「まだだ」


 あおいは一人、浮ついた空気の中で釘を刺した。直後、米軍空母からの通信が入る。


「……偵察機から連絡が入った。敵本体の消滅を確認」

「分かった。こちらも確認する」


 すでにモニターで、「ねじ穴」の収束が確認され始めていた。しかし、まだ完全に安心できない。


「婆さん、具合はどうだ」

「はいはーい。抵抗なくなったねえ。もう終わりだよ」


 お墨付きが出た。画像に映った「ねじ穴」が小さくなり、そして消える。葵は息を吸った。


「……それでは現時点で作戦を完了する」


 葵が告げる。日本側の乗組員たちは弛緩した表情になる者が多いが、向こうは声を張り上げたり拍手が起こっている。


(やっぱり、このノリにはついていけん)


 心の中で葵がそう断じた時、室内が騒がしくなった。


「あー、よく動いた」

「……よう、姉貴」

「お? そんだけ?」

「大層ご立派な戦いでした、ソンケーしておりますお姉様」

「だはは、もっと言え」


 要は笑いながらぶっ倒れた。血まみれの背中があらわになった姿に乗組員が引いているのも気にせず、しばらく経つと寝息までたて始めた。


「……なんだ、サンダーボルトはそっちで寝てるのか」

「ええ。よだれ垂らして」

「怪我は?」

「してますがね。このお姉様には保険をかけましたので大丈夫です。なんせ死んだら一巻の終わりだ」


 その証拠に、背中の傷が塞がり始めている。飛行装置と一緒に、鷹司たかつかさからガメた治療札を埋め込んでおいた。それが時間差で起動しているのだ。


 葵は淡々と姉の寝姿を実況する。それを聞いたルーカスが笑った。


「ならそっちで引き取ってくれ。大統領は残念がるかもしれないが」

「……いなくなってせいせいしたと思うんじゃないですか」


 そう考えてくれた方が助かるのだ。なんせ国内は内戦が終わったばかりで、ごたごたが続くことが予想される。抑止力はいくらあっても困ることはない。


「やれやれ。また適当なところで、帰ってこいよ」

「本人に伝えておきます」

「ぐう」


 絶妙なタイミングで、要がいびきをかいた。


「ははは、大した姉弟だよ。先が楽しみだ。じゃ、またな」

「ご協力に感謝します」


 ルーカスとの通信が切れた。葵もここでようやく、凝り固まった手足をほぐす。


「お疲れ様でした、二佐」

「久しぶりに肩がこった。本国の方のデータはあるか」


 葵が手を伸ばすと、部下がそれを軽くいなす。


「日本に着くまでの間くらい、ゆっくりなさっては?」

「そうそう」

「下らんことを言ってないで、早くくれ」

「……二佐は過労死するタイプですねえ」


 せめてもの抵抗として、部下が二人がかりで葵の肩をもむ。されるがままになりながら、葵は考えを巡らせた。


天逆毎あまのざこは死んだが、各地の妖怪が大人しく山へ帰るかは微妙だな」


 疾風はやてたちのように、生まれ育った地に強い愛着があるものはいい。


 しかしそうでない妖怪たちの中には、人間が住んでいた土地に居座っているものもいる。これからが正念場だ、と葵は思った。




☆☆☆



 また周りで誰かがしゃべっている。しかし今度は、懐かしさを感じる声だった。


 ああ、まだ『あっち』には行かずに済んだか。はるかはゆっくり目を開けた。


「だからさあ、しゅうはセンスが古いんだってば」

「そんなことないよお。しゅんこそ、その解釈は先走りすぎー」

「もうどっちも置いときゃいいじゃん、面倒くさいなあ」


 真っ先に京香きょうかの金髪が目に入り、続いて本を片手に押し合いをしている双子たちが見えてくる。どうやら、遥が目覚めた時にどの本を読ませるかで揉めているようだ。


「……どっちも読むから」


 軽くつぶやいただけで、胸元に痛みが走る。やはり、傷は深かった。


 しかし遥をよそに、病室の中は大騒ぎになった。看護師と医師が呼ばれ、意識レベルの確認が行われる。


 問題なしと判断されると、医師たちは引き上げた。代わりに、横で足踏みしながら待っていた三人が押し寄せてくる。


「……僕、生きてるんだね」

「かなりギリギリだったけどー。肺や心臓に傷がつかなかったのが良かったららしいよお」


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