戦力・集結
「……いたぞ。奴らだ」
要と紫の奮戦で、船は進む。そしてついに敵本丸をとらえた。日米両国の探査システムが、着々と分析を始める。離れていた無人探査機が、戦域に復帰してきた。
「全砲台発射不可、状態確認済み」
「ここまでは予定通りだな」
要が言う。
「だが、こっからは守ってやれねえぞ。お前らがなんとかするんだ」
「わかってる」
作戦前。分析画像を見せたとき、要は珍しく腕を組んだ。
『遠距離攻撃でやれないか?』
『無理だな。砲台ならともかく、このデカブツを完全に消滅させるにはエネルギーが足りねえ』
まさか彼女の口からそんな台詞が出るとは思わず、驚いたものだ。
『わかった。近づけさえすれば、砲台は俺たちでなんとかする。姉貴はまっすぐ本体を目指せ』
葵はそう決めた。その時から組み立てた作戦が、ようやく動き出す。
「よし、円形に布陣」
日本側。
第一護衛隊群より、ひゅうが・しまかぜ・こんごう・あきづき。
第二護衛隊群より、くらま・あしがら・ちょうかい・たかなみ。
第三護衛隊群より、しらね・あたご・みょうこう・ゆうだち。
第四護衛隊群より、いせ・きりしま・さみだれ・うみぎり。
これに加えて、第十一護衛隊から、やまゆき・やまぎり。
第十二護衛隊から、あぶくま。
第十三護衛隊から、じんつう・いそゆき。
第十五護衛隊から、ちくま。
アメリカ側から第三艦隊として。
空母。カール・ヴィンソン、ニミッツ。
駆逐艦。ジョン・ポール・ジョーンズ、ベンフォード、ホッパー、ヒギンズ、チェイフィー、ハルゼー、キッド、ストックデール、スタレット。
巡洋艦。ベンフォード、プリンストン、レイク・エリーン、オカーン。
フリゲート艦。クロメリン、ヴァンデグリフト、マクラスキー、レンツ、イングラハム。
各艦を円形に配置し、復活しそうな砲台に集中連射を浴びせる。自分たちの身を守り、主力である要と紫を守るための布陣だった。各艦付近にはデバイス使いが張り付き、艦の護衛と任務補助を行う。
まず真っ先に戦闘を任された艦たちは、各々の持ち場へ散っていく。それを追うように、補給艦と給油艦たちが後を追った。
「日本側で最も再生が速いのはどこだ」
「あたご、みょうこう配置の西十三エリアです」
「イージス搭載艦のところか」
後方に予備艦はいるものの、イージスシステムつきの艦を失えば戦線にとって大打撃だ。
「よりによってそことは……必ず潰せ。あたご、みょうこう。総員戦闘用意」
「総員戦闘用意、了解」
葵に名指しされた艦の内部がにわかに慌ただしくなる。
「砲配置良し」
「本艦はこれより戦闘に入る。速やかに配置につけ」
急を告げるサイレンが鳴る。砲台再生まで、あと十分を切っていた。
「第一目標に接近」
「目標、移動せず」
「しかし体細胞が八割再生、もう身体はほぼ完成しています」
「本艦は前方砲台を脅威と判断。砲撃、はじめ」
砲をコントロールする技官たちが、パネルに食らいつく。
「砲台に対しリモート完成」
「発射準備」
「目標、依然射程内に存在」
「発射用意」
艦の甲板に備え付けられた速射砲が回転する。リモート操作のため、一分のずれもなく砲塔は所定の位置におさまった。
「デバイス部隊も構え」
「了解」
葵の指示を受けて、今度は本物の涼が返事をする。
「狙撃部隊も準備完了」
「よし、撃ち方始め」
「撃てぇっ!」
砲が火を吹く。それと同時に、涼も銃弾を放ったはずだ。
(──さて、結果は)
速射砲の一斉射撃で防御を破り、デバイス使いの攻撃をまぎれこませる。
(これなら、奴も必殺の一撃を見落とすはず)
葵はそう読んでいるのだが、果たして結果はどうなるか。
「目標の破壊を確認」
自分の推測が間違っていないと知って、葵は肩の力を抜く。これでようやく、スタートラインに立てた。
「やったよ」
涼からも声が届く。彼には珍しく、少し上ずった口調だった。
「上出来だ。次も頼む」
「わかった」
葵はくれぐれも気をつけろ、と言い残して通信を切った。護衛はつけているものの、油断はできない。
もともとこの作戦は、数キロ先を正確に狙撃できるデバイス使いがいなければひどく不安定なものになる。AクラスとSクラスをひっくるめても、合格点と言えるのはわずか八名。
そのうち一名は負傷していたため、残りの七名でこの作戦を回している。誰かが欠ければ、他のメンバーに負担が重くのしかかるのだ。
(婆さんが抑えているとはいえ、怪物はまだこの海域にいる)
それが何体いるのか。レーダーで探ってはいるが、これだけで完璧とはいえない。
(最後まで、絶対に油断しない)
葵は前方のモニターをにらみながら、そう誓った。




