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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
故郷のための栄光
634/675

続く説得

「太平洋は半々に割れて、まあこれはこれで綺麗におさまるかもしれませんね」


 あおいはしれっと心にもないことを言った。


(実際そんなことになったら、毎日どこかで殺し合いだろうな)


 いくら未開の地がアスファルトで固められ、道路になろうと。いくら大型の飛行機が空を行き交おうと。輸送の主力は、未だに船である。


 対立する二大国が、干渉地帯もない海の上でにらみあったら……最終的には、どちらかが死ぬまで殴り合うことになるだろう。


「そんな未来はない」

「このまま放置していれば、あります。天逆毎は人間に生き残ってほしいなんて思っていませんから」


 人間同士が愚かな小競り合いをしている間に、化け物たちの基盤は磐石となる。後に残るのは、どこが眼だか口だかもわからない異形の生物のみ。そして彼らもまた、天逆毎あまのざこ天魔雄あまのさくの下に伏して生きていくことになるのだ。


「うまい話は所詮夢です。どの生物も勢力も、他所のために必死になったりしないんです。自分達の得になるなら大事にする、損になるなら排除するか放っておく」


 冷たいと言われようが、所詮この世はそういうものだ。だから関係ないと思えば、災害の映像が流れる前で飯が平気で食えたりする。


「以上、付き合いがあった国からの忠告でした」

「そうだな。立派な意見だ。それだけ言ったなら、自国のことは自国でやれるな」

「はい。天逆毎は責任もって、こちらで塵に返しておきます。そちらの手は借りません。想像するだけでなんだか晴れやかな気持ちになってきませんか」

「……まあ、少しは」

「それはよかった。では後はお任せします。ああ、姉貴よ。寄り道せずに、とっととこっちに戻ってくるんだぞ」

「あいよ」

「ち、ちょっと待て。お前はこっちに──」

「だってさっきいらないって言われたしー」

「あ、あれは」

「大統領らしくない、何をうろたえていらっしゃるんですか。そもそもデバイス技術はうちが発祥。各々自国だけで戦うと決めた以上、デバイス使いのレンタルも中止です」

「そうだそうだー」


 かなめが葵に調子を合わせて、はやしたて始めた。こういうところでは絶妙に勘がいい。


「……一国だけでやり切る気か」

「天逆毎くらいならそれでなんとかなりましょうけどね。あの巨大生物はちと辛い。姉貴以外、枕を並べて討ち死にするしかないです」

「なっ」

「なーに、ハラキリは日本の伝統芸です。司令官たちは見事に爆散してみせますよ。その後の始末なんて考えもしないで」


 ヘンリーがそこでちょっと考え込んだ。実際そうなった場合、どうなるかを考えているのだろう。


「そうなったら日本に残った技術と装備と予備人員なんて無駄ですね──まあ、近くの国にごっそり譲渡しましょうか」

「そうなったらあたしも住み替えだなあ」


 要は完全にこつをつかんで、葵にパスを出してくる。


「その時には司令官たちは全員ハラキリ完了だからな。新しい国の言うことをよく聞くんだぞ」

「プロテインあるかなあ」

「──それで脅しているつもりか」


 つもりではなく、脅しているのだ。自分達を放置するなら、精一杯お前らの立場を不利にしてやるよと遠回しに言っている。


「別に困りはしないでしょう。元々欧米人にはデバイス使いの適応者が少ないから、なくなったってどうということもない」


 これも嘘である。すでにアメリカ国内にはクトゥルフの邪神が出現している。それに効果的なのはデバイス使いだと、要が身をもって証明した。


 デバイスの権利が日本から他国に移って、そこが協力要請を拒否すれば。だいぶ面白くない事態になるのは間違いなかった。


 それからもあくまでねちねち遠回しに、葵は大統領をあおる。向こうがこういう表現が嫌いなことは承知の上で、ぎりぎりのところを何度もかすめた。


「なあ、おっさん。ここはおとなしく方針転換して、手を組んどいた方が得じゃねえの?」


 大統領に限界がきたところで、要が柔和な役を演じ始める。


「得、とは?」

「手を組めば、敵に情報が渡ることもない。それに短期間であのクソ野郎が倒せる」


 まだそこまでの話はしていない。葵は話の性急さに困ったが、大統領の怒気は少し緩まった。


「本当に敵の裏をかけるのか」

「実はデバイス使いだけでは不十分だ。手数が足りない」


 不明生物に攻撃を当てるには、かなりの弾数を同時にたたきこまなければならない。一般兵器による援護は絶対に必要だった。


「だから、艦も連れていく。貴国も提供してほしい」

「どうやら今までの会話は無駄だったようだな。君は大事なことを忘れて……うおっ」

「はいはい切らない切らない。まだ話の続きがある」


 要が背後から圧力をかけている。それが有効なうちに、一気にかたをつけるのだ。


「向こうの射程に艦を入れれば、砲台の的になる。こちらもそれは分かっています。しかしそれでも、沈まない方法がある」

「なんだと?」

「そちらの艦が教えてくださったことですよ。もう忘れましたか」


 米国から送られてきた映像には、バリーをはじめとした駆逐艦が沈むまでの様子もはっきり記録されていた。


 皆、その最後の姿に目を奪われていた。しかし、葵が見ていたのはそこではなかったのである。

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