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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
故郷のための栄光
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女王の処刑

「ただ、敵に有利です。最初はよくても、だんだん高台の陣地の強みが生きてくる」

「そうなんですよねー。向こうに余裕が出てくると、海側に増援を送られる可能性があります。その場合、両方で負けるってこともありえますから」


 戦場では不測の事態があちこちで起こるが、あまりに崩れる箇所が多すぎると負けになる。


「いくらデバイス使いが復活しても、こっちゃ立ち上がりかけですからね。できるなら勝利の報で、全体の士気を上げたいところなんですよ」

「うおおおおお」

「……ああやって自己発電してくれる人ばっかりじゃありませんからね」


 まだ走っている薬丸やくまるをちらっと見てから、指宿いぶすきは本題に戻った。


「というわけで、最後の四番目──これが私たちの目指すべきプランです」

「敵主力は海側へ、こちらの主力は陸側へ。相手を海に引き付けているうちに、陸からの包囲を完成させるんですね」


 九丞くじょうが要点をまとめる。


「コメントが完璧すぎて突っ込みどころがないというのもさびしいです」

「それはどうも」


 皮肉を言われても、にこやかに笑う九丞であった。


「とにかく、今のところ勝ち目は双方にある。あとは、いかに相手の勝利を邪魔するかが大事になってきます。ここは、現場の方の意見もお聞きしたいのですが」


 猫田ねこたに話を振られて、塚原つかはらは軽く手を上げた。


「要は相手の主力を海側に引き付ければいいんだろう」

「できますか?」

「無条件とは言わないけどね」


 塚原は何かを思い付いたように、宙を見つめる。九丞もうなずいた。


「まだこちらが付け入る隙がありそうです」


 九丞は全員を地形図の周りに集める。


「──この作戦、はじめの配置と展開の速さが鍵になります。いかに敵にこちらの目的を悟らせないうちに、望む形に持っていくか」


 九丞は忙しなく図面に鉛筆を走らせながら、さらに続ける。


「増援は、はじめ海と陸、ほぼ等分に配置します。これでしばらくは、敵にはどちらに進むか分からないはず。その間に、揺さぶりをかけます」


 九丞が塚原を見る。


「それにふさわしい人材がいますね」

「ええ。他のことはできませんが、この分野においては超一流ですよ」

「頼もしい。しかし、くれぐれも手綱は離さないように願いますよ」


 塚原と九丞は、意味深な笑みを交わしあった。それを見た指宿と猫田もようやく、腹が決まる。


「では、私たちはナビに入りますう」

「AクラスとBクラス、総勢三百名。各班に分かれて参戦します。遅滞なく動けるよう手配しますね」

「それでは、車両へ向かいましょう。塚原さん、薬丸さんを連れてきてください」

「へいへい。猪武者のお守りはお任せを」


 勝手知ったる面々は、軽い足取りでそれぞれの持ち場へと向かった。



☆☆☆



 目の前にそびえ立った火柱は、想像よりは大きかった。しかしその片腕は、すでに自分の一撃によってえぐり取られている。


 炎の中の瞳が、ぐるりぐるりと忙しなく回った。


「お前は、お前は!!」

「なんだ、死に損ないが。一度で懲りないとは、バカなんだな」


 かなめは地面を蹴った。武骨な雷刀で、再度クトゥヴアに切りつける。


 炎と刀がぶつかった。ぱっと火の粉が散る。またクトゥヴアの体の一部が、風の中へ消えていった。


 クトゥヴアが吠える。周囲の空気が彼の方へ引っ張られ、要は息苦しさを覚えた。


 火柱が膨らむ。要を囲いこむように、左右からじわじわと火の手が迫ってきた。


「さらば、我に恥辱を与えし者」


 クトゥヴアの目が細められた。要の周りから、完全に逃げ道がなくなる。


「……はあああ」


 要はクトゥヴアにも聞こえるよう、わざと大きなため息をついた。


「どーしてこう、前と代わり映えがしないのかねえ」


 その声を合図に、要はためておいた力を一気に解き放った。肌のすぐ側まできていたクトゥヴアの炎が、瞬く間に押し返される。


「その程度じゃ死なねえのよ」

「こんな人間がいるものか!! お前は何者だ!?」

「んなこた、あたしも知らね」


 うろたえるクトゥヴアに向かって、要は吐き捨てた。今まで数多の妖怪が、同じ事を聞いてきたが、要に分かるはずがない。


 自分は最初から強者だったし、これからもそうだろう。大事なことはそれだけだ。


「……なあ、今まで好き勝手やってくれたじゃねえか」


 要がクトゥヴアをねめつける。ついさっきまで余裕を振りまいていた怪物の体が、大きく波打った。


「土下座して泣きわめいても、もう遅えぞ」

「古き神に対し……あまりに不敬! あまりに尊大! 貴様だけは生かして帰さん!!」


 炎の柱が、根本からぐらりと傾いた。今度こそ全ての力をかけて、正面からぶつかってくる気だ。


「はじめからそうすりゃいいんだよ」


 要は自分の体の横で雷球を作りながら、つぶやいた。


「弱えんだから」


 雷球を放る。炎の渦の中で、青い光が妖しくきらめいた。


「ぐあ……が……」


 体内に侵入した異物を取り除こうと、クトゥヴアが身をよじる。しかし、彼が動けば動くほど光は細かく割れ、奥まで入っていった。


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