話が意外な展開に?
ようやく都だと納得した退紅がつぶやく。
「そこじゃ。皆も今の状況は知っておろう」
都が口火を切ると、全員が首を縦にふった。
「で、皆の力を借りたいと思うておる。ささ、もそっと近う寄れ」
全員が自分に密着したところで、都は作戦の伝達書を見せた。相手が胡蝶だと分かると、さすがに妖怪たちも戸惑う。
「そんな……」
「しかし、方法はこれしかない。今ここで止めねば、人にも妖怪にも安住の地などないのじゃ」
都がきっぱり言うと、妖怪たちは口をつぐむ。みんな、心の底ではそれに気づいている。しかし、はっきりと宣言するのが恐ろしいのだ。
「私は、始終何かに怯えて暮らすなど嫌じゃぞ。嬉しければ笑い、行きたければどこへでも行き、したい時にしたいことをする。そうでなくては生きているとも言えぬではないか」
気ままに、だが決して筋を外すことなく。都の理想は、妖怪の理想とも重なる。
「……そうだな。まず、やられた飯綱さまの分も返しておかねば」
「私たちの仲間も、取るに足りぬ理由で殺されました。──後悔させてやらねば」
退紅とトウビョウたちが、ついにはっきりと意思を示した。考えがまとまると、場の熱気はますます高まっていく。
「では、よろしく頼むぞ皆の衆」
最後に、都は熱っぽい口調でそう締めくくった。
☆☆☆
出ていってから三十分ほどで、都は帰ってきた。今度はちゃんと、白の上衣に緋袴姿になっている。背後で昴が、滝のような汗を流していた。
「決めた。参るぞ」
そう言いきってから、都はようやく葵の隣にいる男たちに気づいた。
「初めて会う顔じゃの……しかし、妙に懐かしい」
都が首をひねると、男たちが全く同じタイミングで笑いだした。
「この姿は初めてだけど、いつも会ってるんだよ」
「……そして半分おやつを分けてあげた」
「まさか、龍兄と涼兄」
都が言うと、二人は手で大きな丸を作った。
「にいにたちも飲んだのか。あれを」
「……まずかったけどな」
「妖怪の体成分がもとって聞いてたら、もうちょっと考えたんだけどね」
減らず口をたたく龍を、葵はにらんだ。
「それで大事な女性たちの危機を救えるなら、安いものだろ」
「……言えてる」
「確かに」
二人ともたちまちおとなしくなった。流石、「九割男の組織なんて嫌だ」と早期入隊を蹴っただけのことはある。
「よし、全員そろったな。作戦を説明する」
「手短に頼む」
「……右に同じ」
「僕ら、軍内部には詳しくないからね。必要なとこだけお願い」
三人の希望は一致している。葵はうなずきながら、パソコンを指差した。
「地図を見ながら聞いてくれ。やってもらうのは、この施設への攻撃だ」
葵が画面をいじると、画面に大きな鳥籠が現れた。その中には、青色に輝く蓮の花が咲いている。さらに籠を守るように、周りに白色の膜が張っていた。夏夜の闇中、白と青の重なりは刺さるような明るさでそこにある。
「鈴華にもこんな壁ができとったな。あれより綺麗で、霊的に価値が高そうじゃが」
都はそう言って、ちょっと口をすぼませる。
「葵兄、これは本当に攻撃せねばいかんのか?」
「ああ。綺麗に見えるが、これがあることで人間側は戦いづらくなっている」
「……なぜ?」
パソコンの画面がまた変わった。今度は涼が聞く。
「地脈を整える──と言えば聞こえがいいが、それは自然の力をより強めるということ。科学に重点をおく人間にとっては、分が悪い。逆に妖怪たちにとっては天の助けだ」
「へえ、頑張って起動させたのに。京都の方でも悔しがってたでしょ」
「夕子さまと話ができないとわかった時のお前ほどじゃない」
この計画を実行するにあたっては、当然京都に連絡をとる必要がある。葵はその時のことをからかっているのだ。
「それとこれとは関係ないでしょ」
「はいはい。で、本体を攻撃するにはこの膜がどうにも邪魔だ。そこで君たち兄弟の出番」
「あのでっかいのを撃って穴をあけろってこと? そんなの僕たちじゃなくてもいいじゃん」
「……たやすすぎる」
双子はぶうぶう文句を言うが、葵はとりあわなかった。
「並みのデバイス使いじゃ貫通しない恐れがある。二人とも、油断してると足元すくわれるぞ。十分気を付けろよ」
「はいはい」
「で、都だが」
やっと自分の名が呼ばれた末っ子が、嬉しそうにしている。
「この二人が狙撃体勢に入っている間、周りの妖怪が邪魔になる。今は猛兄の神虫も響姉のオモイカネもいない、しっかり守ってやってくれよ」
常に情報網を張り巡らしている二人がいない今、作戦展開は難しくなっている。葵は念を押した。
「心得た」
都は胸を張るが、双子の方は複雑そうだ。
「女子に守られるの?」
「……いい気がしない」
これは変なプライドではなく、好きな対象が危険な目に遭うのが嫌なだけだろう。ここまでくるとフェミニストとしては立派である。
「よいのじゃ。狙撃手は懐に入られると弱いじゃろう。して、葵にーには何をする」
ごねる双子を一喝してから、都が話題を変えた。
「ああ、今回は俺も出る」
葵がそう言うと、三人だけでなく室内の全員が一斉に目をむいた。




