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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
その参謀、十三歳
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そして新たな戦争へ

「え?」


 葵の意外な一言に、二人が反応した。葵は表情を一切変えないまま、続けた。


「何をする暇もないだろうさ。断言してもいいが、向こうは交渉なんぞする気はない。このきっかけに開戦する気だろ」


 相変わらず葵の口調も表情も一定のまま変わらないが、言っていることは過激さを増している。車中なのでそんなものはいるはずもないのだが、思わず大和と怜香はあたりを見回し、ほかに聞いている人間がいないか確認してしまった。


「なんでや。五十年前にやっと戦争が終わったとこやぞ。向こうさんかて消耗しとるはずやないか」

「いや、たいした損害はないだろう。デバイス導入までは明らかに妖怪側の方が優勢だった。それに、デバイスが投入されて明らかに分が悪くなった時、たった一ヶ月で停戦まで持ち込まれた。記録を見てみればわかる」


 人間側としては、もっと勝ち星を積み上げて有利な状況にしてから、より広範囲の領土の確保につとめたかったのだ。

 実際、勝ちに味をしめている妖怪側は、こちらを舐めてかかってくるだろう、少なくとも半年は戦線維持しようとするだろうと誰もが思っていた。


 が、妖怪側の諦めは良すぎるくらいに良かった。二、三の黒星がつくと、即座に指揮官から堂々と停戦の申し入れがあったのだ。これを無視することはできず、結局妖怪側は大量の戦力を保持したまま逃げきることに成功している。

 実質、向こうが勝ったまま逃げたようなものなのだ。


「向こうの指揮官は切れ者だ。停戦したのも、平和を望んだからではない。思いがけない新兵器の登場に対応するまでの時間稼ぎがしたかったからだ」


 そして五十年。その切れ者はようやく、地下から這いだし活動を開始した。デバイスに対抗する何かが見つかったのだろう、と葵は推測する。


「だから今回、行われるのは会談じゃない。宣戦布告だ。交渉は必ず決裂する、向こうに講和の気がないからだ。さて、古今東西。相手の要求を拒否するという意志を表現する、もっとも過激な方法の一つはなんだろうか」


 葵はぐるりと首を回す。


「それは、相手側の使者を殺すことだ。明確に、そして迅速にそれは拒否のサインになる」


 首でも送って来るだろうか。それが一番確実だからな、と葵はつぶやく。


「そこに、加藤を行かせるの?」

「ああ。あいつだけじゃなく、今までさんざ軍隊を食い物にしてくれた寄生虫どもと一緒だがな。この爺さんも向こうが腹に一物抱えているのはわかっている。五十年前にさんざん煮え湯をのまされた相手だからな。

交渉と言ってもやっちゃいましたごめんなさいで済むはずがない。だったら失っても惜しくない奴を送りこんどけ、とこういう具合だ」


 無論、確実に相手が首を切ることまでしてくるか? と言われると疑問が残るが、失敗したところでこちらに多大な被害が出るわけではない。


「本人たちはわかっとるんかな」

「わかってたら今頃とっくに逃亡してるよ」


 はあ、と大和はため息をついた。


「かわいそうだと思うなら、今から本人に忠告してやったらどうだ。もっとも、向こうがこっちにゃ会いたがらないだろうがな」


 葵がからかうように大和に言う。大和はしばらく考えて、首を横に振った。


「やめとくわ。そこまでしてやる義理もないし」

「私もパス」


 怜香も同意する。


「俺も同感だ。奴は、今までうまいこと逃げてきた悪行のつけをまとめて払うことになった。それでいいだろう」


 葵がそう締めくくった。三人は無言で目を合わせ、頷き合う。


「それよりジジイ。交渉は決裂するだろうが、責任はどうするんだ。間違いなく富永あたりはこっちに丸投げしようとしてくるぞ」

「えー、でも儂知らんし。『儂に言え』とは言ったが、『責任取る』とは言わんかったからのう。言ってきたら言ってきたで聞いてやるが、具体的に何かしてやる義理はないわいな」

「うわぁ」


 小学生並みの言い訳だが、この爺さんなら間違いなくそれで押し切るだろう、と思うくらいの押しの強さがあった。


「謝罪会見なんか絶対出てやらんもんねー。富永が出てたら録画しといてくれや。見ながら食うと飯が美味くなる」

「どこまでも食えん爺さんやな……」


 大和が脱力したように呟く。それを見て、かかかと豪快に巌が笑った。


「じゃ、儂行くわ」


 サイン会の事を思い出したのだろう、腰を上げて車内から巌が出て行く。その大きな背中に、葵は声をかけた。


「戦争になるか」

「なんだ、怖いかよ」


 にやっと笑って巌が孫の顔を見る。葵はこう返した。


「今度は、勝とうな」



 老兵と新兵、共に決意を新たにして、別れてから二日。陸軍本部前に、先日送りだした使者たちの五つの首が並んで置かれていた。

その首の断面は、獣に食いちぎられたようにずたずたに切り裂かれていた。


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