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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
その参謀、十三歳
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英雄と 思っていたら 物忘れ

 爺さんの乱入で吹っ飛んだ話が、ようやく本筋に戻る。ああでもないこうでもないと候補があがっては消えて行き、決まりかけるとまた反対意見が出て白紙に戻る。


「妖怪どもはけしからん連中だが、全面戦争を避けられる最後の機会だ。絶対に成功させねば」


 並ぶ士官の中でも、ひときわ立派なカイゼルひげをたくわえた年配の武官が鼻の穴を大きくする。彼がさらに演説をぶちあげようとした瞬間、


「かあ~」


と気の抜けた大あくびが室内に響き渡った。


 せっかく格好をつけたのを、絶妙のタイミングで邪魔された男は、あくびをした爺に食ってかかった。


「三千院! なんだそのザマは!」

「だって同じ話の繰り返しばっかで暇なんじゃもん。そう親の仇のように睨まんでもよかろ、富永」


「実際貴様らはうちの親の仇だ! 大体、ここにお前がいること自体がおかしいんだ」

「実戦を全部下に押しつけて、いざというときの対処をなんにもしてないお前らがもめたから、『あどばいざー』として来てやったのに。じじいショック」


 爺はもらった饅頭をかじりながら笑い声をあげたが、その目はちっとも笑っていなかった。物言わぬ迫力に押されて、富永と呼ばれた髭男は口ごもる。


「……三千院殿。貴殿はどうお考えか? どのような人選をすればよいか、意見をお聞きしたい」


 その様子を見ていた傍らの武官が慌てて口をはさんだ。


「そうじゃなー、儂の知っとる名前をいくつかあげるぞ」


 そう言ったが早いか、爺は原稿も何も見ずにつらつらと数名の名前をあげる。記録係があわててそれを書き留めた。


「正直、あまり戦功のあるものだという記憶がないのですが……」


 あがった名前に、多くの士官が首をひねる。


「真面目に考えとるのか」

「うむ」


 饅頭のカスを顔につけたまま、爺が言う。


「交渉の場とはいえ、あちらさんかなりやる気のようじゃからの。下手に戦功があるような血気の多い奴を送って、決裂させたくはあるまい」

「そ、それは確かに……」

「幸い口がうまそうな奴が幾人もおったのでな。儂の判断であげさせてもらった。まあ、何かあったら儂に言ってくるがいい」


 士官たちは目を見合わせた。皆、にわかにこの提案に魅力を感じているようだ。


 国難に対する判断に迷っていた。失敗すれば、戦争を倦んでいる国民からの反発は避けられない。憤怒を押し隠し、米つきバッタのように頭を下げるという貧乏くじを引きたくなくて、今まで誰もがああでもないこうでもないと議論をこねくり回していたのだ。


「構わんのではないか。そこまで言うなら」


 意外なことに、最初に賛成したのは犬猿の仲のはずの富永だった。


「自分も同感です」

「け、結構ですな」


 顔色をうかがっていたものたちから、ぱらぱらと賛成の意見が出始めると、決議が出るまではあっと言う間だった。実は終わるのを待ちかねていた士官たちが我先にと会議室を出て行く。


 その後を、悠然と富永が歩いていく。軍服を着ていても、だらしなく出た腹が重力に負けて垂れ下がった。


「よろしいので? 三千院の言うことなど容れても」


 富永に付き添っていた品の良い婦人が、彼に向かって声をかける。


「良いに決まっておろう。これだから女は考えが甘くて困る」

「はあ……」

「成功すれば、それを決議した富永の手柄。失敗すれば、全ては言いだした三千院のせいよ。どちらに転んでも、悪いようにはならん」


「はっ、思慮が足りませんで」

「分かったら黙っておれ。全く、最近の女はでしゃばりで困る」


 婦人はうつむいたまま、富永の後を追う。やがて、彼らの姿も消えた。


「「御館様」」

「おう、帰るぞ」


 焦りを隠せぬ双子の部下は、ひょいひょいと歩き出した爺の後を追う。しかし、やはり胸に収めておくことはできなかったようで、自家用車に乗り込んだ瞬間、同時に口を開いた。


「「何をなさるのですか」」

「……頼むからな、喋るのは一人にしてくれや」


 双子は目を見合わせ、やがて片方が口をつぐむ。


「あのような身勝手な召集に応じられたうえ、意見を述べられるとは何事ですか。明らかにこれは、奴らの責任逃れに利用されただけですよ」

「うん」

「うんじゃねえよ」


 爺のあまりの言いように、思わず双子の素が出た。


「見ましたかあの富永の顔。してやったりと言いたいのが見え見えでしたよ」

「儂、目が悪くなってのう」

「この前裸眼で十・〇だってはしゃぎまわって、池に落ちたのはどこのどいつだ」

「ちっ、物覚えのいいやつめ」


「私でも気付いたんです、御館様が気付かなかったなんてことはありえない! 何故のったんですか」

「教えないよーん」

「このクソジジイがああああ」


 ついに青筋立てて身を乗り出した双子の片割れを、もう一人が止める。が、彼の顔にもはっきりと怒りの表情が浮かんでいた。


「まあ、そう怒るな。儂だって何も考えとらんわけじゃない」

「む」


 双子が黙り込んだところで、爺は運転手に声をかけた。


「みっちゃん、頼んでばかりで悪いが、行くところがある。出してくれ」


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