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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
その参謀、十三歳
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修羅の路が交差する地

「往生際が悪いことよ」


 翁はとりあわず、低い声でささやく。あおいは翁を尻目にポケットから出したタブレットをすいすいといじった。間もなく画面に、黒煙あがる爆破地点が映し出される。


「航空部隊からの現在の爆破地の画像だ。見ろ」


 翁の目の光が、ぼうと目線を合わせるように動いた。


「地上から地下を撃った? どこから? そんな形跡があるか。上から撃ったのなら、地表がほぼ無傷なのはどういうことだ。その説明からしてもらおうか」


 自分では動くことのできない翁がかっと目を見開いた。怜香れいかたちが、あわてて画像を凝視する。


 葵の言った通り、所々コンクリートが割れているものの、地表のコンクリートは焦げも壊れもしていないところがほとんど。地上ないしは上空から撃ったのであれば、もっと荒れているのが当然だった。


「葵、まさか」

「武器搬出のために相手がわざわざ地下道を作ってくださってる。逃げ場のない地下で、火薬・爆薬に火が付いたらどうなるかな」


 その光景を脳裏に思い浮かべた葵以外の背中に嫌な汗が流れた。逃げ場のない、暗い横穴で炸裂する炎。おそらく、大半のものが何が起こったかもわからぬままその命を散らしたことだろう。


「俺がお前らの計画に気付いた時、武器の強奪もするだろうなとは思っていた。真っ先に武器をよその基地へ移すことも考えたさ。いくら欲しがろうとも、実際にものがそこになければどうしようもないからな」


 しかし、基地の人数は加陽山に応援を出してしまったこともあり、手薄な状況だった。やってくる妖怪たちに対応する戦線をしくので精いっぱい、とてもではないが武器搬出まで行う余裕はない。


 ならば、と葵は発想を転換させた。奴らの手に渡してしまうくらいなら、いっそ自分たちで壊してしまおうと。


 武器コンテナや火薬・爆薬のケース内に、遠隔操作で起動できる小型爆弾をつけまくった。爆弾の数が少なくて、全てにつけるわけにはいかなかったが、それでも時間的にはぎりぎりであった。


「なら、なぜ我らが来る前に爆発させなんだ」

「呆けたか爺。分かりきったことを聞くなよ」


 もちろん、その場で爆弾を作動することもできたが、そんな選択肢はハナからなかった。そんなことをしたら、せっかく何も知らずにやってきた敵にこちらの手の内を教えてしまう。その上、武器を搬入中に爆破できれば、運んでいる部隊に甚大なダメージを与えることができる。


「最小の手間で相手に最大限の嫌がらせをするのが戦術の基礎だ。喧嘩を売っておいて、相手が自分に都合よくふるまってくれるはず、自分が作った枠内で戦ってくれるはずだと思う方がどうかしてるんだよ」


 葵は戦争を始めるまでは慎重にふるまうし、殺しも嫌いだ。したいとも思わない。が、一旦敵とみなした相手に容赦するほどお人よしではない。敵意があり、武器をとったものを殲滅し、味方を守るために、自分は尉官となってここに立っているのだから。


 何か言いたげな翁に向かって、葵は淡々とこう言い放つ。


「なんだ。俺がひどい野郎だ、部下が可哀そうだどうしてくれるとでも言いたいのか。甘ったれるなよ老害」

「下種めが、あんな方法を使うものが良く言うわ」

「下種で結構」


 葵は本気でそう言った。地位を受けた時から、相手方の命を奪う覚悟などすでにある。


「本当にひどいのは、無能なお前だろうが。俺たちが襲撃に備えていたと分かった時点で、作戦を放棄させ撤退に入っていれば、少なくとも武器運搬部隊は全滅しなくてもよかったんだ。この結果を招いたのは、状況が変わったにも関わらず、お前が当初の目的に固執したからだ」


 指揮官はあらゆる場面において、敵の思惑を読まねばならぬ。敵はあらゆる方法でこちらの寝首をかこうとしてくるのだから、常に注意を払い犠牲を最小限にとどめるよう力を尽くさねばならないと葵は確信している。


「お前は根本的に間違っていた。お前たちは武器を持ち帰って戦力増強ができれば勝利、人間側は武器を持ち去られれば負け。そう勝手に思い込んだ」


 戦争以後少し学んだようだが、まだまだ妖怪たちには武器を作る技術もなければ材料調達も難しい立場にある。よって、彼らの頭の中には「銃や火薬は貴重品」という意識ががっちり刷り込まれているのだ。


 よって自然にこう考えてしまう。


「これこそが勝利の切り札。大切にしなければ。ただ人間が取り戻しに来るかもしれないから、対策はしておこう」と。


 その結果、持ち出し中に攻撃されて武器が破損しないように地下を通るという作戦になったのだ。それに地下なら、もし取り戻しにやってきても有利なのは自分たちの方だという利点もある。


 これが大きな間違いだった。確かに持ち去られれば、人間側は再び補充せねばならない。痛手は痛手である。


 が、たかが知れている。それよりももっと困るのは「実際それが人に対して使われること」である。実際、全部持ち出そうとせず半分でもここで使っていれば人間側の被害者はもっと増えたはずだ。


 それなら、下手に使われる前に爆破して使えなくしてしまった方がいい。多大な被害をかけて取り戻すより、相手ごとふっ飛ばせるなら無駄遣いしたことにもならない。


 結局、「自分にとってはかけがえのないものだから相手もそうだろう」という思考しかできなかったことが妖怪たちに負けを呼んだのだ。


 翁の目から、初めて輝きが消えた。


「今度こそ、勝利をと思うた。それすら、与えられなんだか」

「お前が阿呆だったからな」


「だが、これで終わりではないぞ。いくさになる。また、いくさになるぞ」

「百も承知。叩きつぶしてやる」


 もはや終わり、と悟ったのだろう。葵の一言を聞いて、髑髏はかかか、と笑った。


「修羅の道を歩むか、それもまたよし。われらもまた、修羅である。地獄で会おうぞ」


 それが髑髏の最後の言葉になった。

 大和が昆を振りおろし、白いかけらとなって翁は土に還った。



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