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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
その参謀、十三歳
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我に一切の驕りなし

 部隊からの報告を待っている間に、一行は骨に宿った魂を滅するために片っ端から骨を粉々に砕いておいたが、翁だけはとっておかれた。一番肝心なことを知っているのがこの人格だからだ。


 どうせ自分は滅せないだろう、とたかをくくっている翁はあおいを横目に笑いが止まらない。ひっきりなしに笑い続ける翁の姿に、一同の苛立ちはつのるばかりだった。


「正面ゲート、依然通過部隊なし」

「裏門、通過部隊ありません」


 二つある大きな出入り口に詰めている部隊からの報告は何度かあったが、その内容はいずれも変わり映えしないものだった。


 そして、頼みの綱であるはずの航空隊からの報告もぱっとしない。


「未だ発見できません。引き続き巡回を続けます」


 わかった、と言って怜香れいかは通信を切った。眉間にしわが入り、険しい顔つきになっている。武器が持ち去られているのが分かってから十分近くが経っている。発覚までにしばらくかかった時間も考慮に入れるともっと経過しているとみておいた方がいい。


 妖怪の中でも鈍足なものはいるが、それでもゲートさえ突破してしまえば、ある程度遠くまで行ける。さらに近隣の基地にも応援要請が必要かも、と怜香は口にした。しかし、葵はゆったりと首を横に振ってそれを否定する。


「どうして」


 怜香が葵に食ってかかったその時、足早に大和やまとが戻ってきた。怜香以上に嫌そうな顔をしながら、二言三言葵に耳打ちする。葵は半開きになっていた目を大きく見開いた。


「それならもういいか」


 葵が怜香の手から通信機を受け取った。たるんでいた現場の空気が、さっと引き締まる。今度はなにをする気なのだろう、と一同が葵の行動をじっと見守っている。翁も、耳障りな笑いをようやく止めた。


 葵の通信先は、さっきまでいた司令部だった。詰めていた鈴木二佐が通信に出る。


「どうした」 

「もういいでしょう。頼みます」

「了解した」


 それで通信は切れてしまった。あまりに短いその通信に、葵以外は結局なんだったのだろうと首をひねる。


「お前、何するつもり」


 や、と最後の音を大和はちゃんと発音したが、それはこの場にいた誰の耳にも届かなかった。



 突然、地を揺るがす轟音が立て続けに響き渡る。


 ただひたすら、爆発音と地面の揺れ。


 何かが焦げるときの鼻につく匂いがぱっと立ちこめ、夕方の風に乗って鼻をくすぐる。

 黒い煙が這い寄ってきて、一同はせき込んだ。

 人間たちは慌ててマスクを装備し、呼吸を確保する。


「一体、何があったんだ」

「終わったんじゃなかったのか……」


 部下たちの疑問の声が、爆音に混じってかすかに聞こえてきた。葵はそれには一切返事をしなかった。


 数時間も経ったように感じるが、葵が時計の針を見てみると、ようやく長針が三周まわったくらいだった。轟音でまだ耳が麻痺しており、音が聞こえづらい。怜香が何度か呼びかけてくれていたようだが、最初はまったく聞こえなかった。


「うおお、どないなっとんねん」


 大和の地声が大きいせいで、聞きたくもない奴の声だけははっきり聞こえるのが妙に腹立たしい。やたらめったら騒ぎまくるので最終的には後頭部をはたいてやった。


「何をした?若造」


 翁の声がする。さっきまでの余裕が消え、真剣に葵に問うてきた。


「お前らが一番困ることだ」

「なに」

「地中の奴らには気の毒だったな。進攻がばれた時点で計画を中止していれば死なずにすんだろうに」


 翁が息をのんだ。葵は自分が核心をついたことをその反応から読み取る。


「あれだけ真正面に大きいのを置いといて、さらに保険でもうひとつ作戦を実行していたのは褒めてやる。お前ほど大型の妖怪がぬっと現れれば、大体の人間は完全に気を取られる。その隙に、地中から穴をほって侵入し、目的の物をいただいて、気付いた時には倉庫はもぬけの空ってわけだ。物音なんて誰も気づかない」


 脱獄でも定番は地下トンネルや壁を掘る。人目につきたくなければ、地中を進むのは適した方法といえた。しかも、人間と違って妖怪側には様々な種族がいる。暗闇の中でも目が利き、速やかに土をかける種族がいれば決して絵空事ではなく、現実的な手段であった。


「まあ、急に掘るのは無理があるから、以前から少しずつ掘り進めてあって、あとはちょっと穴をあければ武器庫に出るようにしてあったんだろう。床はコンクリート造りだが、お前らの牙や爪はそういうものを粉砕できるくらいにはできてるからな」


 具体的にどの種族がトンネルを掘ったかはわからないが、それは今はどうでもいいことだと葵は思った。


「それで、地下のものたちめがけて撃ったわけか。さすが人間よ。まことに容赦がない」

「お褒めにあずかり恐縮」


 葵は大仰に、翁に向かって礼をした。


「だが、まだ甘い。地上から狙ったところで、分厚い地面に覆われた部隊に全て届くと思ったら大間違いよ」


 翁はまた笑い出した。


「断言しよう、必ずや生き残りが多数おる。地中は彼らの城、戦果を持ち帰りやがてはわれらの勝利を生むだろう」

「甘いのはお前らだ。そんなだから負けたといい加減気付け」


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