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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
その参謀、十三歳
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試合に勝って勝負に負けた?

「教えてやろうか。そういうのを負け惜しみと言うんだ」


 あおいが吐き捨てる。が、髑髏どくろの翁は動じない。


「うはは、うはは。勝ったと思うておる。愚かものめが」

「ほー。お前が地面にいるのは、勝ったからだとでも言うつもりか」

「儂は、もういかん。それくらいは分かっておるわ。だが、戦における勝利ならばわれらのものよ」


 翁の一言に、大和やまとたちが顔をしかめた。


「どういうことや。囮の部隊が勝っとると思っとるんか」

「各部隊からの報告をまとめて聞いたけど、どの部隊も基地内からの撤退を始めてるわ。あんたが地に落ちた時点で敗北を悟ったみたい」

「素敵な部下だな」


 髑髏を見下しながら、怜香が冷静に言い放つ。それに続けて皮肉を言った葵を、あわれむように翁が話し始めた。


「おう、逃げ足が速いこと速いこと。それは当然よ。われらの目的は成った。それならば長居するほうがよほど変ではないか」

「目的は成った?」


 怜香が眉をひそめる。それとほぼ同時に、彼女が手にしていた通信機から切羽詰まった声がした。通話が始まり、葵と大和も耳をすませる。


「はい」

「た、大変です」

「どうしたの」

「ないんです」

「落ちつけ。次に主語を抜いた報告したら軍議にかけるぞ」


 葵がすごむ。通話口の向こうからひ、と悲鳴があがった。


「貯蔵していた武器がないんです! 武器庫の中が、空になっています」


 最後の言葉は、泣き出す寸前にかろうじて絞り出したものだった。それが可笑しくてたまらない、といった風情でまた翁が甲高い笑いを始めた。


「武器がないって、どういうこと?」

「俺らの知らんところでまだ別部隊がおったんかもしれん」


 確かに基地は広く、その全てにきちんと兵を配備するにはあまりにも時間が足りなかった。完璧な体制だったとはお世辞にも言えない。


「ですが、三千院一尉の御指導もあり、武器庫には目を光らせておりました。そんな部隊がいれば絶対に気付いたはずです」

 責められたと思っているのだろう、報告してきた隊員は必死で抗議してきた。


「今は後回しにしましょう。実際、もう武器がなくなっているんだからその原因を検証しても仕方ない。それより、基地の外に持ち出される方が大問題だわ」

「出入り口付近の部隊に連絡を取れ。武器はまとめればかなり重量がある、飛べる種族でも抱えて飛ぶのは無理なはずだ。地上を移動してくれるならこちらに分がある。見つけ次第攻撃を開始しろ」


 怜香に諭され、泡を食っていた隊員はようやく平静を取り戻す。葵が横から淡々と言った指示に了解、と返事があり、通信はぶつりと切れた。葵は翁に向き直る。


「なるほど、態度が大きいわけだ。落とせないと踏んだから、途中から目的を強奪に変えたか」

「ようやく気付いたか。それは褒めてやろうぞ。残ったものはこれでさらに強くなる。弱き貴様らが、妖怪と戦えたのは武器の性能によることが大きい。ならば、われらが同じ武器を持てばどうなるか」


 翁はくく、と含み笑いをした。


「勝ち目はなくなるの。それが尽きる前に、また新たな武器を奪う。勝利の連鎖よ。さあ、あれがどう使われるか指をくわえて見ていると良いわ」

「どうやったか、どこへ運ぶ気か喋る気はないか」

「わかりきったことを聞くな。ただでさえ塵芥ちりあくたほどしかない寿命を無駄にするでないぞ」


 葵がアリアドネを呼ぶ。しかし糸を見ても、翁は余裕のある態度を崩さない。


「拷問でもする気か? 良く見るがよい。儂がそれで口を開きそうな男に見えるかのう。そうだとしたら主はぼんくらよ」

「可愛くないジジイだ」


 悪態をつきつつ、葵は糸をしまった。はったりは通用しないらしい。大和はいらだちを隠せず、冬眠前のクマのようにそこらへんをぐるぐると歩きまわっている。怜香は通信機からひっきりなしに聞こえる報告に耳を傾け、情報を集めようとしていた。


「聞こえますか。正面玄関を調べましたが、今のところ敵部隊が通過したという報告はありません」

「裏門も同様」

「そう……その二つが無理なら、あとは壁でも破るしかないわね」

「ありえますね。問題はどこの壁かわからないことですが」

「引き続き出入口の警戒は続けて」


 怜香は一旦通信を打ち切り、葵に向かって「これでいい?」と話しかけてきた。


「出入口に関してはそれでいい。ヘリを飛ばして、上空から監視させろ。なにしろ奴らは見た目が分かりやすい」

「わかった。手配してもらう」


 口早に通信が再開される。葵は腕を組んでぼんやりと怜香を見つめた。さっきからさっぱり出番のない大和は暇を持て余してうなり始めていた。


「おい、暇なら黙ってろ」


 しゃー、と猫の威嚇のような声を上げ始めた大和を邪険に追いやり、葵は思考を続ける。事態は進展のないまま、時だけが過ぎて行く。日はもはや完全に沈み、基地のライトが葵たちを照らした。

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