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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
その参謀、十三歳
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敗者の高らかな嗤い声

 さっきから髑髏どくろはなぜひたすら手ではらうような、ゆるい攻撃しかしてこなかったのか。巨体を生かして、体ごとつっこんでくるなり、顎で噛み砕くなりすればもっと効率よく部隊の数を減らせたはずなのに。


 答えは簡単、向こうは一気にケリをつけたかったのだ。


 髑髏の口がぎいい、と耳障りな音をたててゆっくりと開いた。その口の中に青い火の玉が発生し、瞬く間に大きくふくれあがっていく。


 それをどうするか、はもう考えるまでもなかった。標的にされたあおいも含むデバイス使いたちは、逃げ続けているうちに完全に一か所に集められている。


「ひいいい」

 悲鳴とも言えない、ひきつった声が誰かの喉から漏れた。


 暗闇に爛々(らんらん)と輝く髑髏の目と、不気味な炎。完全に味方の戦意は失われた、逃げ道もない。その様をあざ笑うように、骨の体がかすかに揺れた。


「おい」


 その時、あおいが髑髏をじっと見つめて声をかけた。




「お前の負けだ」




 葵の一言が終わると同時に、上空、髑髏の頭のさらに上にきらりと光る物体が現れた。


 それは純白に輝く女神の姿をしている。華奢きゃしゃな女神は身の丈を越えるほどの長槍を、ぶん、と大きく振りかぶる。

 そのまま一切のためらいなく、髑髏の頭頂を一直線に貫いた。


 上から衝撃を受け、丈夫な頭蓋骨がついに砕け散る。大きく成長し、今にも放たれようとしていた火球は行き場を失い、髑髏の頭の横で大爆発を起こした。

 砕けた頭蓋骨はその衝撃に耐えきれず、さらにばらばらに砕け散る。急に頭を失った骸骨はバランスを崩し、地面に向かって墜落した。


 食器棚の中身を一気にぶちまけたようなかしましい破裂音が起こった後、不思議な静寂が訪れる。


 静寂は、デバイス使いたちの歓声で破られた。巨体が崩れてしばらくして、ようやく危機が去ったとわかった時、一行の喜び様は実に盛大だった。


 歓声の中、怜香れいかがこちらへ歩いてきた。喜びに沸く隊員たちに盛大にもみくちゃにされている。


「呼んどったんか……」

「ああ」


 大和やまとが葵に言う。当然だ。七人しかいない貴重な戦力の一人を、佐久間たちの尋問だけで済ませるなんてもったいないことはしない。尋問が終わってすぐ怜香をヘリでこちらに急行させ、じっと待機して機をうかがわせていた。


 葵は途中から、どうやら髑髏がこちらを一カ所に集めたがっている、と気づいた。あちらにしてみれば、葵たちは蟻のように小さい。ちまちま逃げられるのは実に面倒くさいし、生き残りがデバイスを使ってくれば隙をつかれることになる。一気に片付けたいと思うのは自然だ。


 しかし、これは葵たちにとっても絶好のチャンスだった。一か所に集めた敵に背を向けた瞬間、怜香が髑髏の脳天を狙える。


 これは一種の賭だった。もし、相手が伏兵に気づいたら、単機で行動している怜香が危ない。その点では、一つしか目のない髑髏より、うじゃうじゃいた火の鳥や小鬼たちの方がよっぽど脅威であった。幸い瀬島せじま霧島きりしまのおかげで、察知されずにすんだのだ。


 賭けに勝った葵は司令部に連絡を取り、敵主力の無力化を報告。一般兵に残党の処理を命じた。消耗した瀬島、霧島、河合かわい桜井さくらいは後方に撤退していった。


 怜香と、どうしてもついてきたがるので仕方なく連れてきた大和を伴い、葵は髑髏の残骸に近づいた。相手は妖怪である。魂移しするような種族ではないが、確実にとどめは刺しておかなければ今度はこちらが寝首をかかれてしまう。


 巨大な骨の破片がそこここに散らばる中を、足を取られないよう注意しながら進む。大きな塊を放置しておくと再生するかもしれないので、見つけ次第破壊しつつ、髑髏の胴体部分に向かって歩んだ。


 倒された魂たちの恨み声が聞こえるが、葵は気にすることなく、ざくざく骨を踏みながら直進する。実際に襲ってくるなら脅威だが、声だけならば別に放っておいたところで痛くも痒くもない。


「いろんな意味で図太いやっちゃなあ、お前」


 大和の一言も、どうということはない。葵は必要なことをするだけである。


 ついにあまたの恨みの声を踏み越え、髑髏の頭部が落ちている地点まで到達した。爆発に巻き込まれたものの、頭部はかなり大きかったため、まだ巨大な骨片が地面に散らばっている。


「うはは」


 最後に聞こえてきたのは、妙に明るい老人の声だった。証拠はないが、髑髏の中心的な存在だったのはこの老人の魂だろうと葵は思った。


「何がおかしい」


 葵が聞いても、その間もずっと翁の笑い声は続いている。陰気な声ばかり聞いてきた一行にとって、笑い声は救いになるはずだったが、こうひたすら続くとこちらのほうがよっぽど気味が悪い。


「うはは、お前らの馬鹿さ加減が可笑しいのよ」


 うんざりするくらい笑い続けたのち、やっと翁はそう言った。

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