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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
その参謀、十三歳
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牙をもがれた鉄の兵たち

 あおいは素早く手をうった。大和やまとに向かって網を広げ、がっちり受け止める。


 落下が止まるやいなや、大和はすかさず起きあがって周りを見回した。体が動くことを確認すると、地面にむかって飛ぶ。葵が見たところ傷もなく、大和は生還することができたようだ。


「すまんなあ」

「礼ならヒトの目を見て言え」


 ぶっきらぼうに大和が葵に言った。落下した大和を葵が受け止めたのに対しての礼だった。言われると思っていなかった葵は少し驚く。ただよほど言いたくなかったのか、大和の顔は完全に明後日の方向を向いている。


 葵たちを見下しながら、首を妙に右に傾けた髑髏が大きく口を開く。大和の一撃が当たった首が支えきれないのか、頭蓋骨がゆらゆら揺れていた。


「おおい」


 髑髏どくろの口から、妙に辛気臭い男の声がした。


「おおい」


 今度は、若い女の声だ。


「おおい」


 次は、まだあどけない男児の声。一声髑髏が鳴く度、違う人間の声が聞こえてくる。さすがのデバイス使いたちも気味悪さで顔をしかめた。


 そして、髑髏が一声鳴く度に薄明るい、丸い光が周りに集まっていく。夕暮れの薄暗さと相まって、まるで墓地の真っただ中にいるような不気味な光景だった。


「がしゃ髑髏は、野たれ死んだ人間の魂が集まってできたと言われている。仲間を呼んだな」


 葵が呟いたとき、その集まった新たな魂たちが、すうっと髑髏に吸い込まれていった。次の瞬間、なくなっていた右腕がにゅう、と生え、かしいでいた首も元に戻った。


「げ」


 大和が肝をつぶした。今まで散々苦労してきたことが、全くの無になったのだ。他のデバイス使いたちも悲鳴をあげる。


「これ、まさか最初に逆戻り?」

「しかも、こっちは消耗したままよ。繰り返されたら絶対に勝てない!」


 顔に疲れが出始めた霧島きりしまが呆けたように呟く。河合かわいが力なく瀬島せじまの背にもたれかかった。


「応援を呼びましょう。もっと破壊力のあるデバイスで、一気に倒さないときりがない」


 桜井さくらいが言う。葵もそうしたいのは山々だが、呼んだところで来はしないだろう。なにせ、市内から応援を呼ぼうとしたら、全力でいちゃもんをつけられたのだから。


 葵は妖怪たちと事を構えるなら、最初から圧倒的な力で叩き潰さなければと考えていた。ましてや、これは市街地へ攻め込む足がかりを敵に与えるかどうかの大事な分け目の戦いである。余計な手加減はするだけ無駄だ。


 しかし、上層部はそれを認めない。デバイス使いは徹底的に市内に配置し、市を守るのが当然とかたくなに譲らなかったのだ。


 一見もっともに聞こえるが、葵はその背後にある本音を読み取っていた。なんてことはない。ここまでくれば、上層部も下手をすれば攻め込まれるだろうな、くらいは当然分かっている。


 そうなると、可愛いのは自分の身だ。あくまで、自分たちを守るために有能な奴は外に出したくないのだ。それでもまだ市内にいればましな方で、ひどい奴など今頃さっさと市外に脱出しているに違いない。


 当然、三千院さんぜんいん家への嫌がらせもある。生意気な家の息子が司令官なのだから、徹底的に邪魔してやれという裏からの根回しもあったろう。葵は、桜井に首を横に振ってみせる。


「じゃあ、どうしろっていうんですか!」


 桜井から悲痛な声が上がる。髑髏が葵たちをとらえようと手を伸ばしてくる中、全員貴重な体力を消耗して逃げ回った。


「大和。さっきのあれ、もう一度できるか」

「登るやつか。無理やろ」


 大和は葵の提案をあっさり拒否する。


「さっきはな、左手しかなかったから邪魔が入らんかったんや。右手があったら、登る途中で叩き落とされとるがな」


 そうだな、と葵も同意する。もともと言ってみただけで、可能性があったわけではない。


 瀬島・霧島・河合も、髑髏の猛攻に対して成すすべない。小鬼はあらかた片付いたものの、体力を消耗させられている。完全に髑髏の思惑通りにことが運んでいた。


「もう弓が引けないわ!」


 追われてこちらへ駆けてきた霧島が言う。同行している瀬島の顔色も青白く、消耗が激しいのが見て取れた。


 こういうとき、一番駄目なやつが覚醒したりするのだとばかりに皆が河合の方を見たが、完全にのしイカのようにへたばっていた。慣れない馬に酔ったらしい。人間、そうそう簡単に変わったりはしないのだ。


「あ、あかん」


 突然、大和が顔色を変えて叫んだ。


「おいみんな、ばらばらに逃げるんや。速う」


 大和は他の者たちにあわてて言うが、皆一様に戸惑っている。助けを求めるように葵を見た。


「お前も言え!」


 大和は葵に詰め寄った。葵にも彼の言いたいことがわかった。

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