油断から地獄へお連れします
がしゃん、と大きな音を立てて、がしゃ髑髏の手関節が砕け散り、右手首から先が地面に落ちる。指の骨は落下の衝撃に耐えきれず、細かい断片となって飛散する。葵の周りにいた隊員たちから歓声があがった。
見慣れた大和が、腰に手をあてて天を仰いでいる。葵にとっては非常に鬱陶しい。
「感謝せーよ」
「はいはい」
「はいは一回や!」
「はいはい」
恩着せがましいことを言いながら、ガッツポーズをとる大和を葵は受け流す。雑やな、と大和は不満を漏らしているが、葵だって助かったとは思っているのだ。本当にどうでもよかったら自分は返事すらしない。
「今のを見たか。この中で一番破壊力が高いのは、こいつのデバイス『斉天大聖』だ。全員、サポートに回れ。敵の動きを封じるんだ!」
「了解!」
デバイス使い全員が葵の指示をただちに理解し、散っていく。葵も、アリアドネを呼んだ。
「へえ。嫌ちゃうんか。俺のサポートなんか」
「嫌どころか大嫌いだ。ただ、この場で一番使えるのがお前であるなら、使う。それだけだ」
「御立派なこって」
「行け。さぼったら首飛ばすぞ」
葵ににらまれ、大和がへ、と鼻を鳴らして駆けだす。それをとらえようとする髑髏の左腕が、葵の糸にかかる。巨大な骨の塊を完全に止めるだけのパワーはないが、腕の動きが明らかに遅くなった。
「そう何回もやらんでくれや。こっちも飽きるわ」
大和が口元をつり上げてにやりと笑う。狙いを変えぬまま、左手の骨に向かって崑を振りおろした。
危機を察した髑髏の左手が糸を切ってとっさに奥へ逃れる。大和の昆は空を切り、指先の骨をいくつか削り取るにとどまった。
アリアドネの糸をより合わせてかなり丈夫にしたはずだったか、これでもまだ弱いかと葵は舌打ちした。もっと強度を上げるとそれだけ葵の消耗も激しくなるが、仕方ない。
前方がにわかにやかましくなった。かん高い、不気味な音がこだまする。ちょうど調子の外れたバイオリンをへたくそがひっかき回しているような音だった。
みると、髑髏の胸元から子鬼たちがわらわらと這い出てきていた。大きさは鬼といっても小学校にあがった子供くらいだが、鋭い爪を持ち、こちらに向かって走ってくる。
「こんな奴らまでいたのか!」
桜井が、ヘスティアを向かわせようとする。が、葵はそれをおしとどめた。
「動くな。あくまでお前と大和は髑髏に専念しろ」
小鬼に気をとられているところを、上から一気に押しつぶされては何にもならない。火球の目くらましがなくなれば、髑髏の攻撃が一気に激化してしまう。
「瀬島、霧島を拾って小鬼の掃討にあたれ。相手は小さい、囲まれても馬の足なら蹴散らせる」
葵が指示を飛ばすと、瀬島は駿馬の足を使って、あっという間に霧島の元まで駆けつけた。霧島も心得た様子で馬上にすぐあがる。
「いくよ!」
瀬島が一声かけると、水をまとったケルピーはぶるりと体を動かし、小鬼たちの群れへ突進していく。瀬島と霧島にはさまれた河合が「ひいい」と死にそうな声をあげたが、二人とも気にした様子はなかった。
葵は、太く練り直した糸を使って小鬼たちを囲い込む。髑髏の馬鹿力には負けるが、小鬼程度なら引き倒せる。
連続して糸を動かし続けると、葵の手足の感覚が徐々になくなってくる。女の子のようと周りから言われ、鍛えても鍛えてもうっすらとしか筋肉がつかぬ自分の体が元々好きではなかった。
「大嫌いだ、こんな体」
葵は吐き捨てた。連続して操ってみて初めてわかったことだが、くねくねと動く糸は、放っておくと明後日の方向へてんでばらばらに動いていく。小さい頃から馴らされているはずなのにこの体たらく、と自嘲した。所詮、これがBランクの実力ということか。
葵をフォローするように、ケルピーがざざあ、と地を駆ける。駿馬の足で踏みつぶされた小鬼がばたばたと地面に倒れ、葵の目前がにわかにすっきりした。ちらりと馬上の三人に目をやる。
霧島の消耗が激しいな、と葵は察した。彼女はベテランのため、動けなくなるまで消耗することはしないだろうが、安易に離脱もさせてやれない。ここらで仕掛けないと、まずいかもしれない。
葵は振り向いた。大和に指示を出そうとして、口をつぐむ。大和が、何かを狙うようにじっと前を見据えていたからだ。
ヘスティアの作る、ぼうぼうと燃え盛る火球は徐々に数が減っている。それでも邪魔なのか、髑髏が左右に首を振った。
大和がその瞬間動いた。地面についていた左手から骨本体に乗り移り、そのまま前傾姿勢を取っている相手の体を一気に駆け上がる。
髑髏が、振り落とそうと体を垂直に立てた時にはもう、大和は肩の上まで登っていた。そのまま、肩の上から首関節の骨を狙って昆を振りぬく。
綺麗な弧を描いた昆は、大和の意図通り首の骨の一つに直撃した。連なっていた骨に大きなひびが入り、首全体がぐらりとかしぐ。
「もう一発!」
大和は調子に乗ってもう一撃を加えようとしたが、勢いがつきすぎたため、骨の上に置こうとした足が滑った。
「しまっ」
大和が踏みとどまろうとしたが、ひっかかりがなにもない骨の上では無駄な努力だった。そのまま彼は地面に向かって落下していく。




