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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
その参謀、十三歳
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もうひとつ切り札を

「一尉、あれはがしゃ髑髏どくろですか」

「ああ」

「ふうむ、話に聞くより大きいですね」


 がしゃ髑髏は、山をも超える巨大な白い骸骨がいこつである。発見されたのは近代になってからだが、一度見たら忘れられないほど見た目は印象深い。妖怪の専門家ではない葵でも知っているくらいの有名な奴である。


「的が大きい分、よく当たりそうです」


 霧島が果敢にも妖怪の頭に狙いをつける。金の矢が弧を描いて飛んで行った。しかし、がしゃ髑髏の頭にかん、と当たっただけであえなく跳ね返される。


「なんなのですか、あいつ」

「頭は仕方ない。滑るし一番骨が固い。他から狙え」


 ショックを受けている霧島を葵がなだめる。貫通できるくらい破壊力があればいいのだろうが、あいにくそこまで頑丈な矢ではないらしい。ならば、狙い方を変えなければならない。


「……仕方ないですね。まずは、手を落とします」


 よく見ると、敵は上半身だけの姿だった。ならば、しつこくこちらに攻撃を仕掛けてくる左右の手さえ潰してしまえば、だいぶやりやすくなる。


 骨の手がまた空を切って襲いかかってくる。霧島はそれにひるまず、手関節の小さな骨を狙って執拗な射撃を加える。


 何度目かの射撃が当たった時、大きな音とともに手骨の表面に細かいひびが走っていく。小癪こしゃくな、とばかりに今度は死角になっていた左側から、同じような一撃がくる。それを悠々と見ながら霧島が弓を構えたところで、河合が悲鳴をあげた。


「も、もう限界です」


 葵と霧島が目を見合わせ、河合を引きずって横跳びする。かろうじて左手の直撃からは逃れた。


 敵の攻撃を完全にすり抜けるという、強力な能力の割に次郎吉があまり使われないのは、欠点があるからだ。それは、効果範囲が狭いことと、使用者の体力消耗が大きく持続時間が圧倒的に短いことだ。河合に頼れるのもここまでか、と葵は唇をかむ。


 さっきまで守ってくれていた煙管の煙はかき消え、骨の手が生み出したすさまじい風が直接三人を襲った。細かいほこりが舞い上がり、葵たちは慌てて目をかばう。


 髑髏に少しでも頭があれば、さっきまでと状況が変わったことに気付いたろう。葵は体に叩きつけてくる風が弱まった瞬間に目を開け、敵の出方を確認しようとする。


 だが、遅すぎた。髑髏は、今度は両側から包み込むように手の形を作ったところだった。このままでは、なすすべなく三人仲良く握り潰される。


 地上に逃げ場はない。上手くいくかわからないが、糸で上に逃れるか? と葵は考えた。


 葵がデバイスに手をやった時、前方にごうごうとうなる火球が見えた。さっきの火の鳥たちを思い出したのか、河合が悲鳴をあげた。


「妖怪たちが戻ってきた」

「違う、味方だ!」


 葵は河合をこづいて落ちつかせた。さっきの鳥とは、炎の形が違う。火球は宙を泳ぎ、葵たちの真横で骨にぶつかって激しい音を立てた。


 思わぬ一撃に、髑髏の手が緩む。葵たちは骨の隙間から転がり出て、ぜいぜいと呼吸をする。


 葵の目の前に、軍服姿の桜井がいた。そのさらに前にヘスティアが、主をかばうように仁王立ちしていた。


「御無事で。間に合ってよかった」

「すまん、助かった」

「迷惑かけます」


 皆口々に桜井に礼を言う。河合が今にも消え入りそうな声で、葵に向かって役立たずですみませんと付け加えた。しかし、最初から彼のデバイスが長時間使えないのはわかっていた。連続使用させた葵が悪いのだから、彼が謝るのは筋違いだ。


 葵が気にするなと口にした時、後方からケルピーに乗った瀬島が駆けてきた。あまり戦っていないのか、まだ瀬島の顔色はいい。


「各部隊退避、指示を待たせています」

「よし、それでいい。すまんがこいつを乗せてやってくれ」


 葵の指示により、河合はケルピーの背にのせられる。広い背中は、男を二人のせてもびくともしない。ようやく落ち着いた河合に「よくやった」と葵は声をかけた。


 葵の腰の無線が鳴る。前方に注意をはらいつつ、葵は報告を聞き始めた。鈴木二佐の声は、戦場でもよく通る。


「状況は」

「正面ゲートに押し寄せた妖怪の三割を撃退。残りは依然膠着こうちゃく状態、敵は重要な設備があるエリアまでは踏みいってきていない」

「ほう」

「作戦は続行可能。ただし、思ったよりこっちの反応が素早いのに敵も気づいたようだ。囮部隊の一部が撤退を始めた」

「市街地に入れると厄介ですね。撃ち漏らさないようお願いします」

「ああ。ほかの基地からの応援が今やっと出発したと報告があった。うまくいけば前後からはさみうちにできる」

「間に合うか微妙ですね。が、悪くない。そちらのことは任せました」

「了解」


 他の部隊まで総崩れになっていてはたまったものではないが、幸い状況はそこまで悪くない。葵は心おきなく目の前の髑髏に集中することにした。


 葵が鈴木二佐と通信をしていたその間も、髑髏へのヘスティアの火球攻撃はやまない。的が大きいものだから、百発百中だ。ただし、火球の攻撃をもろに食らっているにもかかわらず、骨の表面にはうっすら茶色い色が付いているだけだった。焦げというのすら図々しいほどの軽微なダメージである。


 だが、それでいいのだ。目的は、大きな損傷を与えることではないのだから。攻撃役は、別にいる。


「そろそろいいぞ」


 葵は物陰からちらりとはみ出している味方に向かって、ぼそりと言う。今いるメンバーの中で、一番使えそうな奴がようやくやってきた。


 火球による連続攻撃で、一瞬髑髏の動きが止まった。その隙を見逃さず、走り出た影がある。

――大和やまとだ。


「よう、主役がきてやったで」


 大和は俊敏な動きで、あっという間に髑髏との距離をつめる。まだ動きの止まっている髑髏の手首を、大和の昆が容赦なく打ちすえた。


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