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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
その参謀、十三歳
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弾丸の雨の中で会いましょう

「さすが怜香れいか、隙のない報告だ」


 基地に到着し、加陽山の怜香から送られてきた供述を一通り聞いた葵は、それを全て頭に叩き込んで通信を切った。怜香に託した甲斐あって、無事に佐久間さくまたちの口はこじあけられたのだ。逆境に決して膝をつかない戦乙女からの一撃は、軟弱ものにはさぞかし効いたことだろう。


「どないなっとる、こっちはみんな配置についたで」


 報告がひと段落したのもつかの間、今度は通信機から大和やまとの声が聞こえる。大和が大声でまくしたてるものだから、葵は思わず機械本体を放り投げた。


「のわっ」


 機械が地面にたたきつけられる音に、今度は大和が仰天する。


「なにすんねんこのボケ」

「こっちの台詞だ。いきなり発情したさいみたいな声でがなるな」

「さ、犀て」


 一度取り落としたにも関わらず、通信は正常に続いていた。葵の傍らの整備兵が「高いんですよ、それ」とぼやく声が聞こえてくる。葵は整備兵に謝って通信機をしまい、大和たちに合流する。


「遅いで」

「一尉、お待ちしておりました」

「君の言う通りになったな。最初は何を言うかと思ったが……」


 大和や部下たちとともに、この基地の司令である鈴木二佐が声をかける。葵から妖怪軍の急襲を知らされ、最初は半信半疑で対応していたが、偵察部隊から続々と敵部隊の存在が報告されると彼の態度は一変した。


 加陽山かやさんの部隊を引き揚げると、作戦を見破ったことが敵にわかってしまう。そのため市内の警戒に当たっていた部隊を一部呼び戻し、ようやく迎撃の体裁を整えた。


「基地前方に敵部隊が確認されました」

「その数およそ五百、種族はばらばらで統一性がありませんね」


 前線から報告があがってくる。葵は自分のあごをいじりながら、佐久間たちから聞きだした通りだとつぶやいた。


「きたな。正面玄関に種族ごたまぜの軍が来る。風や煙を起こせる種族を大量に配置しているから、近づくとやっかいだが、離れたところからならこちらの武器も当たる。狙撃部隊を組んだな? 相手の射程外から狙い撃て」

「了解、狙撃開始します」


 指令室から兵士たちに向かって鈴木二佐の指示が飛ぶ。現場の喧騒とはうらはらに、指令室は緊張のためしんと静かになった。その沈黙を、大和が破る。


「これだけ……てわけはないわな」

「ああ。必ず本隊がいる。それを止められるかどうかが今回の作戦の結果を決める」

「数で来るだろうか。それとも、大型の個体で力任せに攻めてくるか」


 鈴木二佐が葵に聞く。葵は首を横に振った。


「残念ながら、佐久間たちは本隊についてはあまり聞かされていないようですね。囮部隊のことはいくらでも喋るんですが、後はさっぱりで」

「やはり妖怪から完全には信用されておらんかったな。まあ無理もないが」

「仕方ありません。数が多いだけの部隊なら奴らを分散させて各個撃破。ただし大型の妖が出たら一般部隊は撤収させて後続と合流、最初からデバイス使いが対応することにしましょう」

「わかった、それでいこう」


 鈴木二佐はまた指示出しに戻る。葵は基地内の様子を映し出すモニター画面をにらみつけた。非常時のために、各隊の進撃や撤退の道筋は通路の一本まで詳しく指示した。一般隊員の対応については問題ない。後は大将が、どこからくるかだ。


 葵の指示をうけたデバイス使いたちがすでに各配置で、動向を見守っている。


 正面ゲートに大和と、加陽山かやさんに来ていたヘスティア使いの桜井さくらい。裏門にアルテミスの使い手、霧島きりしまとケルピー使いの瀬島せじまが詰めている。中央付近にある指令室には葵と市内から引き揚げてきた河合かわいという男が陣取った。合計六人の小規模部隊である。


「敵の囮部隊が正面玄関に到達、ゲート破られました」

「数は」


 予想より早く、妖怪たちに正門を突破された。葵は報告に耳をすませる。


「その数およそ二百。射撃でだいぶ減りましたが、奴らは戦意を失っていません」

「まずいな」

「二佐、指示を」


 葵にうながされ、鈴木二佐はマイクをつかむ。


「敵に頭があるなら、こちらの意志疎通を妨害するために、電子機器を狙ってくるかもしれない。暗闇ではあちらの方が自由に動けるしな。通信室と電気系統の設備は死守せよ。武器や食料の持ち去りも奴らの戦力を増強する。格納庫の近隣部隊は各自迎撃体制に入れ」

「砲撃部隊の配置完了しております。二佐、砲撃の許可を」

「許可する。敵はまだ正面玄関付近に密集している。的はまだ大きい、撃って撃って撃ちまくれ!できるだけ数を減らすんだ」

「了解」

「俺らも応援した方がええんちゃうか」


 鈴木二佐の奮闘を横目で見ながら、大和が葵をせっついた。が、葵はとりあわない。


「お前らは駄目。雑魚相手に消耗してどうする」


 葵にきっぱり言われても、大和はまだ不満そうに鼻をならす。大和だけでなく、桜井の返事もさえない。目の前で味方がやられているのだから、彼らが行きたくなるのも無理はない。が、ここはきちんとしめておかないと作戦自体が成立しない。


「いいか、戦う相手を間違えるな。絶対に相手の挑発に乗るな。デバイス持ちが主力以外の妖怪討伐に加わることは禁じる。もし破った場合は、ありとあらゆる三千院さんぜんいん家のコネを使いまくってでも、必ず個人を特定して懲罰を与えてやるから覚悟しろ」


 通信機越しなので届くのは音声だけだとわかってはいるが、少しでも真意が伝わるように思い切り冷たい表情で葵は告げる。無論、これは単なる脅しではなくやるといったら本当にやる。幸い葵の意図は正しく伝わったらしく、大和たちから反論はなかった。


 囮部隊の侵入で、基地内がにわかに騒がしくなった。妖怪は人間たちがデバイス使いを集め、準備を整えていることを知らない。本隊は、これをチャンスと考えるだろう。もうしばらくしたら、必ず動き出すはずだ。


「裏門付近に新たな敵部隊出現! 基地内に侵入してきます」

「ゲートは封鎖してある、食い止めろ」

「駄目です、奴ら飛行しています。門を飛び越えました!」


 葵が見ていたモニターに、一瞬だけ真っ赤な鳥の姿が映る。羽の色が赤いわけではなく、鳥の体自体にぼうぼうと燃える炎をまとっている。間違いなく、妖怪だ。


 ついにきたか、と葵は腰をあげた。鈴木二佐もマイクを握り、指示を出す。


「霧島、瀬島。デバイス使用許可。一般部隊と力を合わせて敵を迎撃せよ」

「裏門付近の隊は急行し、デバイス使いを援護せよ。銃撃許可する」

「了解」


 霧島が早速アルテミスを呼ぶ声がする。瀬島のケルピーは飛行能力はないため、空中の敵に対しては彼女の弓が頼りだ。霧島たちの健闘を祈りつつ、葵は大和と桜井に連絡をとった。大和たちが指示を受け取ったのを確認し、通信を切る。


「俺たちも行くぞ」

「はいぃ」


 葵につられて河合も走り出したが、河合の表情は硬いし右手と右足が一緒に出ている。デバイス使いにもいろいろいて、この男は普段は補助的な任務に専念していた。自分が直接戦闘に参加するのは初めてのようだし、デバイスの能力も怜香や大和たちとは全く違う。まあ、それならそれで使い様はあるわけだが。


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