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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
その参謀、十三歳
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いつか必要になる過去の世界

 少し間が空いてから、三輪みわ怜香れいかに向かってきつい口調で言う。


「ふん、それでいくと、私たちは妖怪と手を組んでるのに、彼らを戦闘行為に巻き込んだわけ? 矛盾してない?」

「いいえ。大規模な戦闘行為になることこそが、彼らの望みだったんです。たとえ、自身が死ぬことになっても。それで、人間を囮である自分たちに引きつけられるのなら」


 今こそ、話の山場に入ったのだと怜香は確信する。三人に言い聞かせるようとつとつと話し続けた。


「最後まで分からなかったのが、『人間側にここまで妖怪が肩入れするのはなぜか』だったんですよ。あなたたちに協力したところで、彼らが得することは何もないように見えましたから」


 だが、一行を助けるために現れた応援部隊を見た時に、あおいはぴんときたのだ。


 今、応援部隊を出している近くの基地の警備はその分手薄になっている。まさかガラ空きにはなってはいまい。が、妖怪側が本当に攻略したいのは加陽山かやさんではなく、より市街地に近いこの基地だとしたらチャンスではないか、と。


 囮に使った妖怪たちの数の多さを見ても、彼らは今までのような散発的な小競り合いではなく、全面的な開戦を望んでいる可能性がある。それならば、単なる野山より軍事基地を落としておいた方がはるかに効率がいい。ここで、加藤を陥れたい佐久間達と、幸先の良い開戦のための足がかりが欲しい妖怪の利益が一致したのだ。


 加陽山に最も近い基地を落とされれば、人間側は東西から人口の多い市街地をはさみこまれる格好になる。妖怪側からすれば、人間たちと接触するという屈辱を冒してもやるメリットはあった。


「あなたたちはそれぞれ、自分の現状に失望していたと思います。佐久間さくまさんはもちろん、三輪さんは女性であることで昇進も遅く、持病が悪化したのをきっかけに退職をほのめかされていたことが分かっています。則本のりもとさんは、御実家の工場が借金を抱えて首が回らなくなっているとか。何故真面目にやってきたはずの自分たちが不幸なのか、と悩んだあなたたちが行きついたのは、人類の敵と手を組み、不幸をばらまく。みんな不幸になればいいという結論だった」

 

 怜香は銃口を佐久間の眉間に向け、じろりとにらみつけた。


「ですが、私たちはそんなことは許さない。妖怪たちの好きにはさせない、都市進攻は絶対に阻止してみせる。言いなさい。奴らはどこから来るのか。どれくらいの部隊で、いつ襲ってくるか」


 佐久間が拒否するように、下を向いた。怜香は佐久間の靴、数センチ前に向かって発砲する。ぱあん、という音がテントの中にこだました。


「交渉する機会は今が最後です。砂時計の砂はもう落ち始めている。言っておきますがあなた方が望むように、すっぱりこの世と縁は切れませんよ。少しなりともましな待遇で余生を送りたいのならば、そのない頭を少しは使うといいでしょう」


 怜香が撃った弾丸は見事、佐久間の前にめり込んでいた。銃からかすかに出ている煙を見た三人は、ただ黙って顔を見合わせた。

 



☆☆☆





 とうとう全面自供することになった佐久間達の聴取は、一人ずつ別々のテントで行われた。佐久間の話を聞き終わった怜香は、すぐ他の二人を取り調べた部下を呼びよせる。


「結果は」

「全て終わりました」

「こちらもです」


 三人固まって、供述をつき合わせて、最終結果を出す。怜香はレコーダーのスイッチを切り、部下に手渡した。


「すぐネットにつないで、これを三千院さんぜんいん一尉の端末に転送して。迅速に頼むわよ」


 はい、と威勢の良い返事とともに部下は走って行った。その後ろ姿を見て、怜香はふうと息を吐く。作戦開始に間に合っただろうかと、しても仕方ない心配が心をよぎる。あおいはもちろん最善をつくすだろうが、情報はあればあるだけ良い。


 あれこれ心に思い浮かべていると、無意識に怜香は胸元に手を伸ばしていた。いつの間にかこの動作が、不安な時の癖になってしまった。


 手を胸に置いたまま、怜香は昔を思い出す。


 結局、父が死んでからの三年間はまさに飛ぶように過ぎて行った。学校でいじめられるようになり、学業にも支障が出たため、やむなく父の保険金を使って葵と同じ学校に転校した。幸いなことに、嫌われてはいるが怖れられてもいる葵の傍にいると、目に見えるいじめは全くと言っていいほどなくなった。


 環境の変化と、いきなり高くなった学業のレベルについていくのに怜香は必死になった。姉も転校していたが、こちらは途中から何もかも嫌になったようで、派手に髪を染め始め、姉妹で借りた新たなマンションにもめったに帰ってこなくなった。


 軍に入ることも、姉に相談することなく一人で勝手に決めた。姉妹が顔を合わせることもほとんどないまま、気付けば怜香の入隊日まで一カ月を切っていた。


 そんなある日、夜に電話が鳴った。風呂からあがったところの怜香は、まだ湿っている髪をバスタオルにくるみながら受話器を取る。


「はい」

「今お前の家の前にいる」


 電話してきたのは葵だった。こんな時間にいったいどうしたのだろうと怜香は首をかしげる。


「メリーさんかあんたは」

「行っていいか」

「もう前まで来てるんでしょうよ。そういうのは家を出る前に確認しなさい」


 怜香が言うと、ぶつりと電話が切れた。直後に玄関のチャイムが鳴り、怜香は苦笑いしながらドアチェーンを外す。

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