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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
その参謀、十三歳
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それは禁断の果実

 怜香れいかはにっこりと笑い、佐久間の前に座る。もちろん銃は手放さない。


「出身校は加藤からたどればすぐ割れました。あなたたち二人の同期の桜はすぐ、複数人見つかりました。話を聞いたところ、全員が『加藤かとうたちのグループが、佐久間さくま執拗しつようにいじめていた』と断定してましたよ」

「確かにあったかもしれないね。でも、昔のいじめなんて可愛いもんだよ。もう忘れてたんだ」

「へえ。制服を脱がされて女子更衣室に放り込まれたり、骨折するまで殴られたり、小遣いを残さず絞られるのが可愛いとおっしゃいますか? 信じられませんね。人間そこまでされたらそうそう忘れませんよ」


 容赦なく怜香に過去の傷をえぐられて、佐久間の眉がつりあがる。三輪と則本は何も言えず、横目でずっとリーダーの顔を見ていた。


「学校側はなかったことにしたかったようですが、調査を続けるうちにいじめグループの一人にも接触できましたので、詳しい話は聞いています。加藤は主犯ではなく、そいつに小判鮫のようにくっついて、さして自分の手は汚さずに巻きあげた金を効率よくもらうのが非常に上手かったそうです。典型的なクズですね」


 怜香が人差し指をたてる。佐久間はそうだね、と気の入らない口調で言った。


「加藤の要領の良さはその後も変わらず、グループのリーダーがありあまる力をもてあましてあっさりバイク事故で死んだのに対し、軍隊に入った。暴力衝動も満たせるし、そこで彼の太鼓持ちが受け入れられやすいだろうと読んだんでしょうね」


 そして実際、加藤の読みは当たった。能力があってずばずば直言してくる人間より、自分より能力がなくてひたすらおだてあげてくれる者を可愛がる上司は掃いて捨てるほどいたのだ。


「彼は、ノンキャリアにしては順調に出世していました。一方、あなたはやっと大学を卒業して研究所に入ったものの、学閥がくばつとコネの壁にひっかかった。同期どころか後輩にも追い抜かれ、主任にはやっとなれたけれど、今の年齢で主任程度ではもうこれ以上の昇進はない」

 

 佐久間はじっと怜香を見つめ、ようやく「そうまっすぐ言われるとね」とだけ言った。


「悔しいでしょうね。いじめられても歯をくいしばって真面目にやってきたはずなのに、実力以外のところが原因で全く評価してもらえなくなったんですから。そんな時に、自分をいじめた相手が実にうまくやっているとどこかで聞いてしまった」


 誰が知らせたのかは分からない、しかしその瞬間から佐久間の人生の歯車は狂ったのだろう。


「どうやってそれを知ったかまではまだ特定できていません。しかしその瞬間、あなたは全てを激しく恨んだ。卑劣な手段で人をさんざんこき使っておきながら、自分の手は汚れていないような顔をしてのし上がる加藤も、そんな男にあっさり騙される世間も許せなかった。今までの地位に未練のなくなった貴方は、加藤に屈辱を与えるために計画を練り始めた」


 加藤が昔から金に汚いのは、佐久間はよく知っていたはずだ。餌をばらまけば、それに喰いついて醜態しゅうたいをさらす可能性がある。今度こそ、彼の真の顔を暴く。そういう思いで計画を練ったのだろう、と怜香は問いかけた。


「ははは。よく出来た作り話だね。たった一つの事実から、よくもそこまで練り上げたものだ」

「作り話、と。ここまできても未だにそうおっしゃいますか」


佐久間は笑いながら怜香の追及をかわす。


「だってそうだろう。加藤は任務中だよ? 金をばらまいたとしても、それを持って逃げればはっきり犯罪者になってしまう。君の話では、彼はそういうリスクを冒すような人間ではないはずだ。いくら餌があったところで、保身を優先する人間が簡単に喰いつくはずがない」

「だから、超高額の小判を差しだしたんでしょう。ずる賢い加藤でも、トータル数億の資産が目の前に置いてあれば、誘惑に負ける可能性はそれだけ高くなる。そして、あなたは念には念を入れてもう一つ仕込みをしておいた。彼にどうしても今日、持ち逃げをしてもらわなければ困る事情があったからです」

「仕込み?」


 佐久間が怪訝そうに聞き返してきた。怜香は声を大きくした。


「そこにいる三輪みわさんに協力してもらったんですよね」


 佐久間が弾かれたように三輪の方を向く。急に話を振られた三輪が舌打ちをした。


「なによ。あたしは知らないわよ、そんな計画」

「そんなはずはありません。あなたの協力がないと、この仕込みは絶対に成り立たない。なにせ、加藤に一服盛るんですから」


 そこで怜香が言葉を切る。三輪は火をつけずに噛んでいた煙草を投げ捨てて、怜香の方にやってきた。


「あらら、あたしが危ない薬でも使ったとでも言いたいの? 確かにぼーっとすれば、理性や保身能力は弱まるでしょうけど。事前に申請したリストに、睡眠薬なんて入ってなかったはずよ?」

「確かにありませんでした。でも、葵は睡眠薬なんかより性質タチが悪いものを見つけました」


 その一言で、三輪の表情が変わった。彼女が怜香の肩をつかもうとしたので、銃をちらつかせて下がらせる。にやっと笑って怜香は続けた。


「三輪さん、麻薬を加藤に与えましたね」


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