表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
その参謀、十三歳
34/675

引きずり出された暗い膿

 作戦が開始された時は、日が昇ったばかりで空気も冷たく澄んでいた。今はもう日が西に大きく傾き、使い古されたようなぬるい空気が辺りに充満している。怜香れいかは大きく口をあけ、浅い呼吸をした。


「準備が整いました。こちらへどうぞ」


 部下に呼ばれ、怜香は立ちあがった。西日を浴びて、影が長く伸びる。うだるような暑さの中、口を聞くこともなく怜香は淡々と歩き続けた。


 目の前に、巨大なテントが見えた。ポール式と呼ばれる筒状のもので、一定間隔で鉄のフレームが張り巡らされている。布地はくすんだ緑にさらに少しグレーを混ぜたような、なんともいえない地味な色合いだ。


「この中?」

「はい。三千院さんぜんいん一尉のご指示で、武器を持っていないことは確認させております」

「ありがと」


 怜香は部下を外に残し、銃を片手に暗いテント内に足を踏み入れた。内部はかなり広く、大の大人が数人並んで寝られそうだ。テントの中で座っていた人間たちが、来訪者に気付いて顔を上げる。怜香は、覚悟を決めて彼らに話しかけた。


「こんにちは。ご機嫌いかがですか、佐久間さくまさん、三輪みわさん、則本のりもとさん」

「やあ、久世くぜさん。帰ろうと思ったら僕らだけ引きとめられて、この狭い所にカンヅメだ。これは一体どういうことかな」


 真っ先に佐久間が苦情を口にする。続いて、三輪と則本もせきを切ったように話しだした。


「ねえ、あの加藤ってやつはどうなったのよ。あいつを捕まえる方が先でしょ?」

「俺達、そんなにあいつに似てますかあ。似てないですよねえ」


 知った顔を見て安心したのか、三人の話は止まらない。知り合いだと思って、気が緩んでいるならこれからやる事には好都合だが、さて、どうなるかしら。怜香は心の中で意地悪くつぶやいた。


「加藤なら当然拘束されていますよ。まだ処分は確定してませんが。顔面陥没のおまけつきです」

「うわ、見たかったわ。なんで呼んでくれなかったのよ」


 三輪がそう言うと、他の二人もつられて笑い出した。笑っていられるのも今のうち、と怜香は思いながらわざとそっけなく言う。


「佐久間さん、元クラスメイトに随分冷たいですね。心配してあげないんですか?」

「だからそんなに仲良くなかったんだってば。やったことを考えたら、それくらいされて当然だしね」


 佐久間はそう言いながら、怜香の顔をじっと見つめてくる。


「そろそろ教えてくれないかなあ。僕らだけ帰してもらえない理由。早く研究所に戻りたいよ」


 あくまでもとぼけるつもりの佐久間に向かって、怜香はひとつ爆弾を放った。


「分かってらっしゃるくせに。今回の騒動、仕掛け人はあなたたち三人でしょう?」

「何だって?」

「加藤を陥れるために、軍隊まで動かしたんですね。最初はまさかそんな人だとは思いませんでしたよ」


 ぽんぽんと止まることなくきわどい発言を繰り返す怜香に、佐久間が抗議した。


「君ね。僕が何を言っても怒らないと思ってるの? 陥れるも何も、卒業した後は全然会ってなかったんだよ。何の関係もない人にそこまでするほど暇じゃないよ」

「加藤はそうでしょう。貴方のことは完全に忘れていた。でも、貴方は少なくとも前から彼について調べていて、情報を持っていたはずです」


 怜香が言うと、佐久間の顔が初めて大きく歪んだ。温厚な笑顔が消えると、佐久間はひどく卑屈に見える。


「一体何の根拠があって」

「違和感があったのは最初からです。加藤と彼の子供の話になった時、彼が『子供は五歳』だと言いましたよね。それに対して、あなたは『七五三のお祝いをしなければ』と言っていた」

「それのどこがおかしいんすか? 五歳なんだから当たり前っしょ?」


 則本が口をはさんでくる。彼は本当に加藤のことを知らないのかもしれない。が、佐久間と三輪は顔を見合わせた。


「七五三は、男女によって祝う年が違うんですよ。三歳ならば男女どちらも祝いますが、五歳でお祝いするのは男子のみです。佐久間さん、あの時子供の性別も聞かずに、いきなり断言しましたね」

「そんなことで? 単なる勘違いだよ」


 佐久間が肩をすくめた。そうだ、それ単体ではなんの証拠にもならない。しかし、情報が集まれば一つの道となる。


「最初は葵もそう思っていたようですが、念のために裏を取っていました。本人が言うには、コネと金があるなら不安要素は潰しておくのが当たり前。ひとつ嘘をつく奴はほかの部分でも嘘をつく、だそうです。ただ、報告が来たのがことが起こってからだったので、計画の阻止まではできませんでしたが」


 怜香が見守る中、佐久間が膝を揺らしはじめた。だんだん、彼の顔が青くなっていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ