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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
いつも心に英雄を
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即死の檻

「ええ、気絶はしていますが呼吸もしっかりしているし、出血もないですね。衛生兵を探して、任せることにしますよ」

「すまんな、戦闘のことしか頭にない猿で。苦労かける」

「大丈夫ですよ。その分こちらは楽をさせてもらっています」


あおいがフォローをしているうちに、大和やまとは存分に暴れ回っていた。積極的に仕掛けてくる、男顔の車輪たちをしきりに昆で吹っ飛ばしている。一瞬立ち止まることはあっても、大和はすぐに制服のマントを翻して新たな敵に向かっていく。


「足ぃ、よこせ」

「俺のは特別製でなあ、おいそれとはやれんわっ」


 大和のつきだした昆が、車輪中央にある男の顔を的確にとらえて打ち砕く。中心をやられた車輪はぐるぐると大きな円を描いた後、地面に倒れて動かなくなった。


 どうやら車輪はただの飾りで、男の顔を打ち砕かないと倒せないようだ。大和はすぐにそれに気付き、ひょいひょいと器用に車輪の中心を狙っていく。


「こいつらが本隊か?」


 立ち回りをカメラ越しに見ながら、すばるが目を細めた。葵は首を横に振る。


「数は多いが、全て片車輪かたわぐるま。まだ序の口だ。俺が指揮官なら、確実にここに大物を置くぞ」


 片車輪は弱い妖怪とまではいわないが、Aランクのデバイス使いが手こずる相手ではない。それに、さっき紙に変えられたデバイス使いたちのこともある。この妖怪にそんな能力はない。


「全員、片車輪に気をとられすぎるな。周りにもなにかいるぞ」


 てきぱきと指示を出しながら、葵はたけるをちらりと見る。猛も無言でうなずいて、虫たちに向かってぼそぼそと何かつぶやき始めた。息子たちにこの場は任せることに決めたのか、昴は兵站を別ルートから送り込むべく、折衝を始めた。


「後方車両、県道一五五・一五七号線、現在敵により封鎖中。下の国道四六九線から回り込めないか偵察隊を送れ」


 昴の無線から「了解」と返事があったところで、ひびきがようやくパソコンのキーをたたき出した。葵は響の後ろにくっついてモニターを見つめる。


「カメラ、少しズームアウトさせる」

 

響の言うとおり、これまでトラック付近のみを移していたカメラが一気に遠のいた。


「これは、紙か?」


 葵はつぶやいた。蚊帳の外に、もう一重、白い幕がとりまいている。よくよく見ないとわからないが、蚊帳の編み目ではなく表面がごわごわしている。昔一度だけもらった、手漉てすきの和紙によく似ていた。なんだこれは、と葵が顔をしかめていると、猛が心底嫌そうな顔をして話しかけてきた。


「ちょっとかわいそうだが、虫たちをその紙に触らせてみた。思った通り、あっという間に紙に変わっちまった」


 猛がデバイスで具現化した虫は本物ではないが、それでも虫への愛が深いと死なせるのはつらいらしい。が、そのおかげでさっきから抱えていた謎が解けた。


蚊帳かやはめくってもなんともない。だから、二十三・四班のメンバーもそのまま紙の壁へ突っ込んだんだろうな。だが、その外には触れたら即死の紙があったわけか」


 葵のつぶやきの続きを求めるものは誰も居なかった。全員が状況を理解する。


「情報を全班に伝える。絶対に白い紙を直接触らないように徹底させよう」


 一旦話が決まると、慌ただしく無線が行き交った。皆素直に指示を受け入れてくれたが、そうなると今度は道を外れられなくなる。どうにかして、この包囲網を突破する方法を見つけなければならない。


 葵がこつこつとテーブルをペンでたたいていると、隼人から無線が入ってきた。


三千院さんぜんいん一尉。僕の目がおかしくなったのでなければ、敵に変なのが混じってる」


 妖怪はもともと変なものだが、普段ふざけない隼人がまじめな口調で言うので、葵は耳を傾けた。


「何だ」

「一寸法師と桃太郎」

「は?」



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