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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
いつも心に英雄を
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嗅ぎ出せ掘り出せ探し出せ

「まず隊員たちを催眠状態から引っ張り出す。無線を通じて、緊急のサイレン音を聞かせろ」

「了解。玉突き事故が起きないことを願うよ」


 すばるがため息をつきながら、ひびきに連絡を取る。まもなく、けたたましい警告音があおいの無線からも聞こえてきた。


「俺のところまではいらん」

「サービス」


 響は悪びれない様子で言った。何がサービスだ、どうせ葵の端末だけ弾くのが面倒だったからに決まっている。


 しかしとにかく、これで隊員たちも少しは正気に戻ったはずだ。


「全車両、カーナビを確認。転送された画像を確認しろ。まだ外を見るなよ」


 道路は長い直線に入っており、邪魔する一般車もいない。隊員たちはスムーズに葵の指示に従った。


「これは、サーモグラフの画像ですか」

「ああ。今回の目的地は、熱源中央だ。砂漠になるくらいの熱だから、当然回りより気温は高くなる」


 誰からも反論がでないことを確認してから、葵は続けた。


「さて、ここで我々のトラックの位置を示すとこうなる」


 葵が響に指示を出すと、画面上に緑の丸がいくつも浮かび上がった。一列に並んだマークは、規則正しくアリのように運航している。ただし、その列は着実に熱源から遠ざかっていた。


「こんなはずは」


 部下たちから驚きの声があがる。データに裏付けられた確信があればもう大丈夫だ、と判断して葵はマイクを握った。


「敵もそんなに優しくはないな。まずは幻覚でお出迎えというわけだ」

「くそっ」

「一尉、すぐに方向転換を」

「しばらくこのまま走れ。敵にまだ術が効いていると思い込ませろ。大型車がターンできる場所まで来たら指示を出す」

「り、了解」


 続々とトラックの運転手たちから、了承の返事がある。それを確認してから、葵はたけるを呼び出した。


「幻覚の大元はどこだ」

「もう探ってる」

「さすが」

「これだけの人数に幻覚を見せようってからには、この高速近辺に必ずいるはず……そらきたっと」


 猛のもとに一匹の黒虫が戻ってきた。すぐに猛が食いつく。


「……敵はここから近いぞ。もうすぐ進めば本体だ。距離、凡そ一キロ、方位は東」

「道路から一キロ? 近いな。肉眼で見えるか?」


 昴が顎に手を当てながらつぶやいた。


「一応向こうも考えている。上から土をかぶって擬態してる」


 猛が言った。葵が後を続ける。


「が、昨日までなかったものがあれば目立つ。姉貴、航空写真」


 葵はモニターを見ながら指示を出す。間髪入れずに響が以前とった航空写真を探し出してきた。葵の眼はすぐに、大きな変化をとらえた。道路の右手側に、写真にはない小山ができている。確かにくまなく土がかかっているが、草木が一本も生えていない山は明らかにおかしい。


「敵影確認。幻覚によって輸送作戦が中断することは許されない。御神楽みかぐら二尉、久世くぜ三尉、右手の丘を徹底的に叩け!」


 葵の無線を聞いた二人から、すぐに返事があった。


「了解」

「了解しました」


 葵はカメラを偵察機からの画像に切り換えた。飛行装置を稼働させ、トラックの列から飛んでいく二人の姿を、カメラが追っている。


 まず和泉が前に進み出た。


「手加減するなよ」


 葵は念を押す。入り口地点で、片っ端から部隊を幻覚にかけられてはたまったものではない。トラック部隊は全部で八百台、その全てに葵が付きっきりになれるわけがないのだ。この妖怪は、確実に潰しておかなければならない。


「ヴァーユ!」


 和泉が吠えた。たちまちすさまじい風が巻き上がり、小さな丘を覆っていた土砂を吹き飛ばす。土埃がもうもうと上がり、茶色い渦が空中に出現した。山を覆っていた土砂がはがれ、その下にいた妖怪をあぶり出す。


「貝殻?」


 土埃の中から現れた物体を見た昴がつぶやいた。土砂の下から表れたのは、家一軒はあろうかという巨大な貝だった。薄くベージュがかかった白い貝の隙間から、ひっきりなしに薄い霞が漏れている。



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