崩壊する裏切り者たち
大和ともう一人、応援で来ていたデバイス使いが先頭を歩く。続いて、銃を手にした隊員たちが洞窟を進んでいく。葵は最後尾をとろとろ歩いた。
いくつかの分かれ道を調べてみたが、どれもひび割れたコンクリートが残されていただけで、人間の気配はどこにもない。入口に近い所にはいないだろうと葵がつぶやく。
「どうやら奥の方に固まっているようですね」
「囲まれてたからな。それが自然だろう」
一行はさらに前進する。ふいに、緩やかな下り坂の前方にゆらりと動く影がうつった。葵たちは息を殺して物陰に隠れる。
前方が明るくなった。加藤たちが洞窟内にライトを置いて明かりをとっているらしく、ぼやっとした夜明けの太陽のような光の中を人影がうろついている。
「こんなことになるなんて」
光の方から、男たちが小声で愚痴る声がした。葵は耳をすませる。
「逃げ切れるわけがなかったんだ、なんであんなことしちまったんだ……」
「いっそ出て行って返しちまえば」
「今更遅いだろ! 出て行ったって妖怪になぶり殺しにあうだけだぞ。あいつらちゃんと急所を狙わないと銃弾だって跳ね返すんだからな!」
「だからって水も食料もないままどうしろってんだ! 飢えて乾いて弱ってからより、今の方が賭けに出る価値はあるだろう!」
小さな愚痴をきっかけとして、最初はささやく程度だった声が、次第に大きく、荒々しくなっていく。ただ、時間が経つにつれて、降伏派が多数を占めるようになっていった。
このままあっさり下ってくれるか、と葵は思ったがそうは問屋がおろさなかった。
「お前ら、何をそんなに揉めているんだ」
「なっ」
加藤の声が議論を遮る。不思議なことに、部下たちがこんなに殺気立っているのに、彼はけらけら笑っている。
こんなに神経の太い奴だっただろうかと葵は首をかしげる。どちらかというと、強いものに媚びておこぼれを得ようとする、要領の良さだけで出世した臆病者だと思っていたのだが。
「あいつらが入口に来ているからどうしたっていうんだ。大丈夫に決まっているだろう。なんで返さなきゃいけないんだ。これは俺のだぞ」
加藤の自慢げな様子に、大和は苛立ちを隠しきれない。今にも飛びだしそうな彼を、葵は隊員たちに止めさせた。
「あいつ、助けを呼ぶ時はあんなにしおらしくしとったくせに」
「おかしいなあ。デバイス持ちも仲間にいないし、銃火器も少しだけなのに、なんで勝つなんて思えるのかな」
ここで大和の隣に立っていたデバイス使いが口を開く。瀬島と名乗った彼は、まだ男と言うより少年に近い、若い将校だった。葵たちより二つ年上だと自己紹介の時言っていたのを覚えている。彼も大和ほどではないが、顔が不機嫌そうになっている。
大和と瀬島の怒りをよそに、加藤の口は止まらない。へらへらと笑い続けるその様は不気味で、騒いでいた部下たちが徐々に静かになっていった。
「だ、大丈夫って言ってもなあ、どうすんだよこの状況で。もう、小判をあいつらに返して逃げるしかねえだろうが」
沈黙に耐えられなくなった一人の部下が、ようやく不安を口にする。が、加藤はますます声高に笑い続けるだけだった。
「お前らの腰の銃は飾りか? さっさと撃って片づけちまえばいい。今なら固まってるからいい的になるぞ」
「あんた今まで何見てたんだ! 逃げる途中で浪費したせいで、もう弾切れだって話はさんざしただろうが! 銃なんか弾がなけりゃただの鉄くれなんだよ!」
「あれ、そうだったっけ……」
呆けたような声で、加藤が言う。声や音は出さなかったが、それを聞いた大和と瀬島の二人はコケていた。
「そうだ、それならあれを使えばいい。手投げ爆弾」
「四方八方から襲い掛かってくるんだぞ! どっちに投げたって一網打尽にゃできない」
「じゃあ、洞窟の中から投げろよ。体は隠しときゃ安全だろ」
「そんな適当な投擲で当たるわけないだろ! それにもし洞窟内で爆発したら、天井が落ちてくるかもしれない!」
加藤のあまりにも適当な案に、あちらこちらから罵声があびせられる。これなら葵たちに気付く可能性は低そうだ。
「良い感じに混乱してるな。そろそろいくか」
葵が腰を上げる。隊員たちが一斉に銃をかまえた。
「威嚇射撃しますか?」
聞いてきた隊員を葵は手で制する。
「いや、奴ら手投げ爆弾を持ってる。この狭い場所で使われると厄介だ」
「僕の出番だね」
「頼む」
葵の許可をうけ、瀬島が一歩前に進み出た。




