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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
その参謀、十三歳
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話し合いでは肴にならぬ

 上司から命が下されたことで、隊員たちの動揺が少し和らぐ。一斉に銃をとり、撃ち始めた。


「出来るだけ敵の数を減らせ!」


 こちらの銃撃に対応しようと、天狗たちも弓を構え、狙撃体勢にうつる。が、矢は飛んでこない。焦った天狗たちがばたばたと飛び回る音がやかましく響いた。


 ついに、天狗たちの苛立ちが頂点に達し、矢筒が地面にたたきつけられる。彼らは情け容赦ない銃弾をうっとうしがって、空へ舞い上がり消えていった。


 天狗たちが捨てていった矢筒から矢が転がり出た。折れも曲がりもしていない。ただ、入っていた矢が全て細い糸でぐるぐる巻きにされている。いくら腕が良くても、放つものがなくてはどうしようもない。上手く行ったと仕掛けたあおいは満足だったが、力の使いすぎで疲れが出ていた。


 天狗族が役に立たぬと悟った雷獣たちもばらばらに散り、銃撃から外れる。それを追おうとした大和やまとが飛び出そうとしたが、後ろから葵に思いっきり靴の後ろを踏まれて引き戻される。大和が憎々しげに葵をにらんだ。


「お前はほんまに味方か?」

「味方じゃなきゃ行かせてる。後ろから弾が当たって死なれたんじゃ冗談にもならんぞ」


 洒落しゃれのような話だが、大隊一個が友軍の砲撃で全滅した話もある。銃撃戦が終わるまでは飛び出すな、と言い聞かせた。


「今から他の奴らの面倒をみる。お前まで手間をかけさせるな」

「ん?」


 どういうことだ、と聞き返す大和の声は、大音声の悲鳴にかき消された。


「ぎゃああああああ」


 そこここの茂みから、地獄の底を覗いたような顔をした隊員たちがはい出してくる。葵の隊の射線上にかぶってきたものには警告を与えたが、それでも流れ弾に当たる隊員が後をたたない。


「わざわざ前に出てくるとは……死にたいのか?」


 首をひねる分隊長に、葵は双眼鏡を差し出した。彼は軽い気持ちで覗きこんだが、うっと呻いて思わず目を背けた。


「……どういうことだ。死体だらけだ。さっきまで、生きていたはずなのに。ミイラだ、あれでは」

「まあ、全身の血をごっそり抜き取られればそうなるでしょう」


 分隊長より先に葵も見ている。予想していたとはいえ、干からびて文字通り骨と皮になった死体が積み重なっているのはやはり悲惨なものだった。


 葵たちの前に現れたのは、山姫やまひめと呼ばれる妖怪だった。山に迷い込んだ旅人の生き血を吸うと言われ、出会ったものは体内の血を全て吸い取られて死んでしまう。弱点はナメクジで、握りしめていると逃げて行く。また、山姫が笑いだす前に笑ってしまえば助かるという報告もある。


 葵の指示に従わなかった部隊は、全て山姫にやられてしまっていた。笑うべき理由まで教えてやれればもっと死者も少なくすんだのだが、あいにくとそこまではしてやれなかった。


「だいぶやられたな」

「後詰めの部隊を前進させて、戦線を立て直しましょう」


 分隊長が指示を出すと、すぐさま実行に移された。無線が行きかい、間もなくばたばたと足音がする。葵は部隊の合流を確認し、被害を受けた部隊と入れ替えさせる。


 作戦は第二段階に移行した。銃撃戦は一旦中止され、デバイス使いが前線に出てくる。ひとりは若い男、もうひとりは少し年のいった女だった。


「ヘスティア!」


 まず男が叫ぶ。炭を思わせる漆黒の鎖でできた腕輪が、一瞬ぱっとオレンジ色の光を放つ。


 その光が消えると、彼の前に一人の女が立っていた。怜香が呼んだ細身の少女とは違い、がっちりして肩幅の広い、体格の良い女だ。しっかりとカールした豊かな赤髪が褐色の肌にかかって実によく映えている。


 女はすうと前方に手をかざす。無数の火の球が、彼女の周りを飛び回り始めた。女の手がさっと下ろされる。火球が一斉に天狗たち目掛けて襲いかかった。


 速い。


 日本刀を構えて攻撃に入ろうとしていた天狗たちに、避ける暇を与えず連続で火の玉が当たった。翼を焼かれた天狗たちが、次々と地上に落ちてくる。


「アルテミス!」


 この好機を逃さず、もう一人のデバイス使いが叫ぶ。くねくねとうねった針金のような髪留めがみるみる大きくなり、金色の弓になった。そこから放たれた矢に天狗が叩き落とされ、生き残っていた山姫・雷獣も次々と貫かれて倒れて行く。


 とうとう不利を悟ったのか、次々と妖怪たちは姿を消していった。最後の一体が立ち去ると、部隊から歓声があがった。


 結局出番のなかった大和だけが、喜ぶ仲間の横でちょっとふくれっ面をしていた。しかし、結果的に休めたせいか、顔色も少し良くなっている。葵は部隊の勝利を確認してから、ぶーぶー言いだした大和に声をかけた。


「行くぞ」

「どこへや」

「お前な……まだ敵が残ってるだろうが」


 葵が洞窟を指差す。やっとその存在を思い出したようで、ぱっと大和の顔が輝いた。


「せやな。お楽しみが、まだ残っとるわ」


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