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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
いつも心に英雄を
258/675

ロビイで舞う者、眠る者

「あとどのくらいだ」

「もう十分少々で着きますよ」


運転手が快活な声で答えた。妖怪たちとの内戦に突入してから、高速道路や主な国道は軍用に常に一線あけておくことになっている。おかげで、車は渋滞知らずのまま、予定通りに東京の町を走っていた。


あおいが顔をあげると、前を走っている車両の姿が目に入った。今回は大がかりな演習のため、三千院さんぜんいん家のデバイス使いが一台の車に乗りきれず、葵の両親とたけるかなめひびきは前の車に乗って目的地を目指している。演習がうまくいくかは別として、にぎやかな旅になるのは間違いなかった。



☆☆☆



「んあっ。ああ、よう寝た」


 さっきまで大口をあけてぐうぐう寝ていたくせに、車がぴたりと止まるやいなや、大和やまとがぱっちりと目を開けて真っ先に車を飛び出す。葵は舌打ちしたくなるのをこらえ、大和の後から車を降りた。


 外では、パラパラと小雨がちらついていた。綿埃をありったけかき集めたような灰色の雲が空一面に浮いており、頭上が重苦しい。


 今回葵たちが訪れた防衛省の周りはむっとするほどの暑さだった。防衛省は比較的海に近いところにあるが、ビルに阻まれて海風などないに等しい。湿度も高く、葵は何度も汗をぬぐった。


 各々傘をさしながら、防衛省の中でも一番大きなA棟と呼ばれる建物に向かった。司令本部がある関係で、場所によっては許可のない撮影は禁止されている。現役大臣も足を運ぶと言われる、まさに防衛省の中枢部だ。


 葵たちが広いロビーに足を踏み入れると、そこは軍関係者ですでにごったがえしていた。


「すごい人やねえ……」

「それだけ大がかりな演習いうことやな。大和、その壺触ったらどうなるかわかっとるな」


 みかげが感嘆の声を漏らし、佑馬ゆうまはむっつりと黙ったまま館内案内図を吟味し、和泉いずみはぬかりなく大和に釘をさす。その様子を隼人はやとが笑いながら眺めていた。


「みんないつも通りね」


 怜香れいかが言う。


「ああ。しばらくほっとけ」


 葵はそう言い置いて、大阪・京都組に背を向ける。群衆の中で揺れるポニーテールめがけて歩いていく。葵の後ろから、怜香がついてくる足音がした。


「よう」


 葵たちに気づいたポニーテールの主が、軽く手をあげた。葵の姉、要が高そうなソファーに足組みをしながら悠然ともたれかかっていた。


「姉貴、調子は?」

「いつも通り、万全。いやー、偉そうなおっさんの見本市だなこりゃ」


 皆緊張しているというのに、要だけはにやにや笑っている。今更この人の行状に目くじらをたてても仕方ないと分かっている葵は、この光景を見なかったことにした。


「ここの人たちは実際に偉いんだよ。要姉貴、さかき事務次官は?」

「あそこで親父たちとしゃべってるよ。今は邪魔しない方が良さそうだぜ」


 要が指差す先を見ると、確かに真四角の顔をした男が、葵の両親と穏やかに会話している。エリートひしめきあう各省庁の中でも、財務省の官僚は予算を管理する特性上、頂点といわれている。そのトップが、今両親と会話していると思うとなかなかすごい光景だ。前の事務次官は富永と仲が良かったが、今や見る影もない。権力が正しく移譲されたようでなにより、と葵は胸をなでおろした。


 榊事務次官の後ろには、高級スーツを着こなした若い男が立っている。スーツもよく似合っていたし、顔も整っているのだが、どうにも官僚特有のオーラがない。財務省の事務次官が随行に選ぶ人材には見えず、葵は首をひねった。


「あ、龍之介りゅうのすけだ」

「ほんまやな」


 人混みの中からやってきた和泉と隼人が、スーツの男を見て声をあげた。心当たりがあるようだ。


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