嵐は避けられる?
流石にこれからは足手まといにしかならないので、研究者たちとは別れることになった。皆、残念そうな顔は作ってくれたが、やれやれ助かったわいという安堵は隠しきれていなかった。
「結局、あまり役に立てなくてごめんね」
佐久間が一人でえらくすまながってくれ、葵に何度も頭を下げた。
「これ、よかったら君が読んでみて。山の妖怪の伝承やら実地調査やらをまとめて、生態やら弱点やら書いてあるから」
佐久間が葵に古びた本を渡した。紙の端が黄ばんでボロボロになっており、何度も読み直したことが見て取れる。葵は礼を言って受け取ってから、ヘリコプターに乗り込んだ。
葵たちを乗せた輸送用ヘリが浮上する。葵は頭を切り替え、加藤の捕縛に意識を集中することにした。
ヘリは順調に飛び続け、目的地近くに着陸した。部下たちがGPSのデータ分析結果を淡々と報告してくる。
「反応が出たのはこの地点です。先行して偵察部隊を送りました」
モニターに映っていた地図に、部下の持っていたレーザーポインターがのった。山の一点が赤く光る。
「彼らの報告によると、加藤をはじめ数名が洞窟にたてこもっています。再度通信を試みましたが、無線は切られていて中の様子まではわかりません」
加藤があえて切っているのか、壊れて物理的な理由で通信できないのか。状況の把握ができないことが一同をいらだたせるのだろう、ヘリの中の雰囲気が冷たくなった。
「周りは完全に妖怪たちに固められていますね。空は天狗が、下は雷獣がびっしりです。確認されたのはこの二種族のみ」
偵察隊からの報告が一通り終わった。状況を把握した隊員たちがしゃべり始める。
「しかし妖怪のしたいことが分からんな。完全に取り囲んでいるのなら、何故踏み入って加藤たちを殺さないんだ。連中にとっては憎むべき盗人だろうに」
「もともと自分たちの方が条約違反をして、加陽山に侵入してるからな。少しは遠慮があるんじゃないか?」
「いや、木葉天狗や雷獣の知能はそんなに高くないですよ。彼らの動く理由はもっと単純なはずです」
「単純に、怖いんじゃないですか」
議論が盛り上がってきたところで、佐久間のくれた本をめくっていた葵が口を開いた。
「向こうはとにかくこちらのデバイスが怖い。先の内戦でさんざん苦汁をなめさせられたから。加藤たちがまだ奥の手を隠し持ってると思ってるから、行動に出ないだけでしょう」
デバイスは大抵のものが小型で、目の前に相手がいたとしても持っているかどうかわからない。まして今回加藤たちは洞窟の中。妖怪側が慎重になるのも無理はない。
「相手が弱腰なのはありがたい。戦闘を回避できればいいがな」
戦力をそろえたものの、衝突は避けられるに越したことはない。意見を交換し合った結果、葵たちがさんざん戦ってしまったが、事情だけでも説明しておこうかという流れになった。
「が、頑張ります」
一番声が柔らかいという理由で、最初の交渉役に任命された若手隊員が背筋を伸ばす。顔が緊張で強張っていた。
「舌噛むなよ」
「全力でやればいいさ」
彼の緊張をほぐすように、周りの隊員たちがばしばし肩をたたいている。少し空気がほぐれたところで、分隊長が号令をかけた。
「現在、交戦に備え複数の部隊が待機位置まで移動中。彼らが配置につき次第、行軍を開始する。準備を怠るなよ」
分隊長の声に、はいと元気の良い声が答える。しかし葵だけが返事をせずに、自分の無線機に向かってずっと話をしていた。




