いざ勝利へと
OS機に乗り切れなかったデバイス使いたちは、神戸の基地や三千院家から来たヘリコプターに分かれて乗り込む。彼らは指示があるまで平地で待機し、葵たちが謎の霧の排除に成功したら、一斉に飛び立つ手はずになっていた。
葵たちを乗せたOS機は再び飛び立ち、尼崎上空、和泉たちがいる戦場から少しずれた地点で停止した。
昔は熟練した技術が必要であったホバリングも、今は自動制御になっている。操縦していた二名のアメリカ軍少尉たちが顔を上げ、葵たちに声をかけてきた。
「三千院一尉、到着しました。この機体はしばらく上空で待機します」
「ご協力、感謝します。すぐに片付けて参りますので」
葵は少尉たちに向かって礼を言う。それが終わると後ろを振り返り、キャビンに腰掛けていた中から三人の名を呼んだ。
「行くぞ。瀬島、桜井、氷上」
「はい」
呼ばれた三人は声を揃えて、元気よく答える。全員きびきびと立ち上がり、葵に続いて機体後方の貨物扉へ向かった。
「じゃあ僕も」
しかし、彼らと一緒に呼んでいないのまでついてきた。いつもの積極的おバカ中年、霧島である。もはやアラフォーを通り越して五十の大台が見えてきたのに、いつまでたっても落ち着かない男だ。
「霧島光一は待機」
葵がにべもなく言う。すぐに光一から悲鳴が上がった。
「なぜだい!?」
「ここで全部の戦力を使ってどうする。大阪城基地についたら嫌でも暴れさせてやるよ」
なんで幼児ならともかく、成人に噛んで含めるように言ってやらなければならないのかと悲しくなりながら、葵は答えた。
「むむむ」
うなる兄を、霧島の妹の方ががっしり押さえる。単に腕を押さえているだけではなく、足までしっかり踏んでいるところがひどく手慣れていた。
「ほら、どうどう。兄さん、あまりみっともないまねをしないでちょうだい」
「うぐー……」
妹のなだめすかしとヘッドロックによって、ようやく光一が腰を下ろす。同じく出たくて仕方ないであろう薬丸が、「お気持ちわかりますぞ」と隣で熱く語りかけていた。案外、この二人気が合うかもしれない。
葵は霧島たちから離れ、開いた貨物扉から外を見る。冷え切った空気が顔に吹き付けてきて、全身が震えた。体をなだめるように葵はひとつ息をついて、飛行装置を起動させる。それから先頭切って、空中に飛び出した。
冬の冷たい空気が、今度は顔だけでなく葵の全身にビリビリとかかる。葵は少しバランスを崩し、降下速度が落ちた。後から来た三人が、葵より先に地上に近づいていく。今回は一番乗りをしてみたかったのだが、と葵は苦笑いした。
葵はようやく地表近くまできた。鬼婆たちの群れの間から、ちらりと、見慣れた銀髪の姿が見える。ああ、まだ無事かと葵は安心した。怜香のヴァルキリーが、戦っている。
葵に向かってきた鬼婆たちを桜井の火球が吹き飛ばす。視界が開けた。戦乙女がひょいと敵の攻撃をかわし、カウンターで強烈な突きをたたきこむのが見える。その後ろには、怜香と和泉の姿があった。
怜香はひたすら鬼婆たちの相手をしているが、和泉はまっすぐ前を見て、敵の配置を確認している。振り向くようすは微塵もない。少し後ろを見れば、彼らの置かれている状況はすぐに分かるのだが、今の和泉にはその発想はまるきりなさそうだった。
「三千院一尉、どうしたしましょう?」
先について、様子をうかがっていた氷上が聞いてきた。
「御神楽二尉と話がしたい。敵の数を減らせるか?」
葵が聞くと、氷上がくすっと笑った。
「朝飯前にございます」
「蹴散らしてやりましょう」
「ようやく僕の出番だね」
瀬島と桜井も、自信ありげに胸を張る。年齢も階級もバラバラな三人の眼が、そろってきらりと輝いた。葵は安心して指示を飛ばす。
「よし。敵への攻撃を許可する。ただし、御神楽二尉たちの後ろの敵から狙え」




