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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
その参謀、十三歳
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復讐するは我にあり

「持ち込み時のチェックだけごまかせばいいんだ。上層部が現場にきて監査なんてやるはずないからな」


 少し言葉を変えてやると、大和やまとはうなずいた。ただし、まだ納得していないらしく眉間に皺がよっている。


「せやかて、現場の監査かて書類と突き合わせてみっちりやるんやで」

「その書類の記載数が『たまたま』間違っていたとしたらどうだ。そして、俺は『ついうっかり』自宅からデバイスをつけてきてしまい、『奇跡的に』つじつまがあってしまったとしたら」


 あおいが淡々と言うと、大和の顔が歪んだ。「たまたま」「ついうっかり」「奇跡的に」の三重奏がよほど気に入らないのか。


「そのうっかりした相手いうのは」

「図らずも、俺のたいそう目をかけていた部下が担当していて」

「……もうええ」


 裏事情を全部聞いてしまい、悲しげな顔をしていた大和だったが、


「それで助かったのに文句があるのか」


と言われて口をつぐんだ。


 葵たちは物陰から出てきた。川辺では紺色の制服を着た応援部隊が動き回り、研究者や疲弊した隊員から体調を聴いている。しばらく後、葵たちのところへも調査にやってきた。


 ひどい怪我人はいないが、デバイス使いの疲労がやはり激しいと葵は告げる。葵は怜香れいかの様子をみるため、応援隊員と一緒に歩き出した。


「頭痛や吐き気はしますか」


 葵たちが怜香を見つけたのは、彼女がちょうどこう聞かれている時だった。地面に座り込んだ怜香は、うつろな目をして隊員を見返し、首を縦に振る。


 葵はふと気になって、大和に同じ質問を投げる。


「お前は、頭痛とか吐き気はあるか」

「ちーとあるけどな。大したことないわ」


 大和はだるそうに頭を振りながら答えるが、発音ははっきりしている。横になるほどではないだろう。


「とりあえず怜香は休んだ方がいいな。場所を貸してもらえるか」

「了解です」


 デバイス使いは妖怪に強いため、討伐作戦では容易に離脱が許可されない。基地まで撤退はせず、怜香はヘリの中で休息をとる形になった。力の抜けた怜香は担架に乗せられ、葵たちの前からいなくなった。


 大和も休息を勧められたが、まだいけると言って断っていた。流石は体力馬鹿、と葵は呟く。


 補給は急速に進み、装備のチェックや弾薬の補填も順調に終わった。その時、葵の通信機に着信が入る。


(もう連絡してくる相手はいないと思っていたが、なんだ)


 葵は心の中でつぶやきながら、無線に耳を傾けた。


「助けてくれぇ」


 聞こえてきたのは、加藤の声だった。




☆☆☆



 葵が拳を握る。その間も加藤はもつれる舌で、哀れっぽく話し続けていた。しかし同情する気にはならず、葵は近くの隊員に小声で指示を出す。


「GPSで相手の場所を特定しろ」


 隊員が小型端末を起動し、加藤の位置を確認する。


「確定とれました。あとは状況をできるだけ聞きだして下さい」


 反応が出たようだ。了解、と告げて葵は会話に意識を集中させる。


「虫のいいことを言うな。金に目がくらんで、人殺しまでしたくせに」

「あの時の俺はどうかしてたんだよお。誰だって、一瞬悪魔が取り付くってことはあるだろう?」

「俺はない」

「そんな冷たいこと言わないでくれよ」

「ごちゃごちゃうるさい。まず上官には敬語を使え」


 葵が冷たく言い放つ。返す言葉がなかったのか、加藤が急に黙り込んだ。そのまましばらく沈黙が続く。


(鬱陶しいやつだな)


 本音をいうならこのまま永遠に黙っていてくれても一向に構わないのだが、情報収集が任務である以上喋らざるを得ない。


「分かった分かった。状況次第では行ってやらんこともないが、今どこにいる」

「山の洞窟にいるよ。み……見たことない奴らに追いかけられたんだ」


 どうやら無様に袋の鼠と化しているらしい。まあ、デバイスも持たずに無計画に山を走りまわればそうなるだろうが。


「どんな奴らだ」

「黒い鳥だ。ばさばさ飛び回って、うるさいったらないよ。それに、狼みたいな獣がずっとここまで追いかけてくるんだ」


 鳥は天狗、狼は雷獣だろう。今のところ加陽山かやさんにいる種族は主にその二つのようだ。


「なあ、早く来てくれよ」


 加藤が急かしてきた。今度こそ返事もせずに、葵は通信を切る。


「あいつら、何考えとんのや!」


 自由とフリーダムの合いの子である大和でさえ、加藤のあまりにも自己中心的な言い分に頭を抱えている。


「何があっても他人が尻を拭いてくれると思ってるんだろ。そういう手合いはどこにでもいるぞ」


 怒りに燃えた大和は、冬眠前の熊のようにうろうろしている。なだめてみたが、さして効果はなかった。葵はほっとくことにして、小隊長を呼んだ。


「状況は聞いたな。包囲されているのが事実だとしたら、まず交渉してみるか。小判を返せば少しは相手の感情が和らぐかもしれん」


 天狗や獣の妖怪は、霊格が高いものしか人語を話すことはない。が、日本語であれば意味は理解する。


「拒否された場合は戦闘に移行でよろしいですね」

「ああ。今までの様子を見る限り、戦闘になると思っといた方がいいぞ。お互い準備を怠らずにな」

「了解」


 小隊長は指示を受け、慌ただしく駆けて行った。葵は、すぐ傍に立っていた若手の隊員に声をかける。


「今こういう状況だ。加藤を助けに行きたいか」

「行きたくないです」


 隊員は間髪入れずに返してきた。良い度胸だ。後で取り立ててやるとしよう。


「俺も同じだ。胸糞悪い」

「やる気を出したいものですが、一尉ならどうされますか」


 葵はふむ、と考えてから口を開く。


「こう思え。あいつらは犯罪者だ。妖怪にあっさりと殺させるより、引きずり出して軍法会議で存分にいたぶってやることにしよう。楽には死なせない」

「一尉。何故だかとても素敵な提案です」


 隊員は敬礼し、葵の背後にくっついた。急に出来た信奉者を引き連れて、葵は軍用ヘリに向かった。


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