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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
その参謀、十三歳
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悪事はバレないようにやれ

 しかし、彼らの怒りをこめた矢が、あおいに届くことはなかった。確かに矢は放たれ、宙を舞う。それはいずれ、目標に向かって落ちるものだ。


 だが今、矢たちは空中で静止している。固められたかのようにぴたっと止まり、死んだように動かない。


 ぎゃあ、ぎゃあと天狗の鳴き声がさらに大きくなる。内容まではわからないが、「何が起きてるんだ」とでも言っているように聞こえて葵は内心ほくそ笑んだ。


 天狗たちは驚きのあまり次の矢を放つのも忘れているのか、上からの攻撃がぴたりと止んだ。が、安心はできない。今度は横から殺気を感じる。


 さっき会った雷獣が数体、うなり声をあげ、葵めがけて一直線に駆けてきた。


「よう」


 葵は呑気に彼らに声をかけ、軽く指をひねる。その途端、糸がぐんと蛇のようにうねり、雷獣の足にからみついた。


 雷獣はバランスを崩し、前につんのめった。勢いがついたまま止まることはできず、妙に折れ曲がった姿のまま地面にたたきつけられる。


 同じようにやってきた後続をいなした後、葵はふたたび空に目をやる。天狗たちは驚きから立ち直り、弓に新たな矢をつがえていた。彼らの黒い翼の間に、ちろちろと赤い火が見える。


「火矢か」


 葵はぽつりとつぶやいた。天狗たちもなんとなくではあるが、葵の回りに何かあると感づいたようだ。矢が届かないのであれば、火で燃やそうと考えたのだろう。


 天狗の中ではランクが低く、人間には軽く見られがちな種族だが、なかなか柔軟な考え方をする。褒めてやろう、と思いながら葵は腕を組んだ。


 再び葵に向かって無数の矢が放たれる。下から見上げると、矢先にともった炎はまるで花火のように見えた。


 ふたたび葵の前でびたり、と矢が止まるものの、今度はじゅう、と音がして、焦げくさいにおいが辺りに漂った。葵の周りに、茶色く焦げた糸がその姿を現す。


 葵は相手の武器が弓だとわかった時点で、糸をびっしりと張り巡らせて格子状にすることで防壁を作った。矢はそれに刺さりはするが、衝突時に勢いを殺されたことで貫通まではできずに空中にとどまっていたのだ。


 今、透明だった糸に焦げた色がつくことで、葵がどのようにして身を守っていたかが天狗たちにもバレてしまった。葵は後方に目をやり、お手上げとばかりに肩をすくめる。


 天狗たちが一斉に弓を捨て、日本刀に持ちかえる。雷獣たちもそれを援護しようとふたたび進攻を開始する。今度の目標は葵ではなく網に変わっているようだ。網を突破したら、そのまま美味しく葵をいただく気だろう。


 自分の健闘もここまでのようだ。……なので、葵は他人に丸投げすることにした。



「と、いうことで。後は任せます。いるのは分かってますよ」

「ついて早々人使いが荒い。だが、よくやった」



 葵の背後から声がかかる。笑い声とともに、多数の足音がした。隊員たちに指示をとばす分隊長の野太い声がこだまする。さっきちらっと茂みの中に見えたヘルメットが見間違いでなくてよかった、と葵は思った。


 ようやく到着した応援部隊がじわり、と妖怪との間をつめる。葵は一歩下がり、お手並み拝見とばかりに手近な岩に座った。



☆☆☆




 応援でやってきたデバイス使いたちによって、天狗と雷獣たちはほぼ一掃された。わずかに残った個体はほうほうのていで逃げて行き、ようやく狭い河原での戦闘は終わった。


「間に合って良かった。周りが木ばかりで、ヘリが降りる場所がなくてな。すまん」


 分隊長が頭をかきながら、葵に言った。少し離れた地点にヘリを止めて、ここまで徒歩で応援に来てくれたらしい。


「いえ、助かりました」


 葵は素直に礼を言う。本当に、もう少し応援が遅れたら危なかったのだ。


「それにしても、なんでお前デバイむがっ」


 余計なことを言いかけた大和やまとの口を、葵は素早く封じる。そのまま大和の背中に銃をつきつけ、物陰まで引きずりこんだ。サスペンスものならこの後奴を殺さねばならない展開だ。


「余計なことを言うな」


 葵が大和に向かってすごむと、大和は顔を強張らせて聞いてきた。


「おま、もしかして無許可で持ちこんだんか。ばれたら懲戒もんやぞ」

「許可は取った。ただし許されない手段で」

「どういうことや? 隠して持ってきたんか」


 大和が首をかしげ、くらいついてくる。説明してやらないと、しばらくうるさそうだ。仕方なく、葵は口を開いた。


「デバイスの持ち込み自体は厳しく管理されている。隠して持ってくるのはほぼ不可能だ。作戦開始時に所持品や体調の検査もあるしな。よってそれは違う」

「何や、つまらん。飲み込みでもしたんかと思ったのに」


 スパイのごとく胃の中に隠して持ってきたと思っていたのだろう、大和は勝手に下品な想像をしていた。そんなわけあるか、と葵は大和をはたきながら続ける。


「最初は堂々と認めてもらおうと、上にデバイス配備数の増加を具申した。が、認められなかった。お前ならどうする」

「自分が二人分頑張ったらええ」

「駄目だ。そういう余裕のなさはいつか誰かを殺す。多少無理をしてでも準備段階で金と装備とヒトをねじり取ってくるのが参謀の仕事だ」


 葵に否定されて、大和はうんうん唸りながら考え始めた。しかしそれも長くは続かない。大和の顔が心なしか赤くなって「わからーん」と言いだし、天を仰いだ。


「せやかてどうすんねん。上は二個しか出さへん、て言うとんのやろ? 実力行使でもするんかいな」

「上が出さないのなら、他の所から持ってくればいい」


 葵が指を立てて言う。大和は立ち直り、機関銃のように喋り始めた。


「騙されへんぞ。軍事機密がそないにほいほい出てきてたまるか。デバイス保管庫の警備は特に厳しいはずやで」

「軍の保管庫には触ってない。うちから持ってきた」


 葵のその一言で、大和が呆けたように口を開けた。そんなレベルの結論になるとは、夢にも思っていなかったのだろう。


「デバイスってその程度のもんなん? お茶菓子的な存在?」

「勘違いするなよ。三千院家しかできん芸当だからな。うちのジジイが当主の時に、デバイスを実用化して軍作戦にねじこんだんだ。だから家に実験施設も、デバイスもある」

「ほんまかいな」


 子供のように大和は食いついてきた。デバイスを三千院家が生みだしたことを今まで本当に知らなかったのだろうか、と葵はまじまじと大和を見る。


 こいつなら知らなかったかもしれない。良い機会だ、教えておこう。


「三千院家では、子供が生まれた時点で適性の検査をする。適性があることが分かった時点でその子用のデバイスが作られるんだ」

「ずるいで」

「ずるくない。俺のアリアドネもそうやって生まれた。うちが軍部内で発言権を持ったのは開発の実績と、ジジイたちの活躍のおかげだ」


 三千院家のこのアドバンテージは他家から少なからぬ反発をかっている。特に代々軍人一家であり、この地方の最高権威といわれる富永家には「成りあがりのくせに」と蛇蝎だかつのごとく嫌われていた。しかし、葵の祖父も父もどこ吹く風で、未だにこの習慣は続けられている。


「へえ。ええなあ。俺なんか入隊するまで触らせてももらえんかったわ」


 大和はひどくうらやましがった。だが、葵の心中は複雑だ。十数年触った自分より、三カ月の大和の方が威力が高い。やはりデバイスに関しては生まれた時に全てが決まっており、努力など微々たる影響しかないのだ。


 わずか三カ月でそこまで適応しているお前の方がよっぽどいいだろうよ、と葵は心の中でつぶやいてから説明に戻る。


「というわけで、俺は自分用のデバイスを家に持っている。それを何とかして持ち込みたい。それならどうするか」

「上に賄賂でも贈るんか? 饅頭まんじゅうの箱とかに入れて」

「お前、さっきから『上』にこだわりすぎだぞ」

「は?」


 武士の情けで葵はヒントを出したが、大和はさっぱり分かっていなさそうだった。

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