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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
その参謀、十三歳
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主役は最後に笑う

「おい」

「…………」


 流れる川の音に負けないように、あおいは大きめの声で呼びかけた。しかし大和やまとはまだ目を閉じている。じれったくなって、大和の耳元でもう一度声をあげた。


「おい」

「天狗が喋れるとは知らんかったわ。最後にお相手してもらおか」

「俺だ」

「殺すなら一息で頼むで」

「これが終わったら存分にそうしてやるから、とっとと此岸しがんに戻ってこい阿呆あほが」


 焦れて、葵はついに手を出してしまった。敵が来るのを待ち構えていた大和が、後ろから思い切り頭をはたかれてよろける。


「げ、お前か! 何しよんねんこの仏像野郎!」

「だから仏像は褒め言葉だと言ったろうが」


 大和は愚痴を言いながら、葵をまじまじ見ている。最初は驚き、そして徐々に気味が悪そうな視線が降ってきた。


 葵は攻撃などなかったかのように、じっとそこに佇んでいた。矢にも当たらず、雷獣に噛まれてもいない。五体満足、血の一滴も流さぬまま立っている。


「なんでお前、無傷なん。もしや、誰かを盾に」


 大和が怖々葵に向かって言った時、ぞろぞろ他の隊員が現れた。人聞きの悪いことを言うな、と葵は大和をねめつける。


「あ、一尉。あの世は意外と味気ないですね」

「死んでない死んでない」


 もう完全に三途の川を渡った気でいる隊員たちに、葵は喝を入れる。隊員たちはお互いの顔を触り合って、ああ生きてらと間抜けな感想をもらした。


「これは一体、どういうことだい」

「奇跡でも起こったの? これ」

「なんかすげえ、すげえ」


 佐久間さくまをはじめとする研究者たちも、首をひねりながら現れた。則本のりもとのテンションが異常に高くてうっとうしい。


「奇跡なものか、馬鹿らしい」


 そろそろ種明かしをするか、と葵はつぶやく。腕まくりをし、今まで袖の下に隠していたものを皆に見せた。


「まさか、嘘やろ?」


 軍服の袖がまくられ、葵の細い腕があらわになる。左手首にしっかり絡みついた腕時計に皆の視線が集中した。


 その時計は、奇妙な外見をしていた。外枠は時計の体裁をしているものの、文字盤に数字が全くない。ただ三本の針が、てんでばらばらな速度で動いている。普段はじりじり動かないはずの短針がせわしなく働く様は、見る者に何ともいえぬ違和感を感じさせた。


「それ、デバイスか」

「じゃなかったら何だ」


 葵はそれだけ言うと、あっけにとられている一同を尻目にくるりと回り、背を向けた。


「忠告しておく。俺の周りから離れるなよ。でないと死ぬぞ」


 葵は右腕を上げ、挑発するように人さし指を立てて前後に動かした。


「さあやろうか、アリアドネ。道を開くは、お手のものだろう」


 その名を呼ぶと、自然にデバイスが動き出す。


 デバイスの特性があるものが、使い方を教えられることはない。触った瞬間、自然に能力や使い方を悟るのだ。頭の中で声がする、というものもいれば掲示板のように一気に文字の形で現れたと報告があがる場合もある。


 最初は隠れて薬物でもやってるんじゃないかと疑う者もいたが、報告数が増えていくにつれ、次第にその声は小さくなった。


 葵の場合は、視覚でデバイスが使い方を教えてきた。風に吹かれるように、透明な糸が動き回っている。糸は徐々にその数を増し、意識の底をやかましく動き回っている。絡んだり切れたりしそうなものだが、彼女らはいたって涼しげに、好き勝手に踊っていた。どう指示を出せば、いかに動くか。葵の前で糸は踊り、その全てを主に伝えてきた。


 そんなはじめの邂逅から、十余年。デバイスはきっと、使われる機会を待っていた。


 早くわたしを、外に出せ。


 物言わぬ糸だったが、葵にはものが持つ意思がはっきり感じられた。


「じゃあ、行くか」


 葵が小さく呟くと、糸たちが起き上がり、拳を突き上げるように天高く舞い上がった。極細の糸が実体化し、主の周りを取り囲む。


「どうした。その程度で弾切れか」


 天狗たちに人間の言葉は通じない。が、無理して口の端を吊り上げ、わざとらしく笑おうとしている姿には憤りを覚えるらしい。


 間髪いれずに矢が雨のように飛んできた。がらんどうだった葵の上空が、矢で埋まる。


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