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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
飛べよ翼が小さくとも
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状況証拠お?

 ひどくゆがんだ姿勢にも関わらず、東雲しののめの足は異常に早かった。走っているのではといぶかりたくなるほどの早歩きで、軍人たちの間をすり抜けていく。東雲はずかずかと進み、桜門を出てから右手にある大手門をくぐって、広い道路の端を物おじせずに直進した。迷彩服の軍人が多い中、彼女の白衣はひどく目立っていた。


「ま、待ってください」


 はるかが青息吐息で、後ろから東雲に呼びかける。彼女は人気のいない木陰のベンチまで来て、ようやく足を止めた。


「ラボ長、俺も話が」


 大和やまとがいつの間にか追いついてきていた。東雲はああ、とぶっきらぼうに言ってどっしりとベンチに腰掛ける。遥と大和も、彼女に近いベンチに座った。


「で、なんや」

「本当なんですか? 保管庫の責任者が席をはずしてるって」

「そんなわけあるかい」


 東雲はあっさりと言った。遥は深くため息をつく。


「やっぱり。じゃあ、保管庫について知らないってのも」

「それも嘘や」


 漫才師のようになめらかに、東雲はいう。


「だいたいな、いざという時に一人しか開けられへんような武器保管庫なんぞ何の役に立つんや。この通り、ちゃんとカギももっとるわ。やっぱりフリルはお嬢さん育ちやから、勘繰りが下手やな」


 東雲が首にかけていたひもを引っ張ると、ずるずると洋服の中からカードキーが出てきた。遥は頑張っているのに、フリル呼ばわりされている絹子を気の毒に思いつつも、東雲に質問を続ける。


「なんで嘘ついたんですか?」

「怪しい奴らには簡単に後ろを見せたらあかん」


 にやりと口の端をつりあげて東雲が笑う。今まで黙り込んでいた大和が、顔を上げた。


「考えてみい。父も兄もいなくなった今になって、都合よく現れた大量のデバイス使いたち。怪しすぎや。淀屋よどやはそんなお人よしちゃうで。援軍やるとしたら、この基地がさんざボロボロになった後でよこして『残念でしたが間に合いませんでしたあー』とか言うほうが似合うな」


 会ったこともない淀屋という人物が、遥の中でどんどん悪人になっていく。ほんとにいるのか、そんな悪の帝王みたいなやつ。遥は怪しんだが、隣に座っている大和は首がもげそうなほどうなずいている。


「それに、奴らが淀屋の手先やないっていう状況証拠なら見つけた」

「え?」


 驚く遥と大和をよそに、東雲はまっすぐ前方を指さした。数台の軍用車が、玉造門の前に固まって止まっている。さっきまで門の前にいたデバイス使いたちが乗ってきたのだろう。よく手入れされているらしく、どこもかしこもきれいだった。


「きれいな車ですね」

「きれいすぎるわ。淀屋は車なんか動きゃええ、って考えやからな。淀屋のとこで車をあんなぴかぴかにしたら、水がもったいない言うて三秒で首が飛ぶで。あいつら、やっぱり淀屋とは無関係や」


 なるほど、そういう見方もあるのかと遥は素直に感心する。東雲の発見に、大和が色めき立った。


「やっぱり俺のカンは当たるんや」

「まあ、弟の勘だけは大したモンやからな。聞いたことないか?」

「いえ、なんのことでしょうか?」

「士官試験の、学科。こいつ勘だけでマークシート全問正解、それで受かったんや。記述の問題になった瞬間、全滅やったみたいやけどな。今年から、記述の比率があがったのも弟のせいやで」


 そんなことが、と遥は顔をしかめた。しかし当の大和は少しも気にしていない様子だ。


「よし、さっそく絹子に報告や。見とれよ」


 駆け出した大和が、東雲の差し出した足にひっかって派手に転倒した。東雲は転んだ大和を心配するそぶりすら見せず、冷たい声を大和に投げかける。


「何を報告するん?」

「さっきの車の件に決まっとるやろ。ラボ長、ボケたか?」


 大和の言葉が終わるやいなや、東雲の手からピンセットが三本飛んだ。大和の隣に生えていた立派な木の幹に、かつかつかつと小気味よい音を立てながらピンセットがきれいに突き刺さる。


「ボケはあんたや。車がキレイやったなんていうのは、あくまで状況証拠。向こうが否定したらそれまでや」

「ほかの証拠は?」

「ぱっと見、ないわ。奴らにデバイスが渡る前に、急いでなにか手を打たなあかん。この状況であの不審な動き。奴ら明らかに人間側を裏切っとる。渡してしもうたら、必ずタチの悪いことが起こるわ」


 東雲の声にとげが混じっている。不安になった遥は聞いた。


「渡さないようにすることはできないんですか?」

「フリルが指揮をとっとる限り――いや、ここにおる誰でも一緒か。無理やろな。あの人数の全員でなくても、デバイス使いが十人もおれば、基地の防衛は格段に楽になる。慣れへん重圧をかけられていっぱいいっぱいになっとったところへ垂らされた蜘蛛の糸や。飛びつきたくてたまらへんやろうからな」


 自分たちが楽になろうと武器を差し出せば、とたんにそれが己の首筋に食い込んでくるわけだ。聞けば聞くほど状況は絶望的になっている。

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