表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
飛べよ翼が小さくとも
183/675

濃い商売人たち

「そんじゃ、仕切り直しといくか。遠いとこご苦労さん、儂が大和の父の御神楽新みかぐら あらたや。建築や鉄鋼を専門にあつかっとる。一応、この集りのまとめ役をさせてもろうとる」


 父が怜香れいかに向かって頭を下げる。


「僕は津田勇作つだ ゆうさく。電子部品や通信機器の会社をもっとる。そういうのに興味がある友達がおったら、うちの会社に連れてきたらええ。見学大歓迎や」


 津田が父に続いた。怜香がありがとうございます、と言い終わらないうちに、今井が割り込む。


「あたしは今井桃代いまい ももよ。あだ名は子供の頃からずーっとももちゃんやったわ。ピンクが大好きなのもそれでかなあ。繊維や被服の会社をやっとるんやけど、今の一押しはこれやね、ロリータ」

「は、はあ……」

「日本のカワイイは今や輸出せなあかん時代やからねえ。肌を露出せんでもいいから、イスラム教圏でもいけそうやし。誰かええモデル知らん? ネット配信に使いたいんよ」


 今井の勢いに押されて、怜香が口を開いた。


「ああ……そういうの似合いそうな人なら……。本人がやる気になるかはともかく」

「ほんま? その子の写真とかもっとる?」

「この前携帯で撮影したのなら。三千院さんぜんいんのとこのひびきさんなんですけどね。あ、あった」


 怜香が端末を見せるやいなや、今井がすさまじい勢いで怜香ににじり寄る。この子の連絡先を教えてちょうだい必ずうんと言わせてみせると、怒涛どとうの口説きっぷりだ。よっぽど響がお気にめしたらしい。


ねえさん、商売熱心は結構やが、今はこの大阪を守るための話し合いをしよか。個別の話は、それが終わってからゆっくりな」


 津田が止めに入った。ようやく今井が静かになってから、津田は父にむかって顎をしゃくる。父は軽くうなずき、話しだした。


「さて、妖怪どもに対する対策はだいたいまとまったと思う。ゲリラ的行為に対しては、徹底的にこれをマークする。奴らも完璧やない、数回、数十回補足出来れば動きのパターンが分かるはずや。取り囲んで動きを止められれば、もともと小さい集団やから怖くもなんともない」


 確かに、と部屋の中にいる津田がうなずいた。


「敵のパターンを記録できるカメラがもっと要るな。増設させるわ」

「頼むで。もしかしたら、山の中まで敵を追う展開になるかもしれん。いざという時に野営できる軍部が敵の迎撃を担当し、警察はあくまで住民の警護と治安維持に専念するんや。警察には敵を見つけても手を出さんように儂から言うとく」


 ここ大阪でも、警察と軍隊の軋轢あつれきは少なからずあるのだろう。父は首をすくめながら言った。


「最悪、住民の一時的な移住も考えなあかんかもしれん。無理矢理移動させて反感をかわんようにようよう注意すること」

「わかった。人間同士の戦争と違うて、そうそう敵になびくとは思えへんが、それでもな」


 今井が同意した。うなずくと同時に、彼女の大きく結いあげた団子状の髪が揺れる。


「警備や設備にかかる費用の負担割合は、儂が三割、おふた方は二割五分。淀屋が二割。金はいつもの口座によろしく頼むわ。他になんかあるか?」


 父が聞いたが、室内から質問はなく、会議はそこでお開きとなった。



☆☆☆




和泉いずみ大和やまと。これから予定は」


 津田と今井が会議室から出て行ってから、新が聞いてきた。


「怜香ちゃんに大阪基地の中を見てもらうわ。大和のデバイスの修理で、どっちにせよラボまで行かなあかんから」

「えらいすまんなあ」


 大和が肩を落とすと、新はからからと笑いながら近づいてきた。そして細い手で、わしわしと大和の髪をかき回す。


「使うたらモノが壊れるのは当たり前や。命があっただけ儲けもんやと思え。儂らが想像した以上にようやっとるわ。まあ、周囲の助けもあるやろうがな」


 そこまで言って、新は怜香に体を向けた。


「大和が世話になっとるようで」

「いえ、私は特に何も」


 怜香は恐縮して、ぶんぶんと首を横に振った。


謙遜けんそんせんでええ。これからもよろしゅう。今日は淀屋の毒気にあてられて、疲れたんちゃうか」

「まあ……肝のすわった可愛くないじいさんでしたね。奥様がボロクソに言われたのもわかるような気がします」


 怜香がそう言うと、新はくっくと肩を震わせて笑った。


「可愛くないのは同意するが、肝がすわったいうのは違うで。あいつはすさまじく臆病な奴や。自信がないから、言葉で威嚇いかくするんや。ほんまは今日ここに来とった誰よりも小心者で、慎重で、しみったれた奴やで」

「そういうものなんですか」


 きっぱりと言い切った新の口調に、怜香が驚く。


「金のことでゴネとったんもそうや。奴かて一角の商売人や、自分だけ銭を出さんで済むとは思っとるはずがない。少しでも自分の出資分が減れば満足、くらいのもんや。今内心では大喜びしとると思う」

「皆さんはそれが分かっていらっしゃったのですか」

「なんだかんだで長い付き合いや、承知しとる。奴が扱っとるのは石油始め燃料関係や。供給を止められたら全員が困る。

それに奴の拠点の中之島付近の川は、ここの基地への貴重な物資の運搬路や。すねさせて、川を封鎖でもされたらかなわんからな。皆、多少の出費は覚悟の上や」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ