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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
その参謀、十三歳
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流した血の代償

 あおい怜香れいかの指差した方に耳を向けた。が、何も聞こえない。


「どんな音だった」

「石を踏んでるみたいな……」


 さっき仕掛けた枯れ木や石は、敵が来た時に踏めばわかるように派手にいておいたものだ。その砂利に、なにかひっかかったのか。


 葵は辺りを見回す。大和やまとも怜香と同じ音を聞いたのか、すでに昆を構えて様子をうかがっている。彼の額には汗が浮かんでいた。


 他のものは安心しきって、呑気に騒ぎ合っている。一人だけ離れて座っている怜香と、最初から地獄耳の大和にだけ、変わった音が聞こえたのだろう。


 葵は無言で隊員たちに近づき、耳元で指示を飛ばす。弛緩していた彼らの表情が引き締まった。


 隊員たちがライフルを置き、小型の銃に持ちかえる。葵の指示によって一列に並んだ彼らは安全装置を外し、構えを終える。打って出る気でいた大和は後列に下げられ、河豚のように膨れていた。


 準備が終わってすぐ、地面を踏みしめる音が大きく聞こえてきた。葵は機を逃さず声をあげる。


「撃てっ」


 銃口が一斉に火を噴いた。ぎゃん、と獣の悲鳴が洞窟内にこだまする。跳弾があるから、何発かは急所に当たるだろう。そう思っていた葵は小さく拳を握った。


 先頭の個体が不意をつかれて倒され、そのまま後ろに続くものの障害物と化す。その隙を見逃さず、二巡目が発射された。


 しかし銃では致命傷にならない。襲撃者は唸り声をあげたが、直線状の狭い通路では狙いやすい的にしかならないと気づいたようだ。自らの不利を悟った彼らは、姦しく鳴きながら出口へ消えて行く。


 彼らの足音が消えてしばらくしてから、葵が大和に合図する。二人は声もなくうなずきあい、洞窟の出口へ向かった。



☆☆☆




 葵たちが洞窟を出るやいなや、さっきの侵入者たちが待ち構えていた。


「思った通りだな」


 葵は呟く。


 妖怪たちの姿は、狼によく似ている。ただ、明らかに違うのは後ろ脚が四本もあり、尾も先が二つに割れているところだ。彼らの体は灰色の毛で覆われ、寄り集まるとまるで雨雲が動いているようだった。


 灰色の狼たちは四方から、獲物の喉笛を食い破ろうと襲い掛かってくる。機動を活かせぬ洞窟での戦闘を避け、長所が活かせる場所まで退いたのは英断といえた。


 が、彼らは一つ読み間違いをしていた。広い場所の方が本領を発揮できるのは人間側も同じことだったのだ。洞窟では振り回せなかった大和の昆が容赦なくうなり、獣たちを地に落とす。


 ただの棒に見えるこの装置、殺傷能力はなさそうに見える。しかしこの昆は、適性のあるものが使えば、かすっただけで雑魚妖怪を殺せるといわれている。


 大和は何も考えずにぶん回しているが、常人であれば一回だけで疲労困憊してしまう。実は大和、大口をたたいても許されるレベルの逸材なのだ。ただそれを言うと天まで調子に乗ることは明らかなので、周りが言わないだけである。


 銃を構えて後方で待機している葵は、死角から襲い掛かる狼たちに照準を合わせて引き金を絞る。ぱん、と割れた風船のような軽い音に反して、撃った反動がすさまじい。


 共闘が功を奏し、敵は徐々に減っていった。大和が荒い息をしながらも、最後の一頭の脳天を叩き割る。予備の弾丸も用意していた葵だったが、幸いそこまで使うことがないまま戦闘が終わった。


 葵は、荒い息を吐いている大和に声をかける。


「少し休め」

「アホかお前は。そないな時間あるか」


 息を切らしながらも、大和はきつい目線を投げつけてきた。


「今ので血を流しすぎたわ」

「……確かに」

「みんなに言うて、荷物をまとめさせた方がええ。俺はその間休めれば治る」


 大和はそれだけ言って、地面に腰を下ろす。強がりであることは明らかだったが、葵は彼を残して洞窟へ走って行った。早く行動しなければ、救助が来る前にここにいる全員が死んでしまう。

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