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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
その参謀、十三歳
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希望は長く続かない

 あおいは岩場を出て、無線のスイッチを入れる。まず真っ先に、近くの基地へ救助要請を送った。


 起こったことを、私情を交えず淡々と報告する。連絡を受けた司令部は加藤に激怒し、すぐ救援を送ると約束してくれた。


「ヘリを飛ばす。三十分みてくれれば救助隊が到着するはずだ」

「ありがとうございます。部隊の現地点はGPSで拾えますか」

「感度は良好。こちらで把握している。もし移動するような事態になっても必ず見つけるよ」


 司令から力強い言葉が返ってくる。相手の自信のほどがうかがわれた。とりあえず、相手のテリトリーで孤立する事態は避けられそうだ。


 安心したところで、葵はふと聞いてみた。


「加藤の位置は」

「通信を切ってるから不明だね。それくらいの知恵はある」


 ダメもとで聞いてみたが、予想通りだった。そこまで上手くはいかない。


「それにしても速いですね。上の許可はとらなくていいんですか」

「幸いこの件に関しては、決行前に緊急出動許可が織り込み済みだよ。普段だったら夜を明かしてもらうところだ、ははは」


 通話口から司令の笑い声が聞こえてきた。上層部の中でたらいまわしにあうと、救援が遅れる体質は相変わらずだ。葵は皮肉っぽく言う。


「一晩で来れば速い方じゃないですか」

「はっはっは、ありうるありうる」


 その後しばらく上層部への愚痴を語り合った後、通信を切った。無線をしまった後、周りを見回す。散乱する枯れ枝と小石が視界に入った。


(使えそうだな)


 抱えられるだけ枝と小石を抱えて戻り、洞窟入り口から奥に向かってぶちまける。単純な行為だが、散らばる小石や小枝が増えて行くにつれて奇妙な達成感があった。


 しばらく子供のようにばらまきを堪能してから、葵は皆の元に向かって歩き出した。


「あ、帰ってきた」


 葵が洞窟の中に入ると、真っ先に怜香れいかが声をかけてきた。帰りが遅いことを気にしていたのだろう。心配そうだった彼女の顔が、ぱっと明るくなる。


「ただいま」

「お帰り」


 軽く怜香と手をタッチして無事を確認し合う。その途端、洞窟内の温度が若干下がった気がした。隅から聞こえてきた「リア充爆発しろ」というのは何の呪文だろうか。


「ねえ、どうだった? 助けは来るの?」

「通信がつながったぞ。近くの基地から救助が来るそうだ」


 怜香の質問に、葵が答える。返事を聞いた途端、洞窟内のあちこちから歓声が上がった。


「よかった」

「無事に帰れるぞ」


 三十分くらいで到着すると葵が付け加えると、安堵の声がより大きくなった。則本のりもとはもうすっかり救助された気になって、緊急用の食料パックを開け始めている。


「どうなることかと思ったけど、まあよかったね」


 三輪みわが追加の痛み止めを飲みつつ、祝いの言葉をかけてくる。軍人でもないのに肝が据わった人だ。


「えらく余裕ですね、三輪さん」

「余裕? 馬鹿言わないでよ。持病の腰痛は悪化するし、酒もたばこもないからそろそろ手が震えてきたわ」

「はいはい」

「なによ、その態度」


 むくれる三輪に葵は背中を向ける。医者の不養生を絵に描いたような人だ。呆れていると、佐久間さくまが会話に入ってきた。


「いやあ、てきぱきしてるねえ。年長でも、僕が指示を出す場面なんてほとんどない」

「どうも」


 三輪はそれをきっかけに葵から離れ、水をがぶ飲みし始めた。程なくして、則本が自分のガムを食べてしまったことを知り、怒り狂う彼女の声が聞こえてくる。


 佐久間はそんなチームの様子を見ながら、おだやかに笑っていた。しかし、突然彼の顔が歪み、泣きそうな顔になる。


「一時はどうなることかと思ったけど、どうやら無事に帰れそうだね。……撃たれた水谷みずたにくん以外は」


 口には出さねど、佐久間はずっと命を落とした研究員のことを考えていたのだろう。葵は彼の横顔を見ながら、頭を下げた。


「非戦闘員に犠牲者を出してしまったことをお詫びしなければなりません。本当に申し訳ない」

「いや、君を責めるつもりで言ったわけじゃないんだ。あれは欲に目がくらんだ加藤が悪いよ」


 佐久間は慌ててそう言ってくれたが、葵の気分は晴れなかった。佐久間はそんな思いを察したのか、話題を変えてくれる。


「加藤もなあ……高校の時はもうちょっとましだったんだけど」

「同級生だったんですね。彼の処遇が気になりますか」

「そう親しかったわけじゃないから、野次馬根性で聞いてるんだけどね」

「いい末路は期待できません、ということくらいでしょうか。今言えるのは」

「水谷のためにも、厳罰を望むよ」


 佐久間はうなだれる。葵は無言で再度一礼し、その場を離れた。


 そこで時計を見た。さっきから十分弱しかたっていない。救援が来るまでなにをしようかと思案しているところで、怜香が手招きしているのが見えた。


「葵、ちょっと」

「どうした」

「変な音が聞こえるんだけど」


 怜香が真剣な顔で言った。

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