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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
その参謀、十三歳
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参謀の思考に休みなし

 注意深く辺りの気配をうかがう。伏兵は見当たらない。大和やまとはようやく昆をしまい、通信機を出した。


「終わったで。降りてこいや」

「良くやった。今から向かう」


 あおいに報告すると、即座に声が返ってきた。上から言われたのが気に喰わないが、向こうの方が階級が高いので仕方ない。


「すぐ抜いたるからな」


 無線を切ってから、こっそり毒づいて憂さを晴らす。本当はもっと言いたかったが、それ以上は息が切れた。やはり立ち回りで消耗している。


 まず隊員たちが手なれた様子でロープを伝って来る。それに次いで研究員たちがだいぶみっともない姿で落下してきた。


 最後に怜香れいかと葵が降りてくる。口しか動かしていない葵はぴんぴんしていたが、怜香は息が荒くふらふらしている。顔色が白っぽく、目がうつろだった。


「こいつを休憩させる。移動するぞ」


 葵が口早に言う。大和も反対するつもりはない。素人目で見ても、怜香の疲労は群を抜いていた。


「無線で応援を呼ぼう。加藤三曹を早急に捕縛しないと、人間側の立場が悪くなるばかりだ」


 佐久間さくまの主張に、葵はうなずいた。


 確かに、『無断で領地内に侵入してきた不審者にお帰りいただく』立場だったのに、加藤たちのせいで『先制攻撃をした上、相手の財産を盗んで逃げたクズ野郎共』にまで落ちてしまった。


「でも、応援がくるまでちょっとかかるやろ。どこで待つんや。相手から丸見えの場所でっていうのはマズいで」

「そうだな。避難場所を捜すぞ」


 葵が携帯端末を起動する。位置捕捉装置が、現在地を赤い点で示す。荒れ地や樹林の地図記号のほかに、緑の三角印がぽつぽつ浮かび上がった。これは、先遣隊が残した避難場所を示すマークだ。


 山小屋ほど設備は整わず、単なる窪みなどの場合がほとんどである。しかし雨露を気にせず設営ができるため、追いつめられた部隊にとってはありがたい場所だ。


 一行は最も近い三角を目指して移動を開始した。曲がる道をゆき、時に岩場で足をとられそうになりながらも前進していく。


 晴れているが、遠くで雷が鳴っているのが聞こえる。雨に降られると山道歩きが大変になると全員わかっているため、自然と足が早くなった。


「これか」

「ここなら大丈夫かも」


 目的地にたどりついた。引きつっていた佐久間の顔がやっとほころぶ。


 休憩場所は、大きな岩の下部にあるくぼみだった。先遣隊が内部の安全を確認すると、隊員たちは我先にとばたばた駆けこむ。遠くで雷の音がしていたので、濡れでもしたら敵わないと思ったのだろう。


 さっきの洞窟と違って、大きくカーブした道はあるものの分岐はしていない。ひんやりとした入口部を抜けると、開けた場所に出た。岩が多くて寝そべるわけにはいかないが、めいめい適当なところに腰をおろす。


 出入り口が一つしかない構造だったので、葵は不満だった。入口をふさがれてしまえば、袋のねずみになってしまう。だが、隊員たちは完全に腰を落ち着けている。移動したいと言っても、誰もついてこないだろう。


(仕方ない、最低限の用心だけしてここで休むか)


 そう決めた葵は、則本のりもとに向かって声をかけた。


「通信機は正常か」

「はい、これ。一尉のはチェック済みです。もし壊れてたら俺が直しとくんで、他の人のも全部こっちにください」


 則本が、作業が済んだ機器を葵に渡してくる。さっきまでのチャラそうな雰囲気はない。こまごまとした部品がついた基盤を引きずり出し、てきぱきと交換している。


 その迅速な作業は、確かに彼のエンジニアとしての有能さを証明していた。葵が腕前を褒めると、則本はひどく照れる。


「親父が工場やってて、こういうのはしょっちゅうなんで。零細工場で人雇う余裕もなくて、大きくなったら働かされたし」

「そうか」


 葵は則本の肩を叩いてから、洞窟の入口へ向かう。


「どこ行くんすか?」

「ちょっと本部と通信」

「携帯じゃないんですから、ここでも通じますよー」


 則本の声が追いかけてきたが、葵は歩みを止めない。実は入口に行かなければ、やれないことがあるのだ。

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