槍は貫き、昆は唸る
「ヴァルキリー、見てきて」
怜香が軽く入口を指差した。彼女の左手の小指には、銀色に輝く指輪がはめられている。その指輪についた紅色の宝石が光った。
すると純白の少女は無言でうなずき、暗闇に消えて行った。歩くというより空中を飛ぶような動きに、屈強な隊員たちも目を白黒させる。ただ、大和と葵は珍しくもないというようにあくびをした。
「これがデバイスの力ですか。まるで魔法ですね」
隊員たちはしきりに感心しているが、本当は魔法ではなく、デバイスに嵌めこまれた鉱物状の生物が反応しているのだ。怜香の場合さっきの紅色の石が中核となる。
宝石に見えるほど美しいが、生物である以上、弱点も寿命もある。となると当然、個々で自分を守る術を考え出す。この鉱物状の生物の自己防御を利用してつくられたのがデバイスなのだ。
怜香のデバイスは、召喚獣のように動く個体を作ることで主の身を守っている。単なるロボットではなく、ちゃんと自己判断までできる。もちろん無敵ではないが、怜香はこのデバイスを使用して高い効果をあげている。
隊員たちは盛り上がりすぎている。葵はデバイスの弱点を説明しておこうと思ったが、その前に純白の少女が戻ってきた。
彼女は厳しい顔をしたまま、首を横に振る。結果は芳しくないようだ。
「……入り口はダメね。もう敵の手が回ってる。そっちへ逃げ出したら、前と後ろから挟み撃ちになるわ」
「仕方ない。崖から脱出するぞ」
葵が怜香の報告をうけて決断する。岩の割れ目を覗き込み、ロープの無事を確認した。天狗たちは空中で様子見をしている。
「俺が先行くわ」
「降り切るまでは気を抜くなよ」
大和はその忠告を、最後まで聞いたのだろうか。手袋だけを素早く装備し、岩の割れ目から外に出る。続いて、純白の少女が舞い出た。
☆☆☆
「おー、高い高い」
大和は外に出ると、息を吸い込んだ。まだロープにつかまったままの不安定な体勢だが、肺が新鮮な酸素で満たされて実に爽快だ。
そう思った次の瞬間、天狗が死角となる背後から突っ込んできた。大和は昆を振りおろして影を薙ぎ払う。
第一波を払っても増援が加わり、攻撃がいっそう激しくなった。一体やられると同時に、今度は二体突っ込んでくる。とうとう大和の手に余るほどの天狗が集まった。しかし、今回は心強い味方がいる。
「すまん、あと頼むわ」
戦乙女がうなずき、天狗たちの真横に陣取った。彼女の手には、白くきらめく銀槍が握られている。
背丈ほどもある長槍を、彼女は一気に動かした。それとほぼ同時に、肉が切れる時の金臭い匂いがする。
ヴァルキリーの槍は二体の天狗をやすやすと串刺しにし、その哀れな屍を衆目の元にさらしていた。天狗たちにも動揺が走り、敵の布陣が少しゆるくなる。
大和はその隙に、昆を小さくして耳にしまいこむ。両手が自由になるやいなや、一気に地面めがけて降下した。
着地。足の裏に衝撃を感じたが、痛がっている暇はない。素早く体勢を整え、再び耳から昆を取り出す。
持ち主の戦意に答えるように昆が伸びる。自分の身長より大きくなったところで、大和は武器を構えた。
「さあ、暴れるで。斉天大聖」
さっきの宙ぶらりんな状態とは大違い、前後左右どちらにも動ける。爽快感で大和の胸がふくらんだ。
相変わらず空では銀槍の少女が縦横無尽に飛び回り、天狗たちを屠っている。
天狗たちの武器は日本刀のようだ。リーチが圧倒的に長い槍を相手にするのはさぞかし難儀、相手が悪いなと大和は笑った。
天狗の死体がひっきりなしに落ちてきて、地面を揺らす。するとその死体を隠れ蓑にして、攻撃を仕掛けてくる個体が出始めた。
「発想は悪うないわ」
ただし、力なく落ちてくるだけの死体と、意思を持って襲ってくる兵士では、まとった殺気が全く違う。大和は慌てることなく昆を肩にかつぎ、生きている個体だけに狙いを定めて振りぬいた。
速度のついた攻撃が、敵の顔面に入った。天狗は悲鳴をあげることすらできずに、そのまま吹っ飛ぶ。無残に割れたくちばしの破片が、大和の上にばらばらと降ってきた。
勢いに乗った大和は昆をふるい続ける。その甲斐あって、戦意のある敵の数は明らかに減ってきた。
「逃げないなら、怪我じゃすまないわよ!」
怜香の声が頭上から降ってきた。彼女も敵の様子をうかがいつつ、デバイスの起動を続けているのだ。
数多の敵を葬った槍が再びきらめく。狙われた天狗が体勢を立て直そうとするが、もう遅い。槍の間合いに全く対応できぬまま、また絶命する。一方的な殺戮だった。
ついに天狗は戦意を失い始め、彼方の方へ飛び去っていく。
「無理に追うことはないで」
大和は少女に声をかける。彼女も了解したらしく、武器を収めた。




