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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
その参謀、十三歳
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余計な弾は身を滅ぼす

 乾いた銃声が一発、高らかに響く。追って薬莢が落ちる音がした。


「やったか」


 周囲がざわつく。あおいは素早く外へ目をやった。


「いや、止まってない」


 撃たれた恐怖から、逃亡者たちの走る速度はさらに上がっている。次の狙いをつける前に、加藤たちは水流を渡りきり、森へ消えて行った。


「狙いは外していないと思ったのですが……他のものに当たったのでしょうか?」


 発砲した部下は首をひねっている。しかし今、それは分からない。葵は気にせず銃をしまうよう指示した。




 ばさり。



 その時、再びあの羽音がした。




 引き金に伸ばされたままの、部下の指が固まった。


 今度は一度ではない。連続して音が鳴る。大和やまと怜香れいかが動いた。


 大和が隊員を押しのけて前に出る。怜香が後ろにきた隊員の袖口を掴んで、隅まで引っ張り込む。


 中央に臙脂、両端に金の装飾。大和が立派な昆を構えたのと同時に、大きな影が現れた。日の光が遮られ、黒い鳥のシルエットがくっきり浮かび上がる。


 大和の足が動いた。流れるような動きで昆を前に突き出す。先手を取られた黒い影は、何もできないまま外へ消えて行った。


「あれは、天狗か?」


 葵がつぶやく。シルエットの上半分は確かに鳥だった。しかし、下半分には立派な二本の足があったのだ。明らかに飛行体としてバランスの悪いその姿は、強烈な違和感を残した。


「間違いない、天狗だよ。加藤たちが堂々と川を渡れば、飛んでる彼らには丸見えだろうね。異変を察して動いたのかな」


 佐久間さくまが真っ青になった顔で答えた。


「厄介なことになったな」


 葵は舌打ちする。加藤を撃ったつもりが、警戒に来た天狗に当たったりしていないだろうか。


「……山の妖怪の王者、天狗か。敵に回したくないな」

「ただ天狗の中でもランクがあってね。いたのは地位の低い木葉こっぱと呼ばれる種族だから霊力は高くない。ただ、体は頑健だし集団で行動するから、囲まれると厄介だ」

「じゃあ、今がやばいっちゅうことやんけ」


 大和が舌打ちした。天狗たちが増え続けているのだろう、羽音はさっきからますます大きくなっていた。


 大和はふっと己の武器に目を落とした。そこで初めて昆の表面にびっしりと黒い血が付いていることに気づき、取り落としそうになる。


「突いただけで貫通はしてへんぞ」

「その前から出血してたんだろ」


 葵は悪い予想が的中したことを知った。当たったからと言って特に嬉しくもなかったが。


「何やて」

「加藤を狙ったつもりの弾が、あの天狗に当たったんだ。あっちが怒り狂うのも当然だな」


 ぐああ、ぐああという天狗たちの鳴き声がひっきりなしに聞こえてきた。声には規則性があり、人間が会話しているようだ。


「仲間同士で連絡を取り合ってるな。……もっとここに集まってくるぞ」

「くそっ」


 佐久間が残酷な事実を告げる。大和が地団太を踏み、隊員たちの顔から笑顔が消えた。怜香がぽつりと口を開く。


「やっぱり、この山にかなり多くの妖怪がひそんでいた。本部の懸念は正しかったのね」


 その間にも、また大和の昆がうなる。再度攻撃をしかけてきた天狗たちが、苦痛を訴える鳴き声をあげながら消えて行く。


「どないする。籠城ろうじょうか」

「それは無理だ」


 葵は大和の提案を一蹴する。食料もなければ弾薬もない密室で立てこもっても、勝負の結果は見えている。


「き、来た道を一旦引き返すってのはどうっすかね。ここの入り口さえ塞いじゃえば、もう攻撃できないっしょ」


 則本のりもとはそう言いながら、入り口に向かって後ずさりを始める。研究者数人が続いた。


「待って」


 怜香が彼らを制止した。彼女が手を一振りすると、葵たちの背後に音もなく少女が現れた。


 少女の背丈は怜香と同じくらい。髪も肌もまとう服も、そろえたかのような純白で、ただ目だけが深い赤色に輝いていた。

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