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あやかし殺しの三千院家  作者: 刀綱一實
その参謀、十三歳
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欲望を抱いて走る

 そう言われてみれば、軍人たちの数が少ない。十五人が穴に入ったはずだが、今いるのはたった五人だった。


 後から部屋に入ってきた大和やまと怜香れいかは、すぐさま壁の穴に近づいた。何もいないことを確認してから、そろそろと外をのぞきこむ。そこは二人に任せ、あおいは残った面々への質問を続ける。


「撃ったのは加藤たちか」

「そうだよ」


 佐久間さくまがぼそぼそと答えた。血の気の引いた顔色だが、必死に葵に向かって情報を伝えようとしている。


「加藤はこの部屋に入ってすぐ、積んであった木箱に突進したんだ」

「その中に小判があったのか」

「うん、三輪みわさんが持ってたのと同じのが詰まってた。いくつかは空箱だったけど、ざっとみても数百枚はあったね」

「で、もれなく加藤のポケットの中に消えたと」

「鞄の中から要らないものを捨てて、そこに小判を詰めてた」


 そういいながら、佐久間は一か所に固められた雑多な物品を指差した。加藤が持っていたであろう弾入れ、シャベル、雨具など軍用雑貨が残されている。


「それからどうした」

「加藤が軍人たちに言ったんだ。『お前らどうした、一生遊んで暮らせるほどの金だぞ。このチャンスを棒に振るのか?』って」

「……それで大半の奴らが食いついたわけだな」

「最初は戸惑ってたみたいだけどね。でも、みんな欲に負けてしまって」


 佐久間たちは、止めようと思った。実際声を荒げて注意した隊員もいたという。しかし、目の前の金に溺れて血走った眼をしたものたちに、そんな通り一遍の言葉が届くはずもない。


「すみません、自分たちの力不足です」


 座っていた隊員たちのひとりが、葵たちに頭を下げる。葵は肩を叩いて彼を慰めた。


「誘惑に負けなかっただけ立派だ。加藤が発砲した時の状況を話せ」

「気付いたら向こうが銃を構えていて、撃ってきたんです」


 消音器のついた拳銃は、音もなく一人の研究者の命を奪った。撃ち返そうとしたが、加藤たちはすでに他のものの眉間に狙いを定めている。遮蔽物のろくにない、狭い空間での撃ちあいはできないと判断した。


 加藤は自分につかなかった隊員たちに武器を捨てるよう命じる。心ある隊員たちはしぶしぶそれに従い、部屋の一角に集められた。


 その間に、加藤に寝返ったものたちが岩の割れ目から外に出て行く。彼らは支給品の中からロープを取り出し、楕円形の金具を取り付けた。


 さらに一人が隙間から身を乗り出し、取り出したロープの端を持ったまま作業をした。その隊員が戻ってくると、加藤たちは岩の隙間から外へ出て行ったという。


 話を聞き終わった怜香が、葵を呼んだ。


「ロープがあるわ。ここから降りたのね」


 葵は怜香を下がらせて、穴から外を覗き込む。横を良く見ると、少し離れたところに岩が突き出している。フックのようにその出っ張りは上を向いていた。しかも一つだけではなく、周りに数個似たような形の岩がある。


 そのうちの二つにオレンジの太い帯が巻きついている。帯の下部に楕円形の金具がついており、そこから頑丈そうなロープが伸びていた。裏切り者は、これをつたって下まで降りたようだ。


 葵は下を見た。一筋の川が流れている。幅はあまり広くないが水流は速そうだ。所々にある巨石に水流が当たって白いしぶきがあがっている。


 その川の中を、列になって進む集団がいた。ロープが川を横切るように渡されており、それに掴まって進んでいる。集団は全員軍服姿だった。


 間違いない、加藤たちである。


「加藤、止まれ」


 葵は拡声器で呼びかける。無線でも同じ内容が繰り返された。しかし、加藤たちは止まらない。


「静止しなければ強行手段をとるぞ。止まれ」


 加藤たちはそれを聞くと、止まるどころかいっそう足を速めた。あろうことか、懐から銃を出して撃ちだしたものまでいる。狙撃用の銃ではないので届かないが、恭順の意がないことは明らかだった。


「森に逃げ込む気ね」


 怜香がつぶやく。加藤たちが渡っている川の先は、木々が密集する森林地帯になっていた。一旦入りこまれてしまうと、追跡がほぼ不可能になってしまう。


 洞窟に残っていた隊員が、素早くライフルを構える。安全装置解除のレバーが動かされ、狙撃の準備が整った。


「加藤の足を狙え」


 葵の指示に、彼は頷く。そしてためらいなく引き金を引いた。

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