お宝発見、一生遊んで暮らせます
三輪と加藤の血止めをし、包帯を巻いているうちに三十分ほど経ってしまった。幸い二人とも軽症だったため、調査の続行が決まる。妖怪の棲みかを目指し、さらに山道を数十分進み、ようやくたどり着いた。
ごつごつした岩の間に、大人二・三人が楽に通れそうな洞窟が口をあけていた。何が出てくるかわからないため、軍人たちが銃を手に中の様子をうかがう。しかし、怒りに燃えた三輪は彼らを無視した。
「よし、行くわよ」
止める暇もなく、三輪がライト片手に入って行った。あまりの速さと思い切りの良さに、随行の隊員が口をあけている。
「三曹、我々も行きましょう」
「うーん、敵が待ち構えているかもしれんな。しばらく様子を見た方がいい」
部下にせかされた加藤が腕組みをした。一見もっともだが、三輪をいけにえにしておこうという保身が透けていやらしい。若手研究者たちから、仕事しろよと小さく声があがった。
「怜香、デバイスの調子は」
「いつでもいけるわ」
ハナから加藤が戦力になるとは思っていない。葵は、彼を頭数の中から外した。怜香が手につけていた指輪に目を落としてから、落ち着いた口調で答える。
「俺も大丈夫や。お前のデバイスの調子は……って、持っとらんかったな。いやー、すまんすまん」
話に入ってきた大和が嫌みを言った。さっきの狸の仕返しのつもりだろう。葵は言い返す。
「ほう、じゃあ先頭で行ってもらおうか。せいぜい頑張れよ」
「任しとけー。怜香ちゃん、俺が先行くで」
「そうね、この場所ならその方がいいかも」
話はまとまった。先行した三輪に追いつくべく、大和・怜香・葵の順で洞窟に入って行く。
入口は日光が入っていたが、奥に進むと暗闇の世界になる。手持ちライトの電源を入れ、それを頼りに進んでいく。敵がいた場合気付かれてしまうが、これしか視界を確保する手段がない。暗視ゴーグルをよこさない上が悪いのだ。
地面に湿り気があり、一足進むごとにぴしゃ、ぴしゃと音がする。うっかりすると足をすべらせて腰を打ちそうだ。岩をつかんで、慎重に足を進める。
湿度も高く、空気がまとわりつくように重い。頭上を何かが飛んでいるので見やると、小さな蝙蝠がいた。人には不気味でも、彼らにとっては快適な住まいなのだろう。
先行した三輪の居場所が分からない。道が曲がりくねっていて見通しが極端に悪くなっているからだ。三輪が横穴に入ってしまえば、発見できない可能性もあった。
困っていると、不意に視界が開ける。今まで通ってきた狭い道が唐突に切れており、大きな空間が広がっていた。息がつまりそうな歩みを続けてきた三人は、ほっとして手足を伸ばす。
「遅いわよ」
不満そうな声が聞こえた。広場の片隅から、三輪が姿を現す。傷が増えた様子もなく、いたって元気そうだ。
「無事で良かったわあ」
「妖怪に会いませんでしたか?」
大和と怜香が三輪に聞く。三輪は心底面白くなさそうに、落ちていた小石を蹴り飛ばした。
「忌々しいことにどこにもいないのよ。会ってたら蝙蝠の糞のひとつでも投げてやったのに」
「その度胸は買うが、勝手な行動は二度としないで頂きたい。上官命令です」
さっきから独断がすぎる三輪に、とうとう葵がきつめに釘をさした。三輪は横を向き、雑にわかったわよと答える。
「そう言えば、他の隊員たちが追い付いてこないわね」
「入り口でまだ待ってるかもしれんで。一番乗りをするのは嫌らしいから」
「ちっ、クズめ」
三輪は苛々と愚痴をぶちまけるが、葵はそうでもなかった。
「時間はかかるかもしれんが、奴らも来るだろ。なにしろデバイス持ちが二人ともいなくなったんだから」
葵の言葉が終わるとほぼ同時に、複数の人間の足音が聞こえてきた。程なくして、一般隊員たちが姿を現す。続いて佐久間ら研究者チームが到着した。
加藤は一番最後に現れ、わざとらしくぜいぜいと息を切らしているが、三輪に鼻で笑われていた。
「わ、笑うな」
「指揮官のくせに先頭にも立たないの? 何のためにいるのかわかんないわね」
「お前が言えた立場か。勝手に行動して、部隊を危険にさらしたんだぞ。軍人なら軍法会議ものだ」
加藤がいくら大声をあげても、三輪はあたし軍人じゃないもーんと答えてどこ吹く風である。加藤の握りしめた拳に、血管が浮かび上がった。
「この役立たずが……」
「あらあ? これを見てもそんなことが言えるのかなあ」
三輪は作業着のポケットに手をつっこむ。取り出した時、何かを握っていた。彼女が手を開くと、葵と大和以外の口からうめき声が漏れた。
それは、黄金に輝く小判だった。




